軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

踊る愚者に喝采を 其の一

あれから、地味に色々と準備が進められた。夜会まで日がないこともあり、主な準備は記録型魔道具の設置と情報収集だ。

魔道具の方は『何か映ればいいな♪』とばかりに、大量に仕掛けられている。

なお、魔道具の提供元は黒騎士達だ。かかった時間と量を見る限り、総出で頑張ってくれた模様。

イルフェナ側にも当然、この話は伝わっている。魔王様曰く、『娯楽じゃないんだから……』とのことだが、皆は大いに盛り上がっているらしい。

……どうやら、あの誘拐犯の片割れ(=商人に扮した魔術師)には早々に飽きたっぽいんだよね。あの程度の小物など、彼らの玩具にもならなかったに違いない。

この罠を実行するに至って、皆からは概ね『奴らは、予想通りのことをするんじゃないか?』という意見を貰った。

ですよねー、『民間人を重罪人にする、最も簡単な方法』を試すと思うよね。

『お前を無知な異世界人と見下している今なら、いける!』とは、騎士ズの言葉である。どう頑張っても、礼儀作法その他は生粋のお貴族様に劣るので、そういった点から安心しているだろう、という見解だった。

うん、私もそう思う。ドレスを着なければ、その思い込みも更にアップ! 『貴族の常識に疎い民間人(笑)』と思ってくれるに違いない。

ドレスを着ないのも、民間人としての印象を強めるためである。

でも、礼儀作法が付け焼刃ってのも事実。本来、民間人には不要です。

日々の態度にも、着々と罠は仕込まれているのだよ。南じゃ無理でも、北ならまだ騙せますわ……!

私に対する世間の認識って、大半が『異世界人の魔導師』なんだよね。あれだ、『能力のある民間人』的な感じ。

異世界人ということが知られている上、夜会になんて出席しない――仕事の場合は除く――ので、少し情報収集したくらいでは、どの程度の教育が施されているのか、全く判らんのだ。

魔王様の教育が『遣り過ぎ』と言われている以上、通常の異世界人の教育には、貴族としての常識など含まれないに違いない。習ったとしても、民間人が知る程度のものだろう。生活の場が貴族社会にならない限り、必須ではないのですよ。

私に鬼教育が施されているのを知らなければ、『異世界人の魔導師は有能だが、貴族の常識を知らない』という認識をするだろう。私の言動がぶっ飛んでいるので、余計に信憑性は増す。

先日の茶会での一幕も、大いに役立ってくれるだろう。王弟妃殿下に対する態度じゃねぇよな! あれは。全く後悔してないけど。

こんなところでも、親猫様の教育はお役立ち。

アホ猫呼ばわりされる私の言動にも、立派に価値があるじゃないか……!

そして、準備を進める中、中々に面白い情報も上がって来た。王弟派貴族の皆様は夜会を警戒し、互いの家を行き来しているらしいけど……どうにも、行動を起こしそうなのがいるらしい。

『ある貴族達』が不審な動きをしてるんだってさ。二人がかりで挑んでくれる模様。

うふふ〜、良いぞ、良いぞ♪ そうでなくては、罠を張った意味がない。

警戒されていることも事実だから、何もしてこない可能性もあったんだよね。罠を張った側としては、その勇気ある行動に拍手喝采です!

「今、行動しておけば、それなりに点数を稼げると思ってるんだろうね」

「自滅する可能性や、事態の悪化を招く可能性もあるから、慎重な人達がいるのに?」

「誘拐に関わっていたり、何か拙いことがあるのかもしれないね。泥船から逃げられないなら、必死に足掻くんじゃないかな?」

「なるほど〜」

以上、シュアンゼ殿下との会話である。どうやら、行動する人が出ることを確信していたらしい。

……おそらくだが、私に話せない内部事情とやらがあるんだろう。王弟殿下、もしくは王弟派の有力貴族達との繋がりをなかったことにできないから、行動するしかない……という感じか。

まあ、貴族社会って色々あるものね。生贄役お気の毒様、としか思わんが。

そいつらへの慈悲? ないない! がっつり利用させていただきますよ。

今回が唯一、簡単に済む案件かもしれないもの。盛大に利用させてもらおうじゃないか、この後暫くは、膠着状態になるだろうしね。

ありがとう、捨て駒様! 貴方達の犠牲を無駄にはしないよ!

「……。魔導師殿、シュアンゼは君が狙われているって言ってるんだけど」

「最高ですね! 向こうの有責、確定じゃないですか。折角なので、二、三個、表に出せない悪事を盛ります? どうせ、先なんてないんですから、ついでに持って行ってもらいましょうよ」

「いや、だから……何で、君の方が悪党に聞こえるのかな!? 明らかに、君の方が性質が悪いよね!?」

「あはは、褒めても何も出ませんよ? それに、私のこの性格は今更です。南に属する国の上層部、その一部において『魔導師は外道』、『異世界人凶暴種』、『最凶、最悪、良心なし』と、評判です。ある意味、災厄扱いですって」

「褒めてない……それは自慢にならないよ、魔導師殿……」

ひらひらと手を振りながら笑って言えば、がっくりと首を垂れるテゼルト殿下。やだなぁ、今更じゃん?

