軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第109話 番外編3 コロポックルブランド

コロポックルが住むという伝説の森には、今や本当にコロポックルが住んでいるという噂が広まっていた。

心正しき者に妖精から贈られるという幸運に少しでも 肖(あやか) りたいと、冒険者も観光客も増えたド田舎の町は活気づいている。

相変わらず白い悪魔の被害や脅威はあるが、じっと冒険者の行動を見据えるその姿からか、何時の間にやら妖精の守護者へと変化していた。

画期的な調理器具であるホットサンドメーカーを筆頭に、名産品となったコロポックル印の商品の売れ行きも好調で、正にコロポックル様様だ。

「あの坊主がコロポックルだと思っていたんだがなぁ」

名物のボアの熟成肉ステーキを突きながら、ギルマスがぼやく。

彼の頭髪は後退を止め、濃くて太い毛髪が繁っている。

どんな薬草が効いたのかが判らないままだが。

「あらあら。子供はみんな妖精ですよ」

ぶどうの樹の女将にそう言われて、ギルマスは同意するように頷いた。

予約しなければ食べられないコース料理を出すようになり、コテージも連日満員御礼である。

忙しい中、たまに食べるこのボアのコース料理が、ギルマスの贅沢だった。

キャリュフソースの掛かったステーキが実に美味いと思いながら。

「見た目はな……」

そうぽつりと呟き、最初に現れた時のリオンを思い出す。

確かに子供なのだ。見た目だけではあるが。

しかしギルマスは疑っていた。

触るな危険と言われる魔法使いであり、召喚士であるディエゴの弟と紹介されたが、それが事実かどうかを調べることはなかったけれど。

それ以前に、窮地に陥っているド田舎の冒険者ギルドの存続の方が重要だったからだ。なので不問にした。

とはいえ、不問にしたが気になるモノは気になる。

状況が落ち着けば、多少は冷静さが出てくるというものだ。

あの子供が現れたことで、不自然なくらいに状況が改善されていったのもある。

だから疑ってしまったのだ。

もしやこの子供は、あの森に住んでいる妖精が人間の姿となって現れたのではないだろうか――――と。だが何をバカなと自分の考えを一旦否定したけれど。

気になってしまうのは仕方がないだろう。

時折正体を探るように確認しに行ったが、その度に新たな発見というか、大人顔負けの美味そうな料理を作ったりするし、ボアの解体やその毛皮の価値を見出したりと賢さを見せる。

それ以外では、魔昆虫図鑑を真剣に見入っていたり、毛皮を奪われて大泣きしたりと、ただの子供でしかなかったけれど。

しかし、冗談めかしてジョブをコロポックルにした日。棚から物が落ちてくるし、机に置いていた物が無くなるし、何もないところで転ぶといった不幸に見舞われた。

偶然で済ますにはおかしい。妖精の悪戯の範囲を超えていると。

なので益々疑いは深まったのだ。

だから速攻で謝罪をした。

すると己に降りかかる不幸がぴたりと止んだ。

なんとも不思議な出来事であった。

「賢い子でしたものね。アルケミストでしたかしら? 噂でしか知りませんでしたけれど、本当に妖精みたいでしたわ」

「ジョブはコロポックルの方が合ってたと思うがな」

ぶどうの樹の女将に、ギルマスは冗談めかすように笑った。

「この町の名物の商品には全てコロポックルのデザインのロゴが付いてますし、それでいいじゃないですか」

深く追求すると、良くない気がすると女将は言った。

彼女も何かを感じているのかもしれない。

確かにそうだろう。妖精の機嫌を損ねれば、災いを招くと伝えられている。

妖精は美味い物が好きで、不味い物を食べさせると居なくなるという。

きっとここの森に、キャリュフという最高級のキノコがあると知って、現れたに違いないのだ。

だが本人はそのキノコを食べていなかったようだが。何故だろうか?

