軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キヴェラ王の叱責と皆様の反応

簀巻きにしたお馬鹿さん二人を引き摺りつつ、盛大に扉を蹴り開けた私を待っていたのは――

「……」

サイラス君とキヴェラ王以外の、ポカーンとした顔。

……。

いや、キヴェラ王も顔には出ていないだけで、唖然としているっぽいけどさ。

一応、今回のことは事前に通達済みである。キヴェラ王にも『側近の皆様に説明お願いね♡』と言っておいたので、問題はない……はず。

そう、この場にいる人達――私が来たことを伝えに来たらしい騎士は除く――は私が怒鳴り込んでくる(予定)ことを知っていたはずなんですよ。

なのに、その反応は何故だ。

当然、馬鹿二人も連れて来るに決まってるでしょ!

「アンタが悪いんでしょうが」

ジトっとした目を向けてくるのはサイラス君。

「怒鳴り込むにしたって、人を引き摺るな! ドレス姿で扉を蹴り開けるな!」

「今更じゃん」

「アンタの所業に慣れている人ばかりじゃないって言ってるんですよ! 『一般的に』ドレスを着た女性は淑女の所作を求められるに決まってるでしょうが」

「淑女……」

思わず、簀巻きの一人――公爵夫人へと視線を向ける私。

サイラス君もそれに気がついたらしく、深々と溜息を吐く。

「その方は除外で」

「いや、除外って……。『これ』、一応、公爵夫人で、キヴェラ王の実妹……」

「あはは! おかしなことを言いやがりますねぇ?」

「それこそ、今更だってことですよ。……誰も期待してませんので」

怒りの笑顔を浮かべたサイラス君は、あっさりと言い切った。あら、今回ばかりは彼も言葉を飲み込まないご様子。

対して、キヴェラ王はそんなサイラス君を咎めるどころか、納得の表情だ。

どうやら全面同意するあまり、彼の発言を咎める気はない模様。寧ろ、『よくぞ言った!』とばかりに頷いている。

公爵夫人……? あんた、日頃から何やってたの……?

いや、他国の人間である私の前ですら、被害者達はこいつらへの不満は隠していなかったけどね?

それにしたって、キヴェラ王までこの態度ってのは、か~な~り珍しい気がするんですが。

ただ、キヴェラ王以下側近の皆様の『誰からも』、私に対する苦言やら、不敬といった『咎める言葉』がないことで少しは現実が見えたのか、公爵の方は大人しくなった。

……。

そだな、普通はこの状況って、許されるはずはないものね?

どれほどクズだろうと、相手は公爵夫妻、そして正真正銘、キヴェラ王と血の繋がった王族様。

こいつらがどうこうというわけではなく、『偉大なるキヴェラ王族になんてことを!』という方向で怒る人は居るんじゃないかと思っていた。

ぶっちゃけ、『王家の血への侮辱』という方向での怒りです。

『こいつらの所業はともかく、堂々と王族の血を侮辱すんな!』ということですな。

それなのに、今回は許されてしまっているのだ……そりゃ、ボンクラ公爵でも『既に守る価値はないと判断されている』って気付くわな。

そんな傷心中・苦悩中(笑)の皆様には、とっても申し訳ないのですが。

「とりあえず、公爵家で何があったかをご覧ください……魔道具に記録されていますから」

「うむ、そうか」

「そして当然、今後、イルフェナにもこの映像が提出されます」

「……」

黙った。先ほどとは別の意味で、皆様の顔色が悪い。

ま、まあ、一応は事情説明がしてあるので、いくら過保護な魔王様とて、私が殴られたことでは怒るまい。

寧ろ、今後の私の所業の方に頭を抱えられるだろう……過剰報復というか、あんまりにも報復内容が酷過ぎて。

「それではご覧ください……つい先ほどの出来事です」

――そして。

先ほどまでの公爵家での遣り取りを見てしまった人達は。

「……。お前は人を見下さなければ死ぬ病にでも掛かっているのか」

公爵夫妻、特に公爵夫人へと冷たい視線が集中した。

ああ、他には驚愕の表情のまま凍り付いたり、死んだ目で眺めている人も居るかな。

あれですね、『お前ら、あの魔導師にこの態度って正気か!?』ってことですな。

キヴェラにおける私は一部を除き、マジで災厄扱い。その前提があるなら、公爵夫妻の行ないは『第二回キヴェラの災厄』(意訳)の発端になりかねないと思ったのだろう。

まあ、このままでは話が進まんね。さて、煩いだろうけど、猿轡は外しますか。

「……っ、お、お兄様! この無礼極まりない魔導師に、厳しい罰を与えてくださいませ! いえ、イルフェナにも抗議を!」

猿轡を外した途端、元気いっぱいに喋り出す公爵夫人。その目は憎しみのせいか、鋭く私を睨みつけている。

……。

は は 、 全 く 怖 く な い な 。

も っ と 惨 め に 喚 け 、 年 増 。

「ぐ……!?」

笑顔のまま、無言で公爵夫人(※簀巻きの状態)の背を踏みつける私。

……ああ、ブラッドさんはどうしたのかって? 無表情のまま、ご両親を助ける素振りすらありませんが、何か?

