軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦準備 其の一

――キヴェラにて

魔王様へと手紙を送り、事情説明と共にドレスや装飾品をこちらへと送ってもらって。

めでたくドレス使用の許可も貰い、とりあえずの準備は完了した。手間だが、これは仕方がない。

いや、だってねぇ……そもそも、あのドレスって普通じゃないのよ。

ゆえに『何に使うか』『何故、必要か』という説明は必須。私の滞在地がキヴェラということもあるだろう。

……。

アル達なら、『殴り込みでもする気か?』とか思ってそうだ。

揶揄っているとか、適当なことを言っているとかではなく、割とガチな心境で。

「……見た目は普通のドレスだな?」

届いたドレスを前に、ルーカスが不思議そうに口にした。ヴァージル君も似たような印象らしく、困惑気味な様が窺える。

対して、私は生温かい目で、そんな彼らを眺めている。

理由は簡単、『あの』誘拐事件の時のことをバッチリ覚えているからであ~る!

そのドレス、フリルとかレースが強化されてるんだ。しかも、簡単に外れるんだ。

罠に使ったり、人(意訳)を縛ったり、耐久力もバッチリさ!

他にも、必要以上に布がたっぷりと使われているので、足に武器などを隠すことも可能です。

隠しポケットも当然あるし、スカート部分の裏に付いた紐をウエスト付近のボタンに引っ掛けることで、即席の簡易スリットにもなります。

そして、装飾品は勿論、魔道具仕様。包みボタンは魔石だったり。

誰がどう見ても、戦闘前提装備です。行先は舞踏会じゃなく、戦場さ。

「見た目でバレないようにしてあるからね!」

「確か、令嬢の振りをしたんだったか? それならば、当然だな」

ええ、ご令嬢の皆様方には全くバレませんでした。これは一緒に居たクリスティーナの印象も影響したのだろう。

あの子は本当に普通のお嬢さんだもんな。騎士s同様に、特殊能力持ちだけど。

まあ、私が誘拐の被害者に見えていたのは、行動を起こすまで。

『色々と』(意訳)仕掛ける、お転婆なお嬢様でしたもの。最後は犯人どもを吊るして、鋏の音を聞かせていたからねー♪

「しかし、これが身を守るための装備と言っても、顔といった露出している部分には効果がないんじゃないかい?」

事前に『殴られる予定です』と伝えてあるせいか、ブラッドさんは心配そう。

……まあ、そうですね! でも、それもこちらの作戦の内なので、下手に防いでしまった方が問題だ。

「いやぁ……とりあえず『公爵夫人に殴られる』っていう『事実』が必要なので、それは仕方ないですね。多少の怪我もあった方が説得力はあるし、少しでも血が出たら大勝利! と考えてますよ」

そもそも、先に向こうに手を出してもらわにゃならんのだ。私から手を出すと、色々と拙いし。

口の端を切ったり、爪で引っ掻き傷とか付けてくれないだろうか。誰が見ても、女同士の喧嘩的な印象になるやつ。

「それは判っているんだけど……あまり良い気はしないね」

自分の母親が加害者になる(予定)からか、ブラッドさんは申し訳なさそうだ。

騎士であるヴァージル君とサイラス君も似たような心境なのか、複雑そう。

……が。

今回の責任者であり、ある意味、この面子の中では私に最も理解があるだろうルーカスは、そんな彼らを見て、呆れ顔。

「お前達、こいつを何だと思ってるんだ? こいつは俺と殴り合いをする生き物だぞ? と言うか、そもそもこの作戦自体がこいつの発案だ。普通の令嬢を基準にしない方がいい」

「ルーちゃん、言うねぇ」

「報告という状態と言えど、お前のこれまでの所業を知っているのだぞ!? ……素直に殴られたことなどなかろう? 寧ろ、先に手を出させるよう、煽っていたんじゃないのか?」

「うん♪ いやぁ、自称プライドが高いお貴族様って簡単に怒るから、超やりやすい♡」

「戯けが!」

頭が痛いと言わんばかりに、後頭部に一撃を見舞ってくるルーカス。

……痛いじゃないか、ルーちゃん。仕方ないことなんだから、温かい目でスルーせんかい!

「……よく判りました。アンタに少しでも同情した俺が馬鹿だった」

煩いぞ、玩具。自分への攻撃を逆手に取って反撃する、賢い方法じゃないか。

頭痛を堪えるような表情をするでない! 立派な戦法じゃん!

