軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馬車の中で内緒話

――アロガンシア公爵家へ向かう馬車の中にて

「さあ、女同士の喧嘩の始まりですよー♪」

上機嫌で扇子――見た目では判らないが、防御と攻撃に使える強化版――を弄ぶ私を、同乗しているブラッドさんが心配そうに眺めている。

ブラッドさんは実子である以上、己の両親がどのような人物か私以上に知っている。

そのせいか、私のことを案じたり、これからのことを申し訳なく思ったりすることはあれど、『一度も』両親――特に、公爵夫人を心配する様子はなかった。

おい、公爵夫妻? お前ら、実の息子に何をやったのさ?

特に母親。私は『最初に手は出させるけど、後から〆る』と断言してるんだけど?

お母様に対する心配はないのかなー? 私、キヴェラを敗北させた魔導師よ?

……。

そ れ で い い の か 、 息 子 。

「ブラッドさーん……」

「何かな? 魔導師殿」

「物凄く今更なんですけどね? ご自分の両親が心に深~い傷を負う可能性があるんですけど、それは宜しいので?」

ほら、一応、公爵の方は真面目に仕事をしていたみたいだしね?

今後の領地運営に、多大なる支障が出る可能性がある……という心配もあるじゃない?

私のそんな気持ちを察したのか、ブラッドさんは小さく笑って頷いた。

「心配してくれるのかい?」

「領民達や仕事に携わる人達『は』巻き込まれるだけですからね」

そう、彼らは何も悪くない。

アロガンシア公爵夫妻がアホなだけであり、彼らへの制裁の余波を受けてしまうだけだ。

キヴェラ王がアロガンシア公爵夫妻に強硬手段を取らなかったのって、そういう点を心配したからじゃないのかね?

こう言っては何だが、公爵夫妻がアホな言動をしていようとも、自国内ならば対処が可能だった。

仕事は補佐を増やし、公爵夫妻には王家から使用人という名の監視を付ければ、とりあえず時間稼ぎはできたから。

他国に公爵夫妻のことを嗅ぎつかれても困るので、キヴェラ上層部としては『本人達に気付かれないように飼い殺す』という方針だったと思うのよ。

……が。

彼らの愛娘(笑)リーリエがそれを壊してしまった。

リーリエ嬢によってアルベルダに『アロガンシア公爵家』の存在が露呈し、その困った所業の数々が知られ。

その後、魔導師である私に話が行き、その対処法として『他国の人々』が呼ばれてしまった。

総合的に見れば、『アロガンシア公爵夫妻は血を残すためだけの存在であり、キヴェラで何の力もない困ったさん』(意訳)と他国に知られたので、キヴェラ側の負担は減ったと思う。

各国の王家にその状況が知られている以上、縁談を持ちかけようとは思わないだろうからね。

しかし、その情報を知らない『お馬鹿』にとっては、『誰も手を出さない優良物件』であって。

結果として、バラクシンのブレソール伯爵みたいな奴が接触を試みてきたわけですよ!

誰も手を出さない=何かしら事情がある、もしくは『触るな、危険』。

こんな発想に至らない奴は、『お馬鹿』以外の何物でもない。

ただ、アロガンシア公爵家を潰したり、醜聞塗れにするわけにもいかないから、キヴェラも困ったのだと推測。

お飾りだろうと、ブラッドさんの弟さんが公爵家を継ぐまでは、あの公爵夫妻に現在の地位に居てもらわなければならないのだから。

……。

多分、ひっそり隠居&社交界から追放を狙っていたと予想。

あれですよ、建前的には『王太子となった第二王子殿下を支えるため、側近である息子に爵位を譲り、隠居』的な感じ。

あくまでも次代を見据えた判断だと、周囲に見えるようにすることは可能だしね。

建前的には『後を若い者達に任せて、現公爵夫妻はその地位を退いた』。

本音は『お前ら、二度と表舞台に帰ってくんな☆』。

これくらいの差がある気がするけど、前者ならば綺麗な終わり方じゃないか。公爵家としての面子も守られる。

そんなシナリオをぶっ壊してくれちゃったのが、リーリエ嬢&アロガンシア公爵夫妻。

キヴェラ王も怒るわけですね! 無理なく退場させようとしていたのに、この仕打ち。

アロガンシア公爵はそんな『お馬鹿さん』ではあるのだけど、その余波を受ける領地&領民の皆さんはたまったものではない。

と言うか、公爵がまともに仕事をしていた以上、公爵『だけ』は妻や娘と違い、領民達に慕われていたかもしれない。

私の懸念は主にこれ。彼らの不満はブラッドさんと弟さんに向かう可能性があるからだ。

ただでさえ仕事の引継ぎなどがあるというのに、領民達から反発とか来た日には、心身ともに疲労しそう。

そこに加えて、小賢しい(笑)という評価のリーリエ嬢や、現状に不満のある公爵夫人が絡んだら……ねぇ?

