軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話 シモーヌの友人作りとアデルの婚約者探し

「レニー様、ごきげんよう。あら? アデルさんは?」

シモーヌは周囲を見渡す。昼休みも終わりに近づいているせいか、ここにいるのはレニーだけのようだ。

「アデルさんは随分と前に出て行かれましたよ。何やらお隣のクラスにご用があるとか」

分厚い本にしおりを挟みながらレニーが言う。シモーヌはレニーに、例のジャムの瓶を渡しながら夏休みの出来事を話した。アデルと一緒にいると聞いたので、アデルの分のジャムも持ってきたが、よく考えるとアデルには嫌われているので受け取ってくれるかは微妙だ。

「ちょうど良かったわ。本を返したいという人が多いの。今日の放課後に返却していただかない?」

シモーヌは喜んで同意した。十冊ほど貸し出したが、一冊でも面白かったと言ってもらえると嬉しい。逆に、つまらなかったと言われたらどうしよう……シモーヌは午後の授業を悶々と過ごした。

放課後。レニーと作った本棚を挟んで窓側にシモーヌ、廊下側にレニーに本を返却するクラスメイトが列を成した。

レニーの方は全員が女子で、キャーキャーと騒がしい。次はこれを借りたいやら、私が先に借りるやら賑やかだ。

対するシモーヌ側は、少し異様な雰囲気を醸し出していた。十冊用意した本は十人の男子生徒が借りてくれた。ただ、その反応が極端なのだ。

「これ、すごく面白かったよ! こんな 冒険譚(ぼうけんたん) があるんだね」

本を貸し出す時に初めて話したその男子生徒は、シモーヌが兄アランの影響で読み始めた冒険物語を借りてくれた。

シモーヌがその本を初めて読んだ時、続きが気になり夜遅くまで読み更けた。同じような本を借りた男子たちは皆同じような感想を言ってくれたので、シモーヌはほっとした。

しかし、その後ろに並んでいた男子たちは、ありがとうとお礼は言うものの、本を返却すると足早に去って行く。

シモーヌは首を傾げながら、面白くなかったのかな、と返却された本を本棚に戻した。

「なんだ? あいつら。ちゃんと読まなかったのかな?」

本の整理を手伝いながら、フランシスも首を傾げる。三人の中ではフランシスだけがミステリー小説を借りてくれた。二人で犯人に辿り着くまでの考察やトリックについて話していると、ジョルジュがやってきた。

「遅くなってすまない。この戦記はとても面白かった。勉強になった!」

次期辺境伯らしく戦記物の本を借りたジョルジュは、色んな角度から練られた戦術の虜になったようだ。意外な需要があったと喜ぶシモーヌに、ジョルジュは気まずそうにもう一冊の本を手渡した。

「これはジルが借りたものなんだが……。すまない、どうしても内容を思い出すとキツいと言い張るので俺が預かった」

ジルは最後の一冊を借りてくれたが、やはり中身を確認しないで借りたのだろう。シモーヌは逆にジルに申し訳ない気持ちになった。

「俺も読んでみた。俺は家柄上慣れているので平気なんだが、ジルには少し刺激が強かったみたいだな。でも、拷問の描写は秀逸だった」

ジョルジュは本をシモーヌに渡すと笑いながら教室を出た。興味本位でその本をパラパラとめくっていたフランシスが、

「なっ!?」

と、言ったきり黙り込む。シモーヌは本を受け取ると黙って本棚の整理に戻った。

シモーヌが準備した本は、半分が冒険ものや推理小説。残りの半分が怪奇現象や猟奇事件の本だった。もちろん、すべてシモーヌの特選である。受けた反応の両極端さに、シモーヌは人に自分の趣味をすすめるのは難しいと痛感した。

「ふう、こちらも終わったわ」

青い顔をしたフランシスに帰宅してもらい、入れ替える本に悩んでいると、レニーが肩を摩りながらやってきた。

「あの本、また全部貸し出されたわ。あら、シモーヌさんは面白いラインナップなのね」

レニーはシモーヌ厳選の本を題名を見て、思わずアハッと笑った。

「半分は皆に受ける。もう半分は人を選ぶ本って感じかしら?」

レニーがあっさり言い当てる。聞くとレニーは、シモーヌが男子の好みそうな本を多く準備すると睨んで、女子受けする各国の恋愛小説を揃えたらしい。どうりで、皆あんなにキャーキャー騒いでいたのだ。レニーとは違い、相手のことを一つも考えていなかったと気づいたシモーヌは、自分の浅はかさにガッカリする。

