軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

踊る愚者に喝采を 其の二

私は楽しげに周囲を見回す。仕掛けた二人――片方の顔は見えない――は予想外の事態に固まっているし、周囲の反応もかなり分かれていた。

私の指摘に納得できるのか、二人に対して疑惑の目を向け始めている人も出てきている。対して、王弟派らしき人達の一部――先ほど、同調の声を上げていた人達――は、どこか忌々しげに私を睨み付けていた。

その他は困惑気味に、この茶番を眺めているという感じ。何も知らないか、どちらが勝つかで態度を決めかねているか……まあ、状況によっては、王弟派じゃなくとも二人に味方しそうではある。

王弟がやらかしたことって、割とマジにヤバイからね。魔王様の噂を知っていたら、ガニアという『国』を守ろうという気持ちから、二人の味方をしかねない。

実際には、そんなことをすれば、余計に魔王様の怒りを買うだけなのだが。まあ、以前の恐ろしげな噂で判断していたら、迷うわな。

何せ、ガニアは私がやらかした『あれこれ(意訳)』に殆ど関わっていない。

極一部以外は、『敗北知らずの魔王』と呼ばれていたイメージそのままだ。

っていうか、リアル災厄は私の方なのですが。では、覚悟ぉー♪

「そもそも、毒なんてどうやって手に入れるのかしら?」

呆れたように肩を竦めれば、喚いていた男が勝ち誇ったように笑った。うん? 何かあるのかい?

「貴女はコルベラに伝手があるだろう! 薬と毒は紙一重、密かに入手することは可能だ」

男の言葉に、周囲の貴族達がざわめく。コルベラと魔導師の繋がりを思い出したのか、私にも疑惑の視線がちらほら向けられた。

なるほど、それならば『証拠がなくとも不思議はない』。個人的なルートでの入手になる上、コルベラは魔導師に恩がある。乞われれば、協力する……という発想からの、毒殺騒動だったわけですか。

ふむ、粗末な策だけど、一応は考えていた模様。ガニアの方が強いから、コルベラを黙らせることも可能と思っているのかもしれない。

彼ら的には『王弟殿下のため』だろうから、助力が得られることも視野に入っていたのかも。いつもの王弟殿下なら、乗ってきそうだもの。

よし、ならば『私らしく』茶番に付き合ってあげよう!

そっちがそう来るなら、噂と実物の違いを理解させてやろうじゃないか!

「毒殺……私が毒殺ねぇ? 随分と馬鹿にしてくれますね? 物心つく前の子供じゃあるまいし、そんな不完全な方法を『私が』とるとでも? 人を馬鹿にするものいい加減にしやがれ、頭脳労働職を嘗めてんのか!」

『は?』

怒りの籠もった笑顔で告げれば、皆の声が綺麗にハモった。私が怒りを示した理由に、何やらズレを感じたらしい。

「その、魔導師殿? 貴女は何に対して怒っているのだろうか?」

「無能扱いされたことです。この程度の策が私のもの? 頭が弱いか、幼子しか思いつかないような、子供の悪戯レベルのものが『魔導師の策』ねぇ? へぇ、……キヴェラって、その程度の奴に負けたの」

ガニア王の疑問にも、さくっとお答え。その言い分に、皆はぎょっとして私をガン見。何を驚いているんだ、私の……『魔導師』の噂くらいは聞いたことがあるだろうに。

では、状況を覆す爆弾・其の一を投下してみましょうか。

「これ、キヴェラが聞いたら怒りますよね! キヴェラに手を出せなかった国はそれ以下の扱いですから、南の国はガニアにどんな目を向けるかしら?」

『な!?』

「あら? 私に敗北したり、協力を仰いだ国々を、遠回しに貶めることになると……気づかなかったとでも言うおつもりで?」

私の切り返しに周囲は絶句しているが、これは事実。弱点になる要素――身分や実績における信憑性――を抱える以上、対抗策を考えておくのは常識じゃないか。

では、続いて追い打ちを。

「そうそう、『私に貴族の常識がある』という証拠があるんですよ。王様、今からそれを証明してもよろしいですか?」

「ん? あ、ああ、構わんよ。寧ろ、それが証明できるならばしてもらいたい」

僅かに戸惑ったようだが、即座に頷くガニア王。私の落ち着きと切り返しに、拙いことにはならないと確信したらしい。

実は、これも必要なこと。ガニア王が私を庇うと、そのガニア王まで槍玉に挙げられる可能性があるのだ。シュアンゼ殿下やテゼルト殿下も同様。ゆえに、罠を張ってくれた彼らが舞台に上がることはない。

