軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

362.影武者の幸せ(イノ視点)

もう駄目だ、自分にできることはこれ以上何もない。そう諦めた瞬間、部屋に光が差し込んだ。

「イノ、無事か!!」

それは、俺が一番聞きたかった声であり

最も会いたかった人でもあり、必ず守ると誓った方だった。

オルディオ殿下の顔を見た瞬間、もうこれ以上望むことはないと嬉しさで満たされるのだった。

それだけに留まらず、オルディオ殿下はご自身の役目を全うされた。ようやく悪夢は消え去ったのだ。

この国を、そして何よりイノという一介の騎士まで救ってくれた殿下ーーオルディオ様には、これからも永遠の忠義を誓うと決めた。

悪夢が覚めてから数日後、オルディオ様に騎士家の新しい名前が授かられた。本人が何よりも望んでいた騎士の道としての集大成であり、再出発を意味していた。

そしてさらに嬉しかったのは、オルディオ様が名前を授かると同時に、王城配属の王国騎士団へと所属が移動したことだった。

これは、オルディオ様の実力が認められたのも同義だった。

(それに……ベアトリス様と上手く行ったようで良かった)

二人が結ばれたという話は、俺の耳にもすぐに届いた。主君の幸せを見届けられるだなんて贅沢、自分には叶わない願いだと思っていたが、こうして知ることができて嬉しくてたまらない。

そんな俺は、トランの地に戻ろうとしていた。出発直前に、オルディオ殿下に引き留められたのであった。

「イノ。……本当に無事で良かった」

「それは俺の台詞でもあります。貴方様が無事で本当に安心しました。その上幸せを手にされる所を見れて……もう思い残すことはないくらいです」

「イノ」

「あ、勘違いなさらないでくださいね。死ぬなんてことはありませんから」

冗談半分でそう告げれば、オルディオ様はどこか少し難しそうな顔をした。

「……もう二度と、自分を犠牲になんてしないでくれ」

「いや、オルディオ様。俺の役目は影武者ですよ。それを全うさせていただいたまでのことです」

「……影武者ではない。イノはイノだ」

断言する力強さは、俺の涙を誘った。

「王族ではなくなった今、尚更影武者なんて必要ないだろう。だからイノ。これからはどうかイノとして人生を歩んでほしい」

あぁ、この人はどこまでも俺を大切にしてくれる。そう思うと、引っ込めた涙が逆流してこぼれそうになった。

「……そう望んでくださるのなら、俺は一人の人間として生きてみます」

「そうしてくれ」

前向きな答えを告げれば、オルディオ様はようやく笑ってくれた。

「じゃ、まずはトランの地に顔を見せに行こうと思います」

そう明るく伝えるものの、オルディオ様の笑みはスッと消えてしまった。

「……一人の人間として生きると決めたイノに、早速話がある」

「え?」

「俺の補佐をしてくれ」

「ーー!!」

補佐。それほ即ち、自分の騎士家についてきてほしいという思いだった。

「……」

「俺の補佐は、右腕は、どこを探してもイノしかいない」

「……俺は、駄目ですよ」

変わらない笑顔を浮かべたつもりで、オルディオ様を見つめた。

「……イノ。お前がシグノアス公爵に結局利用されてしまったこと、国家反逆に対して感じることがあることも知っている。抱いた罪悪感から、俺から離れてトランの地に行こうとしているのも」

「…………」

自分を何度も恨んで、嫌いになった。

オルディオ様を助けるために敵陣に乗り込んだのに、結局俺にできたことは少なかった。

あまつさえ、シグノアス公爵の欲望を助長させた上に、偽りの王子として人前にも立った。

考えればきりがないほど、俺はオルディオ様の足を引っ張ってしまったのだ。

この事実を前に、また隣に立つことなど許されない。そう思ってトランの地に、イノの場所に戻ろうとしたのだ。

「イノ。イノが精一杯動いてくれたおかげで、シグノアス公爵派を潰すことができたんだ」

「俺は何も」

「いや。油断を作れたのはイノのおかげで間違いない」

「……」

「納得いかないって顔だな」

自分が役に立った場面など存在しないと、本気で思っている。だからこそ、オルディオ様の言葉はあまり響かなかった。

「イノがいてくれたから、ベアトリスを守ることができた。これは間違いない」

「ベアトリス様を……」

「それに、イノが俺の剣を知っていたからシグノアス公爵を動かすことができたんだ。本当に、貢献しているんだ」

語気が少し強くなるオルディオ様に、自然と目線が向いた。

「……俺にはイノがいないと駄目だ」

「代わりはーー」

「いるわけがない!」

「!」

真剣な瞳が、俺を捉えた。

「だからイノ。お前が罪悪感を抱く理由はないんだ。俺にはイノが必要なんだ。………………補佐を、してくれないか?」

そこまで言われるだなんて思いもしなかった。この主君は、どこまでも心が優しく俺の手を引いてくれる。

俺はとうとう止めきることができなかった涙をこぼしながら、オルディオ様の誘いを受けることにした。

「貴方の傍にいます」

満面の笑みを浮かべて。