まぁその件は置いておくとして、やはり妖精はそっと見守るぐらいでいいような気がした。

下手なことをして、嫌われでもしたらとんでもないことが起こりそうだ。

それにリオンが去ってからも、変わらずこの田舎は賑わいを見せている。

だからあの森には、まだコロポックルが住んでいると信じられるのだ。

「そのコロポックルのラベルデザインだが、アントネストのギルマスから、姉妹品として使わせて欲しいという連絡があったんだよな」

「そうらしいですわね」

「知っていたのか?」

「シュテルさんでしたかしら? うちのコテージをよく利用される、ルンペル商会の方がいらして、教えてくださいましたの」

その時にアントネストの商品を色々渡されたそうだ。

だから姉妹ブランドの件も知っていたと言う。

こちらにも徐々にその名産品が入ってきているので、知っていて当然だろうが。

特にその中でもショウユが実に味わい深く、女将の料理にも使われている。

ミリンという調味料にも使える酒は、ここでは食前酒として出されていた。

「ああ、あの一癖も二癖もありそうな商人か。抜け目ねぇよなあ」

あの男もおかしなもので、こんな田舎の森でキャリュフが採れると知って、最初に現れた商人だった。

しかしあの男のお陰で、スムーズに話が進んだのも事実だ。

ただの薬草採取用の森が、実は宝の山であったと発覚したは良い。だがその宣伝をどうしたらいいか判らなかったところに、様々な伝を駆使して広めてくれたのが、あのルンペル商会の会長であるシュテルだった。

領主との交渉も、ほぼあの男が間に入ったことで成立したと言っても良いだろう。

「あちらさんのギルマスが言うには、こっちの名産品と、アントネストの名産品で、正式にコロポックルブランドにしたいつってな。まぁ、あの坊主があっちで色々作ったそうだし、取りあえずこちらも乗ることにした」

この田舎町と同じく、ダンジョンがあるのに不人気だったアントネストだ。

同病相憐れむで、苦労を知る者として少しだけお節介をした。

リオンたちスプリガンが向かう先なので、丁重に扱えとアドバイスをしたのが功を奏したのだろう。

あのスプリガンの連中も、パーティ名に違わぬ過保護ぶりだったし。

妖精(リオン) を護衛するパーティーの名が 妖精(スプリガン) だなんて、よくできた偶然だ。

「あの子が元気にしているようで、こちらも嬉しくなりますわね」

「全く、良い話しか聞かねぇよなぁ」

「そうですわね」

ふふふと、女将は嬉しそうに笑う。

以前はやつれた感じだったが、今ではすっかり明るくなった。

コテージの経営だけでなく、キャリュフを使ったソースやオイル、そしてバターなどの商品の売れ行きも順調で。忙しいのに益々精力的になったようだ。

心なしか若返ったような気がするのだが、気のせいではないだろう。

自分は頭髪が生えたおかげで、現役時代に戻ったかのようだと、周りに持て囃されている。久しぶりにダンジョンで一狩りしたい気分だ。

「なんか良いことでもあったのか?」

だから聞いてしまった。

色艶が良くなり皺の減った容貌は、輝きを放っているように見えて。

確か四十を超えて、自分とそう年齢が変わらない女将である筈なのに。こんなに若かっただろうかと、ふと疑問に思った。

「やだわ。恥ずかしい」

「恥ずかしいって……」

彼女が頬を染めながら、己の腹部を大切そうにそっと撫でる。

それだけで判った。

この歳で目出度いことがあり、恥ずかしがる理由が。

「あの子のお陰ですね。アントネストのダンジョンで手に入った、ローヤルゼリーというのを贈ってくれて、それをヨーグルトに混ぜて食べていただけなんですの」

夫にも食べさせたそうだ。するとお互い若返った気分になって、盛り上がった結果。そうしたら、出来ちゃった。なんて。乙女の様に恥じらいながら頬を染めた。

しかしそのローヤルゼリーとは、アントネストの名産品リストにはなかったように思うのだが……。

「この歳で、子供が出来るなんてねぇ。諦めていたのに、嬉しいやら恥ずかしいやらで、主人も益々森での狩りに熱が入ったみたいなんですの」

この世界では、四十を超えると流石に子供は望めなくなる。

だが見た目が十以上若返って見え始めた彼女とその夫には、実年齢はもう関係ないのだろう。既に年齢不詳なのだから。

「そりゃ、めでてぇな……」

自分だって毛髪が生え、若返って生き生きとしていると言われているだけに。

だがそのローヤルゼリーとやらを、手に入れることはできないものだろうか?

「よろしかったら、少しお分けいたしましょうか?」

あの子が沢山贈ってくれたのでと、彼女からおすそ分けを提案された。

他にも出荷量の少ないハチミツやビーポーレンもあるという。

もちろん断る理由はない。

「是非ともお願いしたい」

まだまだ現役で頑張るためにも、必要な食材のような気がして。

知り合い限定のようなそのローヤルゼリーとやらを、ギルマスは彼女から分けてもらうことにした。

今後も女将経由で、リオンが旅先で手に入れた名産品を、分けて貰えるといいなと思いながら。

結果的に、悩みやストレスのなくなったギルマスの毛髪は更に繁り、コロポックルの恩恵を誰よりも享受することになるのであった。