軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導師は企む ~不安になる人々~

――キヴェラ王城・ある一室にて(キヴェラ王視点)

「ん……? 妙に騒がしいな?」

いくら魔導師が訪れることになっているとはいえ、少しばかり異様である。

と言うか、少し前からサイラスを通じて情報を与えてくることもあって、あの魔導師は無条件に恐れられる存在ではなくなっていた。……少なくとも、この王城では。

夜会においてルーカスと友好的な姿を見せたこともあり、少しばかりその評価は落ち着いた……と思う。

まあ、以前からルーカスやサイラスが魔導師に対して遠慮のない姿(好意的な解釈だ)を見せていることが大きいのだろうが。

……あやつら、時には平気で魔導師を怒鳴りつけたり、叩いたりするからな。

それで報復されないのだから、条件次第、もしくは人によっては大丈夫ということなのだろう。

しかし。

だからこそ、城のざわめきが気になることも事実なのだ。

「陛下……魔導師殿はここに怒鳴り込みに来るだけ……ですよね?」

不安になったらしい宰相が口を開くと、皆の視線が一斉に儂の方へと向く。

どうやら、皆も同じ不安を抱いていたのだろう。相変わらず、あの魔導師は信頼がない。

……。

いや、ある意味では信頼がある……のか?

なにせ、平気な顔して国に喧嘩を売る大馬鹿者なのだ、あの魔導師は!

止める唯一の手段が『親猫からの叱責』という有様なので、それ以外の者が『大人しくしていろ!』と言ったところで、無駄であろう。

そして。

今回は事前に打ち合わせたとおり、『意図的に怒鳴り込んでくる』という状況のはずなのだが。

不安になるのも事実だった。

相手が『あの』愚か者達なのだから!

「……。予定ではそのはずだ」

視線を逸らしながら答えるも、胸に湧くのは『本当に?』という疑問。

「そ、そうですか。その、ブラッドフォードもいるようですし、『多少は』抑えてくれるかと」

「待て、宰相。何故、『多少は』などと口にする?」

「……」

「……」

「そ、その、魔導師殿は今回の一件の発案者である以上、期待に応えてくれるとは思っております。ですが……」

そこで区切ると、宰相はそっと視線を泳がせた。

「失礼ながら、相手があの方々ですので……。余計なことをして、魔導師殿を怒らせる可能性もゼロではないかと」

「う、うむ。儂もそれは案じておった」

儂を始めとし、ここに居る者達はアロガンシア公爵夫妻、特にアロガンシア公爵夫人の愚かさを知っている。

あの魔導師とて自己中心的な性格をしているのだが……我が愚妹は実績もないくせに、『相手を見下す』のだ。

『大国キヴェラの王族、偉大なる王の同腹の妹』という事実が愚妹を付け上がらせたのだろうが、あやつ自身は『子を産んだ』ということ以外、全く国に貢献などしていない。

血を残すことは確かに重要だ。しかし、そんなものはどこの家でも同じであろうし、周囲には世話をする者達が溢れていたはず。

何の苦労もせず、至れり尽くせりという状況だったのだから、『子を産んだ』ということだけで大きな顔をするのは、多くの女主人達への冒涜であろう。

そんな女が、『世界の災厄』を前にしようとも畏縮するのだろうか?

自国の王からの叱責を、『兄からの説教』程度にしか思っていない奴なのに?

「ま、まあ、今回のことはエルシュオン殿下にも相談済みと聞いておる。いざとなったら、親猫殿に諫めてもらおう」

言いながらも、儂の脳裏には金色の親猫の姿が浮かんだ。金色の猫は前足で黒い子猫をしばき、首根っこを咥えて、住処へと戻ってゆく……。

その際、鋭い視線をこちらに寄越すことも忘れずに。ああ、たやすく思い浮かぶ……。

「いざとなったら、公爵夫人に全てを背負って頂ければよいと思います」

不意に聞こえた声の方に視線を向ければ、そこには目を据わらせながらも僅かに微笑むサイラス。

「いつまでも陛下やご子息方の手を煩わせる必要はないでしょう。家や血筋を誇る以上、ご自分で何とかするのは当然のこと。……大丈夫です、あの魔導師は基本的に元凶にしか報復しません」