そんなことをつらつらと話したら、ブラッドさんは驚いた表情になり。何故か、嬉しそうに笑った。

うん? な……何か喜ぶような要素、あったかな!?

「そうか、君は領民達や私達のことを心配してくれるのか」

「まあ、そういう方向に持って行く元凶ですからねー」

私は正義の味方じゃありません。寧ろ、アロガンシア公爵領に災いを招く黒猫です。

キヴェラ王公認とはいえ、これは事実。『キヴェラは黒猫の招いた災いを利用し、アロガンシア公爵家を整える』のだから。

そうでなければならないし、それが公式見解となるだろう。間違っても、王家が主導したのではない。

王家主導となると、第二王子殿下の立太子にも支障が出てくる可能性がある。それは拙い。

逆に、私ならば悪評が一つ増えたところで何の問題もないだろう。寧ろ、アロガンシア公爵夫妻とは揉めたので、『やっぱり、やったか』くらいにしか思われまい。

ブラッドさんが過剰なほど私に申し訳なく思い、案じてくれるのはこのためだ。悪役にしてしまって申し訳ない、と。

別に気にしなくていいのにね? 今更だし。(※重要)

寧ろ、これまでもっとヤベェことをしまくってますよ! イルフェナ的にも『アウト!』としか言いようがないものも一杯さ……!

「何て言うか……キヴェラは今まで、他国に対して恨まれることをやってきたからね。だから、『誰かに助けてもらう』という経験が新鮮なんだ」

「まあ、キヴェラという国としての方針もあったでしょうしね。私だって、この国の内情に関わったりしなければ……もっと言うなら、キヴェラ王陛下が他国に歩み寄る姿勢を見せなければ、協力者にはなっていないと思いますよ?」

そもそも、キヴェラで最も尊敬される『王』を殴っております。大国としてのプライドも木っ端微塵さ。

正直、よくぞそんな奴を信頼する気になったな、というのが私と騎士寮面子の本音です。

だって、私達が魔王様をそんな目に遭わされたら、とことん祟るもの……!

「あっさり言うねぇ」

「まあ、私は異世界人なので。部外者としての意識が強いんだと思いますよ」

ぶっちゃけ、それが根底にあると思うんだ。そもそも、私は戦狂いやキヴェラの被害に遭っていないんだし。

だが、ブラッドさんは別の解釈をしたようだった。

「異世界人か……。たしかに、異世界人は本来、この世界には存在しない者だね。……。ねぇ、魔導師殿? 今回のことだけでなく、君は『本来、この世界の者が背負うものを背負い、結果だけをこの世界にもたらしている』。それを『利用されている』とは思わないのかい?」

「……」

なるほど。確かに、私は『誰かが背負うはずだった業』を肩代わりしていると言えるのかもしれない。

悪役上等! な精神で行動する上、各国の協力者達が好意的な評価をしているからこそ、『厳しさを併せ持つ断罪の魔導師』なんて呼ばれもするのだ。

実際には『売られた喧嘩は買え・報復は十倍返し』なので、『厳しさ』なんて上等なものではないのだが。ただの報復です、心と体への暴力です。

ブラッドさんはそれを超好意的に解釈した結果、私を『利用されることを甘受し、悪役となって結果をもたらす存在』のように思ったのだろう。

……。

誰 の こ と ?

そ ん な 自 己 犠 牲 に 溢 れ た 人 物 は 居 ま せ ん が ? ?

私だけじゃなく、グレンだって首を傾げるだろう。『そんな奴は居ねぇよ』と!

そもそも、ブラッドさんは勘違いをしている。

確かに、私は良い方向へ向かうための道筋は整えただろう。その結果に感謝されもした。

しかし、その影には犠牲者と言うか、『本来ならば関わらなかった人』や『断罪されなかった人』が存在する。

これ、『部外者が好き勝手遣った挙句、犠牲者を増やした』とも言えるじゃないか。

何より、私は任されたお仕事限定で動くので、基本的に『後は任せた!』とばかりに退場している。

その結果、その国の人達が必然的に『ここまでしてもらったのだから、後は自分達で!』という発想になるんだよねぇ。

だから、本当の意味で事態を好転させているのは『私の後に頑張った人達』。私は切っ掛けにしかなれないのだよ。

そういったことを暈して言った後――

「この世界に来てから、過保護な保護者様に守られているので」

魔王様に丸・投・げ☆

『愛情深い親猫様に守られているから、それが当たり前なのよ~』的な意味に繋げてみた。

う……嘘じゃないぞ!? 魔王様が居なかったら、私はこの世界のために動いたとは思えない。

それはグレンだって同じだろう。グレンの場合はウィル様だけどさ。

私の言い分は、これまでの私の情報を得ていたブラッドさんにはしっかりと通じたらしく。

「そっか……確かに、君はあの方の背を追ったと言われているからね」

納得してくれた。

……。

魔王様。どうにも勘違いさせた気がしなくもないですが、キヴェラに一人、貴方へと好感を持つ人が増えたようです。

嘘は言っていないので、許してくださいね。