何やら、頭を抱えているテゼルト殿はスルーさせていただきます。私はイベント準備に忙しい。

……でも、放置されたことが寂しかったのか、魔王様へとチクられました。畜生。

※※※※※※※※※

……で、どうなったかと言いますと。

「この中で最も怪しいのは、そこの魔導師だろう!」

夜会の最中、名指しで糾弾されてます。王弟派かは判らないが、その意見に賛同する人達もいる模様。

わぁ〜、予想外ぃ〜。困っちゃうなぁ〜。

……。

いや、マジでな。あまりにもお粗末過ぎて、心の声も棒読みさ。

なお、ここまでの状況は以下の通り。

・夜会スタート。シュアンゼ殿下の足が治ったことを告げるのは、夜会の最後。

・好奇の視線に晒されつつも、シュアンゼ殿下の傍にスタンバイ。飲み物などは全てラフィークさん経由での手渡しで、安全を確保。

・どこぞの小父さん、盛大に咽せる。あまりに酷い状態に、皆は大注目。

・そこに小父さんのお友達、登・場☆ 毒云々と言い出し、魔導師を名指し。(今ココ)

……。これで、成功すると思ってるんだぜ。身分差に頼り過ぎだろう?

ただし、『それが正しいように思わせることもできる』。理由は簡単、周りに居るのが、王族と貴族だからだ。

何せ、向こうには王弟殿下という最終兵器がいらっしゃる。権力社会の頂点とも言うべき王族が味方するのだ、強気にもなるだろう。

何より、彼らは誘拐事件に次ぐお茶会の一件で、更に拙い状況になっているのだ。些細なチャンスだろうとも、縋りたい心境だと思う。

それを利用したのが、この茶番。これまでの失態が、派閥を揺るがす事態に繋がると理解できているからこそ、王弟派貴族達がその場で必要と判断し、飛び入りででっち上げに協力する可能性があるのだ。

王弟殿下の派閥の皆様は、この茶番に『巻き込まれる形を装って、自主的に参加する』かもしれないのだよ。この場合は、茶番の主催者以外は処罰されまい。

と、いうわけで! 彼らのプランをさくっと解説してみたいと思います! 多分、合ってると思うぞ? これしか成功させる方法ってないから。

……ま、私に(未だ)非がないから、向こうも困ったんだろうね。

『生贄達の計画(予想)』

毒殺未遂事件(狂言)を起こし、この中で一番怪しい人物(=魔導師)へと疑いを向ける。同志(笑)を巻き込みつつ、魔導師を糾弾。

なお、殺意を抱いた理由として挙げられるは、茶会での一件ではないかと思われる。奥方が私を侮辱したからとか、そういった理由を告げて来るだろう。

私が異世界人であること、そして身分差というものを利用し、半信半疑だろうとも犯人説を打ち立てる。民間人に味方をする貴族は少なく、誘拐事件を知る貴族達は、これ幸いと便乗。

……こんなところだろう。

この計画は『犯人ではないか? という疑惑を持たせること』が目的。数の暴力で攻めることが重要なのですよ。疑惑が持ち上がれば、完全に白と証明できない限り、私への傷にできるから。

身分差もあり、民間人に肩入れする貴族は少ない。ガニアを守ろうとする貴族達とて、『真実』よりも『都合のいい事実』を選ぶに違いない。

こんな策でも、この場なら成功すると彼らが思った理由。それは『味方になる貴族達が多いから』。

この疑惑は、誘拐事件のことをイルフェナに突かれた時に、落としどころとして使えるだろう。要は、ガニアの現状を理解する人達による、『国のための行動』とも言える。

魔王様の保護下にある私だからこそ、犯人に仕立て上げられるのだ。国と得体の知れない民間人ならば、迷わず国を選ぶだろう。

いやぁ、ある意味ではよく考えられていると思うよ? これが成功してたら、ガニア王サイドと私(=イルフェナ勢)を喧嘩別れさせることもできるし。

ただし、下準備が全く足りない。特に私の情報というものが。

視線も集まって来たし、そろそろ舞台に上がろうかな。期待に応えられないだろうけど、それなりに楽しい茶番にはなると思うの。

それでは、いってみましょうか!

