軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第162話 忘れていたけど忘れてなかった

日本人はハグに慣れていない。そんな文化はないのだ。

よくハグをすると安心感を得られてストレスが軽減されるというが、知らない人や嫌いな人間に抱き着かれても不快感とストレスが溜まるだけである。

知っている相手でも抱き着かれたら驚きと困惑しか得られないし。後なんか気持ち悪いんだよね。親愛の情とはいえ、一方的だとただのセクハラである。

子供だろうが女性だろうが関係なくパーソナルスペースが狭い人間は苦手だ。そういうタイプの人間は、ほぼほぼ図々しいと相場が決まっているからね。偏見だけど。

よって俺のパーソナルスペースに無断で入って来た人間は、警戒されて投げ飛ばされても仕方がないのである。

今までは大体シルバやノワルのガードがあったので、ラヴィアンのように投げ飛ばすことってなかったんだけれど。

「せいとうぼうえい」

「うむ。貴様は悪くないぞ」

「だから飛び掛かっちゃダメだって忠告してたのに……」

「ノワルとシルバのガードを越えるとは思わなかったぜ」

「言うこと聞かないんだからー」

「自業自得ってやつっすかね?」

「ノワルもシルバもまだまだ訓練が必要だな」

「……ワフゥ」

「ジャーキーオアズケ?」

「おあずけー」

夫々の感想を口にして、地面に倒れ伏した人物を見下ろす。

周りの護衛役の人たちが物凄く慌てているけれど、アラバマ殿下とアマル様が制しているから大丈夫だろう。

王族が俺の味方になってくれているのでお咎めはなさそうだ。

とはいえこの人は誰だろうか? 俺以外はみんな知っている感じがするんだが。

「しかしアイキドーとは凄いな。この巨漢女ですら投げ飛ばすとは、恐れ入ったわ」

「自ら飛んで行ったようなものですがね」

「まぁ、アレは痛いからな……」

「経験しないと判らない痛みですし……」

「ムスタファもこの境地に至れるまで精進するようにな」

「はっ! 見習います!」

この不審人物。受け身を取り損ねてぶっ倒れているけど大丈夫だろうか?

周りはそれほど心配してないし、遠巻きに眺めているだけなのだが。

それにしてもアラバマ殿下が巨漢女と言うだけあってかなりデカイ。

ポジティブマッチョであるGGGさんたちぐらいあるぞ。身長も二メートル超えてんじゃない?

ちょっと心配になったので、アラバマ殿下の陰に隠れながら伸びろ如意麺棒~と、遠くからツンツンしてみる。

「そのアーティファクトをそのように扱うのか……」

「べんりだよね~」

「使い方が間違っている気がするのは、俺様だけじゃないと思うぞ」

「そう?」

普段はちゃんと料理に使ってるよ。伸びる(伸ばす)麺棒だからね! クッキー作りにも一役買っているのだ。

すると伸ばした如意麺棒を掴み、倒れていた不審人物が起き上がった。

ヤバイ。戻れ如意麺棒~! って。ちょっと待って待って、不審人物までこっちに来ちゃダメだって!

「のびろっ!」

そうして再び如意麺棒に伸びろと念じて不審人物を遠ざけた。

ふ~。危ない危ない。

戻れ如意麺棒~。また掴まれる前に回収しないと危険が危ない。

「貴様、遊んでおるな?」

「あそんでないよ」

「姉上、もうその辺でお止めになって下さい」

「え」

アマル様が額に手を当てて不審人物を姉と呼んだ。

「そうだぞシエラ。いい加減にせぬと、リオンから嫌われても知らんからな」

「え」

なんと、巨漢の不審人物はシエラ王女様らしい。

うん? 王女様で合ってるよね?

