軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

361.訪れた朝

シグノアス公爵達の処罰が決まると、すぐに関連者の処罰まで下された。

キャサリンは、修道院で反省を目的とした罰であったにもかかわらず、それを破った挙げ句国家反逆罪に加担したため、極刑は免れなかった。後日、シグノアス公爵と共に処されるとのことだった。

この処罰には、エルノーチェ公爵家から異議を唱える者は一人としていなかった。

そして、エドモンド殿下とオルディオ殿下の母君にあたられる王妃殿下にも罰が下されることになった。

シグノアス公爵家の血縁者であること、何よりも国王陛下の毒殺への関与が疑われた。しかし、関与を決定づける証拠までは見つからなかった。

これにより、極刑までは下されなかった。

ただ、長年にわたるオルディオ殿下への虐待とも取れる教育が問題視されたこと、そしてエドモンド殿下からも縁を切られると宣言されたことから、王妃は幽閉を余儀なくされた。

王妃とは名ばかりの、権威をなくした人間に成り下がった。王子方は「それで満足だ」と述べていたと言う。

こうして各所の処罰が下ると、いよいよ王位継承権の問題は幕を閉じるのだった。

いつぶりだろうか、セシティスタ王国に戻ってきてから初めての平和な朝を迎えた。

(……早く目を覚ましちゃった)

本当なら、全てが終わったと脱力してゆっくり休むべきなのだが、何だかそんな気にはならなかった。

ベットを下りて、カーテンに手を掛けて窓の外を眺める。

(自称門番もいなければ、門も元通り)

馬車で突撃したあの日が、つい昨日のことのように思い浮かばれる。

(……せっかく起きたのだから、散歩でもしようかな。時間は限られてるから)

レイノルト様と明確な時間は決めていなかったが、問題が落ち着いたのだから、帝国に戻る日はすぐ近いことだということがわかった。

クローゼットから羽織れるものを掴むと、足音をなるべく立てないように屋敷の外へと向かった。

見慣れた庭に、平穏が訪れたと実感すると自然と口角が上がった。

(あの後は大変だったなぁ……)

ベアトリスとオルディオ殿下がくっつくのは想定内だったのだが、すぐにでも出ていくと宣言したベアトリスに、カルセインが大きなショックを受けてしまった。

今も絶賛落ち込み中で、立ち直るには時間がかかりそうだった。

オルディオ殿下はというと、騎士としての家名が陛下より贈られることになった。平民ではなくなったオルディオ様は「ベアトリスに少しでも渡せるものが増えた」と大層喜んでいた。

(ベアトリスお姉様の満更でもない顔を見れば、お二方が上手く行くのは明白ね)

思い出しながら、くすりと笑ってしまった。二人の並んでいる姿を見ると、私まで嬉しくなってしまった。

(……私以外は恐ろしい形相だったけれど)

落ち込むカルセインに加え、リリアンヌは「お姉様をこれ以上、一度でも泣かせたら明日はありませんからね……?」と笑顔で握手をしていた。

そんな弟妹に見送られながら、お姉様は今はオルディオ様と一つ屋根の下で過ごしている。

(……お兄様も早く立ち直れると良いのだけれど)

カルセインのある部屋を見上げながら、そう願った。

ひゅうっと風が吹く。

冷たい風に頬が触れると、一枚だけの羽織では足りなかったと後悔する。

(……寒い)

ぎゅっと両腕に触れながら縮こまって進もうとすれば、ふわりと優しい風に触れた。

「レイノルト様……!」

「大丈夫ですか? ……冷えてますね」

「すみません、こんなに寒いと思わなくて」

向かい合うと、上着に加えてマフラーまで巻いてくれるレイノルト様。そっと両手を、自身の両手で包み込んでくれた。

「ご一緒してもよろしいですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます。早速行きたいところですが……その前にまず、暖まらないといけませんね」

「あっ」

笑顔で頷くと、レイノルト様はぐっと私を引き寄せた。

「……レイノルト様は暖かいですね」

「私の体温などいくらでも差し上げますよ。レティシアが風邪を引かれない方が大切ですから」

「……」

(……それならもっとくっつこうかな)

そう思った瞬間、くすりという笑みを浮かべてレイノルト様がぎゅっと抱き締める力を強めた。

「あっ。私がしようとしたのに」

「ふふっ。嬉しい声がきこえたので」

(迂闊でした)

黙ってやりたかった、という気持ちがすこしあったので残念な部分もあるものの、レイノルト様の嬉しそうな声色を受けて、私もぎゅっと抱き締める力を強めるのだった。

「……レイノルト様。セシティスタに連れてきてくださり本当にありがとうございます」

「お礼を言われるほどのことではありません。妻の実家に帰ることなど、容易いことですから」

(まだ結婚してませんよ)

そう心の中で呟くものの、聞こえないフリをされてしまった。

「ですから、何度でも来ましょう」

「……えっ」

「レティシアにとっては、エルノーチェ公爵家も家なのですから。定期的に戻ってきましょうね」

「…………」

私が朝感じていたどことない寂しさは、レイノルト様のこの言葉で吹き飛んだ。嬉しくてにやけるものの、それを見られたくなくて、レイノルト様の胸に顔を沈める。

「……私だけの家じゃありません」

「え?」

「レイノルト様にとってもです」

「! ……ありがとうございます」

レイノルト様の優しさには、こうやって何度も救われて守られてきたのだと実感した。

少しの間ぎゅっと抱き締め合うと、庭園へと散歩をしに向かうのだった。