「……貴族って、解毒とか治癒といった魔道具を身に着けるのが常識じゃないですか? どうして持っていないんです? そもそも、盛大に咽せてはいましたが、死んでませんよね? 何故、毒だと?」

軽〜く切り返したつもりだったが、相手は驚愕の表情で固まった。私がそういった『貴族の常識』を知っていたことが意外だったらしい。

うん、普通は知らんよね。この世界に魔法があると知っていても、魔法を使えたとしても、貴族でない限り、『貴族は常に解毒や治癒といった魔道具を身に着けている』なんて知るまい。

現に、アリサはそれを知らなかった。『魔法がある』ということは学んでも、『貴族社会でどう活かされているか』なんて、異世界人には必要ない知識だから。

アリサはエドワードさん経由で、魔道具を渡されていた。だけど、その見た目は装飾品。エドワードさんも異世界人の扱いに慣れていなかったから、単に必須アイテムとして渡していた模様。勿論、説明なし。

……最初は魔道具の意味も分からず、単純に『エドからのプレゼント♪』と言ってたからね、あの子。完全に、貴族とは認識が違っているのだ。

「な……何故、そのことを知って……」

「魔王様の教育で。それ以前にも、私を保護してくれたゴードン医師から聞いて知っていました。あら、まるで『私が知っていると、拙い』みたい」

ふふ、と笑いながらも、しっかり先生の名を出しておく。先生は割と有名――様々な意味で――な人らしく、私の教育者の一人に加えても問題はない。医師という立場も相まって、信憑性が高まるってものです。

私の思惑通りの展開になったのか、人々がざわめきだす。『魔王殿下とゴードン医師の教育』だものね、これで『貴族の常識について無知』とは言えないだろう。

「ねぇ、答えてくださいな。人をいきなり犯人呼ばわりするんだもの、ちゃんと証拠を揃えてくれなきゃ。『貴方は何故、その人が魔道具を所持していないと知っていたんですか?』」

「さ……先ほど話をした時に、忘れたと聞いていたからだ!」

「ふむ、では次。『どうして、毒だと思ったんですか? 死んでも、血を吐いてもいないのに』」

「慌てて吐き出したから、無事だったんだろう! それに、死なない程度の毒かもしれないじゃないか!」

「いえいえ、『咽せてる』じゃないですか。毒入り扱いするんです、一度は口に含んでますよね? 咽せるほどの刺激臭があって口にしなかったとしても、それだけでは毒だと判りませんもの。それに、即効性の毒だったら、吐き出しても意味がないと思いません? 口を漱いでないから、多少は影響が出ますよ」

「そ、それ、は……ワインにはない刺激臭があって、それで、少し口に含んだだけで吐き出して……」

「暗殺の場合、使われる毒は無味無臭では? ああ、更なる疑問が湧きましたので、お答えを。暗殺は殺すために行なうものです。『死なない程度の毒』になんて、意味があるんですか? と言うか、貴方は最初から自白してますよね? 何故、『ワインに毒が仕込まれていると知っていた』のですか? 使われたものが即効性の毒と知らない限り、口にした全てが疑わしいはずなのに。先ほどの魔道具のことも踏まえ、毒殺が成功するのは貴方くらいのものですよ」

――私が疑わしいと声を上げたのも、貴方でしたよねぇ?

そう最後に付け加えると、相手は顔を真っ青にして黙ってしまう。これまでの質問に誘導が含まれているなんて、思いもしなかったらしい。

ちらりと視線を向けた周囲の皆様は、次々に紡ぎ出された私の疑問とその決着を目の当たりにし、誰もが唖然としている。それでも今の会話をしっかり聞いていたらしく、大半が困惑気味に私へと視線を向けていた。

……あの、王様? 貴方まで唖然として、どうするんですか。少しはシュアンゼ殿下を見倣って――

「チッ、即座に乗ってくれば、一緒に葬れたものを……」

舌 打 ち し た ! し か も 、 纏 め て 狙 っ て た !

……。

すいません、見倣わなくていいです。王弟殿下が速攻で乗ってこなかったので、シュアンゼ殿下はブラック降臨中な模様。

ま、まあ、王弟殿下なら、速攻で食いつきそうな事態ではあった。だが、慎重派が入れ知恵したのか、今回は傍観者に徹している模様。

ラフィークさんが飲み物を渡しながら、体で周囲から隠してくれる。さて、この隙に状況の確認だ。

「これ、王弟殿下は釣れない気がします」

こそっと、隣のシュアンゼ殿下に呟けば。

「私もそう思う。大人しくしているよう、誰かが進言したみたいだね。忌々しい……!」

「落ち着かれませ、主様。まずは雑魚から排除せねば」

主従が軽く頷きながら、呟く。主従は本日も息がぴったり、その発言も微妙に黒い。

さすがです、ラフィークさん。主が覚悟を決めれば、貴方も速攻で馴染むんですね……!

「じゃ、今回は雑魚一掃が目的ってことで!」

方針を決定し、視線を再び男に戻す。毒を飲んだはずの人も、自分達が責められる可能性を悟ったのか、微妙に肩が震えているような。

……ああ、貴方も共犯だろうしね。嘘がばれると困るのか。

「心の準備はできました? それでは、続きを始めたいと思います」

にこやかに、それ以上に楽しげに告げて、私は再び人々に向き合う。

あちらの言い分は大分崩せた。さあ、決着までもう少し頑張りましょうね?