……などと馬鹿な話をしていると、キヴェラ王が部屋にやって来た。どうやら、作戦の確認に来た模様。

「……随分と楽しそうではないか」

呆れを多大に含んだキヴェラ王の表情と声音に、全員がそっと視線を逸らす。

……。

あの、遊んではいない……ですよ? ちゃ、ちゃんと真面目にやりますからね!?

そんなことを考えていると、キヴェラ王は表情を改めた。自然と、私達の背筋も伸びる。

「迷惑をかける」

たった一言。

だけど、そこに込められた感情はとても重い。

そもそも、一国の王は簡単に頭を下げられない。魔導師が相手だろうとも、国の絶対者だからこそ、下げるべきではない。

……彼の背後には、多くの臣下や民達が居るのだから。

『従う者達を守る強者』でいなければならないのだろう。特に、大国と呼ばれるキヴェラでは。

「お気になさらず? 私は夜会の時に売られた喧嘩を買いに行くだけなので」

「ほう?」

嘘ではない。あれは多くの人達にも目撃されているので、今回も納得してもらえるだろう。

「魔導師だと判りやすいようにしたのに、ドレスを纏っていないことがご不満だったようですから。ええ、しっかりと見せてやりますよ。……『私がドレスを纏う意味』を理解していなかったとしても」

本来、私はドレスを纏う身分ではないし、その必要もない。

例外となるのが『お仕事』(意訳)に必要な時なので、普通のドレスを持っていなくとも不思議はないのだ。

それを『見たい』と言うならば、ねぇ? それなりの覚悟はしてもらいませんと。

「うむ、そうか。これは気遣いをさせてしまったな」

「キヴェラには特に思うことはありませんので、ご安心を。ルーちゃん達やブラッドさんとも普通に仲良しなので」

茶番と判っていようとも、わざとらしく言葉を口にするキヴェラ王。そして、私もその茶番に沿った返しを。

ええ、そうですよ。これはあくまでも『魔導師の気遣い』であり、『魔導師とアロガンシア公爵夫人だけの問題』なのです。

やがて、キヴェラ王の視線はブラッドさんへと向いた。

「……ブラッドよ、久方ぶりにルーカスの下に戻ったばかりだというのに、其方も災難だな」

「いいえ、陛下。我が親のことでありますので、当然のことと思っております。寧ろ、魔導師殿を始めとする皆様に迷惑をかけたことが、恥ずかしくてなりません」

深々と頭を下げるブラッドさんを見つめるキヴェラ王の目には、若干ながら哀れみが浮かんでいる。

哀れむ必要はないと判っていても、キヴェラ王にとっては己が息子と共に成長してきた甥っ子だ。

その優秀さゆえに、ブラッドさんは両親の愚行を理解できてしまっている。

アロガンシア公爵夫妻の役目を決めたキヴェラ王としては、思うところがあるのだろう。

そんなキヴェラ王の心境を察したのか、ブラッドさんは姿勢を正すと口を開いた。

「陛下。陛下の御決断はキヴェラの未来のため、必要なことでした。無自覚とはいえ、血を残すという大役を賜り、本来ならば淘汰されていたかもしれない愚か者が生かされたのです。未だにその幸運に気付かぬ我が両親こそ、王家の皆様に詫びねばならないでしょう」

「そうか」

「はい」

「だが、その果てにお前達兄弟が生まれているのだ。それは十分な功績と思うぞ」

「ありがとうございます」

ほっとしたように、感謝の言葉を口にするブラッドさん。

キヴェラ王との遣り取りを見守っていたルーカス達も、どこか安堵したような表情になっている。

……。

どうやって、あの夫婦からこんなまともな息子さんができたんだろう?

いやいや……マジで遺伝子の神秘と言うか、突然変異にしか見えないんですが!?

あ、そうだ。

折角、ここにキヴェラ王が居るのだ。ついでに『おねだり』しちゃおっかな♪

「キヴェラ王陛下、今回のことって一応、私の仕事扱いにしてくれるんですよね?」

「ん? うむ、そうだ。何だ、何か欲しい物でもあるのか? 珍しいな」

「物が欲しいというより、お願いを聞いて欲しいんですよ」

『わざと殴られる』という作戦を知っているせいか、キヴェラ王は私の『おねだり』を聞いてくれる模様。

おお、好感触! これならば大丈夫そう。

「実はですね――」

さあ、キヴェラ王に『おねだり』……いや、交渉をしましょうか。

大丈夫! これ、キヴェラにも利があることだからさ!