「すまぬな。ちと戯れが過ぎたようじゃ」

「え」

そうしてフフフと笑みを浮かべると、不審人物改めシエラ王女様は、ガバッと両腕を広げる。

だがしかし。

「では改めて自己紹介をさせてもらおう、わらわがシエラであるっ!」

「ソイヤッ!」

再び 襲って(ハグって) きたので、俺も再び投げ返してしまったのだった。

「何やらよからぬ性癖が目覚めそうじゃ。もう一度抱き締めてもよいだろうか?」

「やめとけ。このバカ女が」

「アルケミストの怒りを買うとろくなことにはなりませんよ」

「しかしこのわらわを投げ飛ばせる者が、この世にどれだけいると思う?」

「いないだろうな」

「いませんね」

「であろう!?」

なんだこの腹違い三人兄姉弟は。随分と仲が良いじゃないか。

聞いてた話と全然違うぞ。いがみ合ってたんじゃないの?

気安く会話している殿下たち三人を見て、俺は仲間たちへ視線で説明を求めた。

「色々あってだな」

「まぁ、色々あったのよ」

「なんやかんやでね~」

「そういうことっす」

「ふーん」

よく判らんけどそういうことなのか。それがどういうことかはどうでもいいのでそういうことにしておこう。

「おい。やっぱ興味がないようだぞ」

「知ってる~」

「だから説明を省いたのよ」

「リオリオっすから」

「そうだな」

うんうん。面倒だから人様の人間関係には首を突っ込まないのが俺の信条である。

色々あったなんやかんやの話は長くなりそうだし面倒なので、仲良くなれたのならばそれで良しとすることにした。

「だが少しは気にしても良いだろう? リオンのお陰でもあるんだしよ!」

「本人は少しも興味がなさそうだが?」

「ないねー」

ギガンが必死になってあれやこれや言ってるけれど、直接介入した訳ではないので興味はないんだよね。

搔い摘んで説明すると、俺の渡していた嘘発見器とか回復レシピやらもあり、色々な面でとても助けられたとのこと。お陰で様々な問題が片付いたので、こうして感謝の意を伝えるために来たのだそうだ。

しかしその感謝の表れが強制ハグなのは納得がいかない。

アマンダ姉さんやアマル様は止めておくように忠告したそうだけど、耳を貸さなかったので投げ飛ばされたのは仕方がないと思っているようだ。

王族を不審人物扱いして投げ飛ばしてもお咎めがないのはそういうことらしい。

付き従っている護衛や従者のみなさんも俺を不敬だと責めず、逆に恐ろしいモノでも見るような表情で遠巻きにしていた。

失敬だなみんな! 危険人物はシエラ王女様だろうに! 俺限定だろうけど!

「シエラ殿下は強い相手に大変興味をお持ちでな」

「オレらが坊主に投げ飛ばされた話をしたら、興味を持っちまってなぁ」

「いやぁ~すまんすまん」

「……」

現在俺たちは移動中である。

ダンジョン前の屋台広場で騒ぐのは迷惑だからね。

流石に魔道具工房でお世話になり続けるのは迷惑だろうということで、アラバマ殿下が洞窟基地を作ってくれたんだよね。フェネックも増えちゃったし、拡大した農場に近い場所に作った工房へ案内中だった。

ところでこのおっさんズは誰だろうか?

「止めろ坊主っ!」

「そんな目で見ないでくれっ!」

「オレらは不審人物じゃねぇよっ!」

まだついて来るのだが、みんなニヤニヤしてるだけで追い払おうとはしていない。

特にチェリッシュが面白がっているのが気になるんだけど、もしかして俺も知っているのかな?