こちらの不利になる事態を避ける意味でも、私自身が論破しなければならない。そのために『必要なもの』を、すでに私は入手できていた。

「それでは、まずこれをご覧ください。私がこの国に来た当日の映像と、先日の茶会での映像です。茶会は王妃様主催のものですが、『何故か』王弟妃殿下の強い要望があり、私も参加することになりました。ああ、『茶会当日の昼頃』に連絡がきたのですが、民間人を飛び入りのような形で強制参加させるのが、この国の遣り方なんですね」

知りませんでした! と笑顔で言いながら、魔道具を操作する。私の言葉を聞いた時点で、事情を知らなかった貴族達が顔を顰めているが、そういったものは丸っと無視!

今は映像鑑賞のお時間である。質問は後で受け付け……はしないけど、とりあえず映像を見ておけ。私が『お貴族様の常識』を知っているという証拠映像だ。

ああ、事情の暴露も証拠になるかな? 『私の茶会参加自体、おかしくね?』って言ってるんだし。勿論、『王妃様主催の茶会だけど、原因は王弟妃殿下ね!』ということも忘れずに。

そして、暫く映像鑑賞を。皆様は映像を見つつ、王弟夫人にちらちらと視線向けていた。……それが胸元あたりに集中しているのは、きっと気のせい。

気を落とす必要はないぞ、王弟夫人。素敵な洗濯板じゃないか。

「前提となっているのが、この茶会です。ですが、『これがガニアの常識』かもしれませんから、『他国にいる知り合い』に聞いてみたのですよ。勿論、全員がこのような場に参加できる立場にいらっしゃいます」

そう言いながら、用意してあった『皆からのお手紙』を『封筒ごと』取り出す。

「これが、そのお手紙なのですが……やはり、私の認識の方が一般的だと、『全員』が仰っていますね。王様、代表して確認していただけませんか?」

「私が?」

「ええ。『王とは、己が言葉に責任を持つ立場』でしょう? 皆様の目があるこの場で、私だけに都合の良いことを仰るはずがありません。ふふ……『ちょっと』驚くかもしれませんが、とても説得力がある面子ですよ」

「?」

ガニア王が首を傾げるが、控えていた側仕えに指示を出してくれた。私はあえて何も言わず、やって来た側仕えの人に手紙の束を渡す。

その途端、側仕えの顔色が変わった。若干、震えているような気がするけど、見ない振り。

縋るような目で見て来る側仕えを笑顔で送り出し、その後を見守っていると……ガニア王も側仕えと同じく、ぎょっとして私をガン見。

そのまま即座に封筒と手紙、そして署名を確認し終えたガニア王は……誰の目にも判るくらいに、顔を引き攣らせていた。

「……魔導師殿? これは本物なのかね!?」

「封筒その他が疑わしければ、本人に問い合わせてください」

問い合わせをされても、全く問題はない。そんな私の態度に、ガニア王は悲鳴のような声を上げた。

「ゼブレスト王はまだ判る! な……何故、バラクシン、アルベルダ、カルロッサ、コルベラ、サロヴァーラ、其々の王だけではなく……っ、キヴェラ王からの手紙まであるのだ!?」

『え゛』

「あ、それ、知り合いの近衛騎士に聞いたら、勝手に王まで伝わったみたいです。『知らぬ仲ではないし、近衛騎士よりも説得力があって、よかろう』って、一言書いてありました。多分、勝手に情報を得たお詫びですね」

勿論、そういう問題ではないことも判っている。あくまでも『直接のチクリではない』、という建前だ。ただ、『キヴェラ王と魔導師は険悪な関係ではなく、そこそこ付き合いがある』と受け取れるとは思う。

――本当に、キヴェラ王はこういったことが上手い人だ。こちらに利を持たせつつ、キヴェラが孤立しているという認識を否定するなんて。

それでも、所詮は個人的な見解。個人差なんて、あって当然。さて、周囲の皆様の反応は……視線を向けずとも、ある程度の予想はつくけどな。

何せ、先ほどからシン……と静まり返っていますもの。そして、私の予想は裏切られることはなかった。

あらまあ、皆様揃って顔面蒼白! やだなぁ、本番はここからなのに♪

「手紙の内容を確かめていただければ、皆様が私を支持してくださっていると判るでしょう。そして、もう一つ説明させていただきます。先ほど申し上げたように、私が憤ったのは『愚か者扱いされた』ということ。……国の頂点たる方々と言葉を交わせる者が愚かだと、本当に思われますか?」