あからさまに落ち込んだシモーヌに、レニーは軽く言った。

「そこまで深く考えなくても。自分の趣味趣向が拒否されたら、恥ずかしいし悲しいでしょう? 本に限らず、まずは共感を得られそうなことから徐々に引き込むのよ。例えば会話なら、とりあえず天気の話とファッションの話をすれば間違いないわね」

最近聞いたようなアドバイスに、シモーヌは思わず唸る。

「でも案外、この本が癖になっちゃう人もいたりして」

レニーがある本の背表紙を 突(つつ) く。自分でおすすめしておいて何だが、猟奇殺人の本なんて読む人が増えたら心配だ。やはり明日からは、少しマイルドな本を持って来よう。

「友人作りって難しいですね」

シモーヌは本棚を眺めながらポツリと言った。

「最初から友人を作るって考えない方がいいのでは? とにかく色々な人と話してみること。話す内容はそれこそ天気でもファッションでもなんでも。そのうちに、この人と過ごすと楽しいって人ができるかも知れないし、できないかも知れない」

シモーヌはできないという言葉に引っかかった。

「自分から話し掛けて、きっかけを作って、やることをし尽くして。それでも友人ができなかったら……」

レニーはそこまで言うと、うーんと考えた。

「できなかったら、その時にまた考えましょう!」

無責任に笑うレニーにつられて、シモーヌも少し笑ってしまう。レニーに言われると、なぜか何とかなりそうに思えて、ほんの少しだけ心が楽になった。

「それに、自分とは合わないと思っている相手が、案外相性が良かったりするのよ」

では帰りましょうと、レニーはシモーヌの背中を押して教室を出た。

二人が教室を出た数分後。誰も居なくなった教室にアデルがそっと入って来た。

アデルもレニーに恋愛小説を借りていた。帰宅途中にそのことを思い出したアデルは、返却しようと教室に来たところで、ついつい二人の話を聞いてしまったのだ。

ふうん、シモーヌってそんなことで悩んでいたんだ、とアデルは興味なさそうに呟いた。

友人なんて、男子であろうと女子であろうと必要ない。今必要なのは、将来を預けられる婚約者。

クリストフの婚約者になるつもりでいたアデルは知らなかった。

今はどこの家も婚約話が持ち掛けられないことを。理由はわからないが、一日でも早く婚約者を作りたいアデルは焦っていた。さすがにクリストフとまでは言わないが、それなりの地位と将来性を持つ貴族令息と婚約するとなれば、この学園在学中に自分で見つけるしかない。

それなのに、何を悠長に友人が欲しいなどと言っているのだ。アデルは呆れた。

貴族令嬢に生まれたからには一つでも上を目指さないと。アデルがシモーヌを気に入らないのはそこなのかもしれない。クリストフのお茶会で、一人だけ興味なさそうに過ごし、それなのに周囲に気を遣われていたのも気に入らない。

フンッとアデルは鼻を鳴らし、レニーに借りていた本を本棚に戻した。クリストフたちの手前、渋々借りることになった小説。しかし、これが意外と面白くて、帰省中の馬車から降りられなくなるぐらい夢中で読んでしまった。

アデルが生まれて初めて読んだ、その恋愛小説の舞台は隣国。ピンク髪のヒロインが逆境に負けずに自ら幸せを掴みにいく物語。ピンクの髪を持つアデルは、すっかりヒロインに自分を重ね合わせてしまったのだ。

しかし、休み明け早々に奇襲を掛けた隣のクラスの高位貴族令息たちは、クリストフといつも過ごしていたアデルに気後れしたようで、話すらしてくれない。

もう少し、他の男子生徒とも仲良くするべきだったかしら。アデルは、さっきレニーがシモーヌに言った言葉を思い出した。

『自分とは合わないと思っている相手が、案外相性が良かったりするのよ』

あれはどういう意味だろう。アデルに合わない相手……。侯爵家以下の令息にも手を伸ばせって意味なのかしら?

うーん、うーんと首をひねりながらアデルは今度こそ帰路についた。