「ボアの燻製肉を食わせてくれたじゃねぇか!」

「ギョーザパーティで酷い目に遭わされたけどな!」

「だがデミドラゴンのステーキは美味かった!」

うん? そう言われれば何か思い出しそうな気がする。

「諦めて自己紹介したら~?」

「面白がって、サヘールの冒険者風に衣裳チェンジすっからそうなんだよ」

「そのせいで見分けがつかなくなってるんす」

なるほど。このおっさんズはサヘールの冒険者風を装っているのか。

言われてみれば褐色の肌ではないし、地域住民でもないようだ。

俺がおっさんだと思っているだけで、もしかしたらもう少し若いのかもしれないけれど。この世界で俺は子供にしか見えないこともあるが、日本人の基準で見ればこの三人もおっさんにしか見えない。

「オレオレ、オレだよっ! 元農家の三男坊!」

「オレは元狩人だった!」

「オレは―――えっと、なんか超人扱いされてたぜっ!」

「あ~! グラスさんと、ハンターさんと、ハルクさん」

いかん。すっかり忘れてた。

「ひさしぶり?」

「おう。やっと思い出してくれたか!」

「名前すら思い出さねぇとしたら落ち込んじまうわ!」

「危なかったぜ……」

見た目を変えるから別人にしか見えなくなったんだよ。

見た目は忘れていたが、名前はちゃんと覚えていたので褒めて欲しいぐらいだ。

忘れていたけど忘れてなかったので許して欲しい。

「坊主のオレらに対する扱いが雑過ぎるんだが……?」

「もっと頑張りましょうってところね」

「興味が薄いってことだもんね――――はうっ!」

何故か自分で言った言葉にショックを受けているチェリッシュである。なんでだ?

そうしてワイワイと騒いでいるところへ、アマル様が近付いてきた。

こちらも随分と久しぶりである。

相変わらずというか、更に肌艶に磨きがかかっているようだ。きっと侍女さんの趣味が爆発したのだろう。アントネストの美容品の効果は抜群である。

「すまなかったな。姉上は少し、いやかなり、その、変わっておるのだ」

「そうなんだ」

アマル様(&アラバマ殿下)がシエラ王女様を制しつつ、謝罪してきた。

それにしても改めて観察すると、この姉弟殿下の容貌は似ている。だがまるで性別を入れ替えたように真逆なんだけれども。

もしかして生まれてくる前に、シエラ王女様は母体にち〇こを落っことしてきて、ソレをアマル様が拾ってきたのかな? (大変失礼)

まぁそんなことはどうでも良いとして。

シエラ王女様は俺の中で危険人物としてインプットされた。

なんかまだ手をワキワキさせてるし、隙をついて襲い掛かってきそうなんだもん。

「変わってはおるが、乱暴者という訳ではないぞ?」

「そうなの?」

「出来るだけ近寄らせないようにするが、無理であれば先に許可しておく」

「なにを?」

「容赦なく投げ飛ばしてくれ」

「……うん」

それでいいのかサヘールの王族。

病み上がりというか、怪我が治ったばかりなのに投げ飛ばせってどういうことだ。

でもめちゃくちゃ元気そうなんだよね。確かに早く怪我が治るように、回復レシピは渡しておいたけどさ。

でもあんなに早く筋肉って回復するものなのだろうか?

あの治療薬だって即効性がある訳じゃないって話だったし、もう少し時間がかかると聞いてたんだけど。実際に見ればめっちゃムキムキしていた。

筋組織や骨の回復に何が有効だったのか。クマバチのローヤルゼリーか、ボア肉の燻製肉か、それともアントネストで仕入れた爬虫類のお肉類だったのか……他にも色々渡しておいたけど判らぬ。

バホメールミルクで作ったヨーグルトなどの乳製品に、クマバチのローヤルゼリーを混ぜると骨の再生に抜群の効果があると判明してレシピを渡したりした。

なので回復速度をこの目で見たかったようなそうでもないような……。

「そろそろ見えてきたぞ」

俺がブツブツとシエラ王女様の化け物レベルの回復力について考えていると、いつの間にか秘密基地が目前となっていた。

すっかり住み慣れた我が家のような秘密基地である。

アラバマ殿下やフェネックたちと、快適に過ごすために色々と改造を施した工房という名の秘密基地だからね。ディエゴも自重しなかったし。

今からみんなの反応が楽しみだ。ふひひひひ。