「……。いや、思わん。私だけではなく、外交に携わった者ならば、そのように甘い方々ではないと知っている」

「ご理解いただけたようで、何よりです」

にこやかに返してはいるが、私のしたことは極悪だ。『私を愚か者認定=付き合いのある奴も同レベル』という無自覚の認識を、わざわざ口にしたのだから。

……北の大国といえど、頷くしかないのだよ。特に、『魔導師に救われた』という認識が広まっているゼブレストやコルベラ、そして『魔導師に敗北した』キヴェラといった三国は、魔導師以下ということになってしまうじゃないか。

必然的に、『魔導師は愚かに非ず』ということになる。ガニア王のように納得したというより、他国やその王に喧嘩を売る事態を避ける意味で。

証明が難しいならば、絶対に否定できないような立場の人を関連付ければいいじゃない!

結果的に、私の無実が証明される。それで十分だ。現に、もはや否定の声は誰からも上がらない。

だけど、それじゃあ面白くないんだよね。もう少し踊ってもらおうか。

「こうなってくると、自称・被害者のお二人がとても怪しいですよね。ふふ、お二人がもう少し女性のことを気にかける性格をしていれば、もっと判りにくい手を打てたかもしれないのに」

日頃から、奥方を軽んじているのかしら? ――そう呟いて、仕掛けてきた二人へと微笑みかける。

「女性同士のいざこざだってあるんです。ですが、物語のように『赤いワインをかける』、『ヒステリックに嫌味を言う』なんて、愚かな真似はしません。加害者として、あまりにも目立ち過ぎるでしょう? やるならば、『染みは目立たなくとも、酒の香りだけは漂うように白ワインを使う』、『自然な会話に相手を貶める内容を混ぜる』。この二つです」

「ミヅキ、何故そうするか聞いても?」

「白ワインならば目立ちませんから、『偶然かかってしまった』という言い訳が使えます。明らかな悪意ならば、赤ワインを使うでしょうしね。染みが目立たなくとも、香りは残ります。酒の香りを漂わせた女性は、良い印象なんて抱かれないでしょう?」

シュアンゼ殿下の問い掛けに、喜々として理由を話す。これは男性よりも、女性の方が理解しやすいだろう。

明らかな悪意とは、諸刃の剣だ。誰もが加害者と同じように被害者を虐げるとは限らないじゃないか。加害者の評価を落とし、被害者へは同情を……となるかもしれない。お貴族様にとって、自身の評判を落とすことは避けたい展開だ。

注目を集めてどうする。やるならば、バレないような手を使うか、人のいない所まで呼び出せ。

暗殺・裏工作上等! な階級なのだ、馬鹿正直に行動する奴はリアルにお馬鹿だぞ?

「嫌味についても、言葉遊びの延長だと考えればいい。さり気なく、相手の情報収集能力を貶すとか。これは周囲に人がいた方が、威力がありますね。気づく人は気づきますし、相手が無知を勝手に晒しているだけなんです。探りを入れたら期待外れ……という感じに、言い訳できます」

情報収集も重要なことなので、ターゲットの評価が勝手に下がるだけとも言う。何にせよ、自分の評価を落とさないってことが重要なのだよ。後々まで響くし、家の方にも迷惑がかかるから。

ただし、私がやるならば、もう一歩踏み込んだ方法を取りたいのですよ!

「私がやるなら、もう少し性質が悪いものになるでしょう。……そうですね、掌に隠せるほどの小瓶に匂いのきつい香水を入れて持ち歩き、ターゲットへ使います。ワインの入ったグラスほど目立たないから、ドレスにかける時も誤魔化しやすい。何より、香水の付け過ぎと思われたターゲットが孤立します。きつい香りを好まない方は男性に多いでしょうし、ターゲット本人も辛いかと」