「……。サイラスよ、そなた、かなり怒っているのか……?」

「死ななければいい、と思ってしまう程度には。先ほどまではもう少し穏やかに考えていたのですが、ねぇ……?」

……どうやら、サイラスも城のざわめきから嫌な予感を覚えているらしい。

それに加えて、妙に物騒な発想を隠さないあたり、サイラスも怒り心頭なのだろう。

ざわめきは徐々に大きくなっている。ちらちらと扉の方に視線を向ける者が増える中、全力疾走したらしき騎士が部屋に飛び込んで来た。

「失礼しますっ! げ、現在、魔導師殿、が、アロガンシア公爵夫妻、を……っ」

「ああ、いい。いいから、落ち着いて話せ」

気の毒になり、息を整えるように促すも、騎士は非常事態とばかりに言い切った。

「現在、魔導師殿が簀巻きにしたアロガンシア公爵夫妻を引き摺りつつ、こちらへと向かっております!」

『は?』

聞こえてきた妙な単語に、儂らは緊張感の欠片もない疑問の声を上げた。

「簀巻き……何したんだ、あの馬鹿二人……」

サイラスよ、気持ちは判るが、声に出ておるぞ。

※※※※※※※※

――キヴェラ王城・ある一室にて

「お邪魔しまーす♪ ちょっとお話聞いてくださいなー!」

扉を蹴り開けると、そこにはキヴェラ王と側近の皆様が集合している。

うむ、事前の打ち合わせ通り! ちゃっかりキヴェラ王の背後に控えているサイラス君や、私達のことを伝えに来たらしき騎士は予想外だけど。

サイラス君はともかく、この騎士はこのままここに居てもいいのだろうか? 情報を拡散させるとか、私達の話し合い(笑)を聞かせる役目ならば大丈夫そうだけど。

……が。

最初に動いたのは、何~故~か、目を据わらせたサイラス君。

サイラス君はつかつかと私の方へと歩み寄ると、無言のまま、私の頭を軽く叩いた。

「痛いじゃないか、サイラス君」

「アンタ、ドレス姿で何をやってるんですか! 簀巻きにした人間二人を引き摺りながら扉を蹴り開けるな! 一応、女性でしょう!」

どうやら、サイラス君は『その服装で何やっとんじゃ!』と説教しに来た模様。

そういや、サイラス君は貴族階級の人だった。マナー云々とか普段は煩くないのだけど、やはり、ドレスのまま扉を蹴り開けるのは拙かったか。

「一応って言うか、女だってば」

「だったら、少しは気を使え! ……エルシュオン殿下に言いつけますよ」

「ごめんなさい」

ジトっとした目のまま『親猫にチクるぞ』(意訳)というサイラス君に対し、素直に謝罪する私。

そんな私達の様子を、キヴェラ王以外がポカーンとした顔でガン見している。

「……。魔導師よ、先日の夜会ぶりだな。あと、サイラスのことは許してやれ。其方を想ってのことだ」

「それは流石に判ってますよ。怒ってませんって」

呆れた様子のキヴェラ王の言葉に、素直に頷いておく。

大丈夫ですよ、報復する気はありません。サイラス君は時々、こういった言動がありますからね。

そのせいで今現在、私からの情報伝達役にされてしまっているわけですが。意外と貧乏くじを引きがちな玩具である。

「それでな、サイラスの発言にもあったわけだが……」

言いながらも、私が引き摺る者達へと視線を向けるキヴェラ王。

「そやつらは一体、何をしでかしたのだ? ……まあ、どうせ碌なことはしておらんだろうが」

付け加えるあたり、キヴェラ王が二人に向ける感情が透けている。側近の皆様方も庇う気はない模様。

そーか、そーか、ある意味、私と同じく信頼がないわけですな。これまでが偲ばれますね!

こういう場合、普通は私の方が不信感バリバリの視線を向けられそうなものだけど……そういったものは『皆無』である。

じゃあ、とりあえず簡単な事情説明をしておこうか。

「いやぁ、先日の夜会で、私の服装に大層不満があるご様子だったので。ブラッドさんに協力してもらって、この服装で公爵家を訪ねたんですよ」

「ふむ、確かに言っておったな。ところで、色彩や髪形まで変えたのは……」

「気付かなかったら笑えるなー♪ とか思ってました。ささやかな遊び心です」

「……」

「本当に気付かれなかったんですけどね。はは、ないわー」

『え゛』

皆の声が綺麗にハモる。キヴェラ王は呆れたような視線を簀巻き二人に向けた。

「記憶力もないのか、お前達……」

「素直に馬鹿と言ってもいいのでは」

「む……。一応、な」

聞こえているか、簀巻きども。お前ら、早速、馬鹿扱いされとるぞ?