「こ、この、またしても……!」

「煩いな。馬鹿なことしか言わないし、どうしてこの場にいる人達が顔色を変えたかも理解できてない。馬鹿だ、馬鹿だと思っていたけど、その頭は本当に空っぽなんじゃない?」

「何ですって!」

「ヒスるな、年増」

「このっ……公爵夫人、いえ、偉大なる大国キヴェラの王の実妹たる私にこのようなっ」

「あんたをキヴェラの王族扱いすることこそ、王族の皆様に対する侮辱じゃない。あんたみたいな愚か者、今の国王一家に居ないわよ」

「な……」

「私、魔導師。この国だけじゃなく、各国の王族や高位貴族とも付き合いあるの。王族や高位貴族が『どういう存在か』知ってるの。あんた、ただ血を引いただけ。威厳も、知識も、覚悟もゼロ」

ぽんぽんと言いたい放題に言う私に、ブラッドさんが少しだけ表情を緩めた。『国王一家に愚か者は居ない』と、被害者である私がこの場で言い切ったことが嬉しかったのだろう。

サイラス君も多少は怒りが収まったらしく、大人しく護衛の立場に戻る模様。今度は叱られなかったので、サイラス君も私に同意すると見た。

大丈夫ですよ、ブラッドさんにサイラス君。

言いたいことは悪意を五割くらい盛って、私が全部言いますからね。

寧ろ、部外者にこれくらい遣られなきゃ理解できるか怪しい。

正確に言うなら……『言いたい放題した者が咎められないどころか、【よく言った!】とばかりに称賛される』という状況から、自分の立場やどう思われていたのかを察する。

ぶっちゃけ、騎士ですら動かないのです。普通ならば、不敬罪待ったなし! という状況なのにね。

「まあ、こんなことがあったわけですよ。私の怒り……いえ、この状況に納得してもらえました?」

「……ブラッド」

「大変……大変情けなく恥ずかしいのですが、嘘偽りない真実です。魔導師殿の怒りも当然かと」

「そうか……」

ブラッドさんに確認後、揃って深々と溜息を吐く二人。

先ほど、キヴェラ王が『お前は人を見下さなければ死ぬ病にでも掛かっているのか』と言っていたけど、そう思わなきゃやっていられない愚かさです。

「へ、陛下……妻がとんでもない愚行を犯したことは謝罪いたします。ですが! 魔導師殿の言動とて問題があるのではありませんか!?」

このまま黙っていても許されることはないという気配を察したのか、公爵が懇願のような声を上げる。

しかし、それはこの状況において逆効果だ。反省する気がないという態度は勿論のこと、『妻が悪い』とは認めても、『自分も悪い』とは言わなかったのだから。

その考えは間違っていなかったらしく、キヴェラ王と側近の皆様が一斉に無表情になる。

「ほぉう? そうか、アロガンシア公爵はそう思うのか」

「っ!?」

あまりにも冷たい声と表情のキヴェラ王に、公爵はびくりと肩を震わせた。

公爵の忙しなく動く目、その態度が、『誰かが助けてくれることを期待している』と告げている。

おそらく……公爵はいつもこんな風に『誰か』に守られていたのだろう。

だが、それは公爵に人望があったとかではなく、ただ第二王子殿下と側室様のためを想ってのことだったと推測。

……誰も助けないからね、今。事前に今回の計画が通達されていたならば、そりゃ、誰も動かないでしょ。

「キヴェラを敗北させた魔導師の怒りを買ったこと、魔導師の唯一の抑止力とされるイルフェナのエルシュオン殿下への無礼、そして……自分には非がないと言わんばかりの言葉」

「え……その、確かに妻を諫められませんでしたが」

「甘いわ! 必要ならば、殴ってでも止めよ! いくら元王女とて、今は公爵夫人に過ぎぬ。当主たるお前が黙らせぬならば、他の誰ができようか」

「う……」

『当主であるお前にも非がある』とキヴェラ王から言われ、言葉に詰まる公爵。反論は……無理だろうな。

「息子達の言葉が届かぬならば、当主であるお前が妻を裁くべきであろう! なのに、流されるばかりとは情けない! 貴様、それでも大国キヴェラの公爵か!」

キヴェラ王は公爵の方にも随分とお怒りだった模様。ここぞとばかりにお説教モードになっている。

一応、公爵単体では害がないようなことをルーカスが言っていたけど、一国の王としての視点では違ったものが見えるはず。

アロガンシア公爵はまさに『大国キヴェラの公爵として相応しくない人』だったわけだ。

ただ、人は生まれる場所を選べないし、キヴェラには戦狂いという人災もあったので、多少は同情しなくもない。

……。

出来の悪い自己中王女を娶らされたことだけは。それは本当に気の毒だ。心底、同情する。

ああ、公爵として力不足なのは同情しないよ? だって、本人が変わる努力をしてないんだもの。

まあ、それはそれとして。

「キヴェラ王陛下ー。とりあえず、殴られた報復だけはしていいですか? あ、そちらのお説教は続けていて構いませんから」

徐に公爵夫人の胸倉を掴めば、恐怖に引き攣った顔――しかし、気の強さは健在らしく、震えながらも睨み付けてくる(笑)――になる公爵夫人。

「む? ああ、確かに殴られておるな。そうか、『まずは』そこからか」

「ええ、一番軽いですしね。私個人のことなので」

一番の地雷は当然、魔王様のことです。

私どころか、騎士寮面子という猟犬達がスタンバイしております。

「お、お兄様! どうか、御助けを!」

「黙れ。……いいぞ、好きにしろ。ただ、怪我は治してほしい……今後があるからな」

「了解しました!」

『まだ終わらねぇぞ』と、殺る気を見せるところが素敵です。

妹への労わりではありません。次が控えているから、怪我を理由に休ませたくないだけですな!

「では、早速♡」

にこりと笑って、上機嫌に公爵夫人へと向き直る。

「ひ……」

「私は十倍返しが信条だ。十発くらい耐えろ」

さあさあ、女同士の喧嘩ですよ♪ ……往復ビンタといきましょうか、年増様。