「おや、随分と悪質になったね?」

「魔導師ですから。これくらいで済むならば、挨拶代わりですよ。宣戦布告にすら、なりません」

「それでこそ、『世界の災厄』だ」

まるで世間話のように話しているが、内容は随分と悪質だ。その会話をしている私達は、異質なものを見る目で見つめている周囲に気づいていながらも、平然としている。

呑気にお喋りなんてできるはずがない、この状況。それでも、わざわざ話すのは……『聞かせたいから』。

まるで、『準備していたかのような、息の合った会話』。

加えて、『魔導師がシュアンゼ殿下の傍に居ることを、咎める人がいない』。

テゼルト殿下やラフィークさんが『シュアンゼ殿下に対し、どう接しているか』を知っているなら、この状況は明らかにおかしい。絶対に、私を引き離すはず。

ここまでくれば、勘のいい人は気づくだろう……『本当に仕掛けたのは、誰なのか』に。

「まさか……この夜会は……」

「あら、何のことです? 『仕掛けたのは、貴方達なのに』? あ、そうそう! 私が毒を使う必要がない理由はもう一つあるんですよ。……ほら」

「ぅわ!?」

「な……っ」

震える声で呟く『仕掛け人』の声に被せるように、明るく言って指を一つ鳴らす。即座に、軽い衝撃波が仕掛け人二人の足元を襲い、彼らは無様に転がった。

「私、無詠唱なんですよ。だから、こっそり内臓の一つでも潰した方が、完全犯罪にできるでしょうね」

理解していただけました? と首を傾げれば、二人は転がったまま必死に頷いた。うむ、素直で宜しい!

さて、次の段階に移りましょうか。

「王様。私には報告の義務がございますので、民間人扱いといえども、此度のことを不問にできません。 ですから、イルフェナより人を派遣してもらい、徹底的に調べていただこうと思います。私とて、ガニアという『国』とイルフェナが疎遠になることは望みませんから、犯人とその関係者のみの処罰を望みます」

「そうだな、それが妥当だろう。我が国の者が仕出かした以上、厳しく取り調べると言っても、信じてはもらえまい」

ちらりと王弟殿下に視線を向け、即座に了承してくれるガニア王。貴族達も『犯人とその関係者のみ』という言葉に安堵したのか、不満は出なかった。下手なことを言えば巻き添えになると、理解できているのだろう。

「ああ、そうだ。『関係者』には、私を犯人のように扱った人も含まれますから。この会場には、『世界の災厄たる、魔導師が出席することを考慮して』、多くの記録用魔道具が設置されています。そちらをイルフェナに送り、該当者の選定をしていただきましょう。無関係の方は、これで同列に見られることはなくなりますから、ご安心ください」

「そうしてもらえると、ありがたい。無実の者に冤罪を被せようとしたのだ、それくらいの覚悟はあろう。騎士団長、あの二人を拘束しろ! 他の者については、イルフェナからの要望があった場合とする。……よいな? 魔導師殿」

「ええ、勿論」

ガニア王の声に、僅かに怒りが感じられる。その怒りはこの茶番についてなのか。それとも、己が配下を庇うことさえしない王弟殿下に対する失望なのか。

どちらにしろ、王弟殿下はこれで支持者を減らしたはずだ。恩恵が与えられないなら、ご機嫌取りをする価値はないからね。

自己保身も大事だけど、味方も大事にしなければならない。派閥を率いて一大勢力になるって、馬鹿にはできんぞ? 身内から裏切者が出たら、一気に突き崩されるじゃないか。

「コルベラからも当然、人を呼びます。『薬草の産地を、毒の入手経路と言った』のですから、コルベラにも見届ける資格があるでしょう。私が毒を貰っていないという証明のためにも、必要ですしね」

「……。判った。本当に、愚かなことをしたな……」

「同情いたしますよ」

イルフェナとコルベラの介入に、ガニア王は苦々しい表情だ。それに同調する人達もいるから、今後は私を貶めようとする馬鹿もでないだろう。

では、ちょっとした小細工をしておきましょうか。

「王様、あの二人の奥方はこの場にいらっしゃいます? 伝えたいことがあるんですけど」

「ん? いると思うぞ」

ガニア王の視線と私の言葉を受けて、二人の夫人が恐々前に進み出る。その表情は強張っていて、彼女達が必死に恐怖と戦っていることが知れた。

――ごめんなさい? 最後に利用されてくださいな?

「貴女達はこの茶番のことを知っていました?」

「いいえ! 私は全く存じ上げませんでした!」

「わ、私もです!」

問いかければ、速攻で否定の返事が来る。ふむ、嘘は吐いていないみたい。

「そうですか。ならば、イルフェナからの取り調べの際、真実のみを告げてください。自己弁護や誇張表現は、彼らから不信感を持たれるだけです。……そのお年なら、お子様はまだ成人前ですよね?」

「……!」

「……は、い。ええ、息子達は成人しておりません……」

気遣う発言に、彼女達は一瞬驚くも、即座に悲しげに目を伏せる。こうなった以上、自分達もただでは済まないと判っているのだろう。

私は再び、ガニア王へと顔を向ける。……おい、その心底驚いたと言わんばかりの顔はどういうことだ?

「王様?」

「あ、いや、すまん。そなたがそのような気遣いをするなど、意外でな」

「……」

正直者だな、王様……!

ジト目で見れば、ガニア王は視線を泳がせた。まあ、いいけどね。貴方達の考えとは、方向性が違うから。

「私は民間人です。そして、該当者以外の処罰は望みません。……彼女達の今後やこの国の評価は、貴方の手腕にかかっているとご理解ください。ただ望むばかりでは、イルフェナを不快にさせるだけ。落としどころを上手く考えてくださいね」

「……交渉の余地を与えてくれるのかね?」

「シュアンゼ殿下が友人なので、彼が親代わりと公言している貴方達に力を貸すだけです。間違っても、『ガニアという国が大事なわけではありません』。友人の保護者に助力するだけです。そこを、お間違えのないように」

『友人の養い親の味方するよ! その人達が【国】を大事にしてるだけ。私にとって重要なのは、国じゃないんだからねっ! 全てはシュアンゼ殿下のためですから!』(意訳)

意訳するとこんな感じ。ガニア王とシュアンゼ殿下に、価値を持たせるのが目的です。いや、シュアンゼ殿下はここまで考えてないみたいだけどさ? 私は徹底的に利用し尽くす性格なんだわ。

折角、生贄が立候補してくれた、この茶番。利用しない手はないだろう?

この展開にはガニア王だけではなく、シュアンゼ殿下とラフィークさんも驚いているらしい。それでも僅かに目を見開く程度に留めるあたり、さすが王族とその忠臣だ。

「……そうか。シュアンゼに良き友人がいたことを感謝しよう。なあ、シュアンゼ?」

「ええ。彼女は私の恩人でもありますから」

ガニア王に頷き返すと、シュアンゼ殿下は意味ありげに私を見た。らじゃー、披露のお時間ですね!

ラフィークさんに支えてもらいつつ、シュアンゼ殿下は椅子から立ち上がる。重力軽減を強めた魔道具を渡してあるから、少しの間なら立っていられるはずだ。

「皆の者、聞け! シュアンゼの足は、魔導師殿により完治した! だが、歩く力をつけるのはこれからだ……そうだな? 魔導師殿?」

「はい。まずは、体を支える筋力をつけなければなりません。ですが、日々の努力を怠らなければ、十年程度で歩けるようになるでしょうね」

ガニア王の問い掛けに、はっきりと頷く。これは希望的観測ではなく、マジな話。シュアンゼ殿下が努力することが前提だが、多分、何とかなる。

貴族達は驚愕を露にし、王弟夫妻は……あら、悔しがっている。利用できなくなってから価値に気づいたけれど、今更、親としての権利を主張できないと理解できているらしい。

「これから先、シュアンゼは日々の努力を強いられる。だが、その果てに待つのは喜びだ。よいか、何人たりとも、シュアンゼの邪魔をすることは許さん。……実の親であろうとも、その立場を放棄したのだ。口を出す権利などない!」

「私は現在、シュアンゼ殿下付きの医者という扱いになっています。邪魔をする者には、滅殺あるのみです。生き地獄を味わいたい方は、是非チャレンジしてくださいね! 私が喜びます」

ガニア王の宣言に続いた私の脅迫に、周囲はドン引きした。その反応に、私は更に気を良くし――

「お返事は?」

会場の空中に、無数の氷片を出現させてみた。勢い余って、壁とか床が凍り付いたけど、気にしない!

「お・へ・ん・じ・は?」

『はい!』

今度は即座に、大合唱。うむ! その言葉を忘れるでない! 私は心底、本気だからな!

「そ、それでは、今宵はお開きとしよう」

顔を引き攣らせたガニア王の言葉を受け、『お馬鹿さんを釣ろう! 〜収穫後の生贄は徹底利用〜』な罠が終了したのだった。

その後はシュアンゼ殿下の部屋で、ちょっとした祝杯が挙げられたのは言うまでもない。