軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295.守りたいという思い

言葉にしなければ伝わらないとは本当のことで、ベアトリスも何かに気が付いたような顔をしていた。

「……レティシアが、そこまで考えていたなんて」

「……私はいつもお姉様の幸せを考えています。お姉様が私のことを思ってくれているのと同じで」

「そう……そうなのね」

寂しそうな、嬉しそうな、複雑な表情を浮かべてベアトリスは私に微笑んだ。

「レティシアのこと……リリアンヌ、カルセインのことも私はずっと守ろうと思っていて、守らないといけないと強い使命感を感じていたの。だけどそれは、レティシア達の意思を無視していつまでも子ども扱いをしていたようなものだわ」

「お姉様」

「……私も、守られていいのかしら」

ポツリとベアトリスは呟いた。私はその先の思いまで聞こえた。「でもそれは、自分の長女としての責任を放棄していることになるのでは」という思いが。そんなことはないと手に力を強く込めて、ベアトリスを見つめた。

「良いに決まってます! ……お姉様は私達の姉で、長女。両親なき今、責任を一身に背負わないといけないのもわかります。……ですがお姉様。私達は姉妹で、家族ではありませんか」

「!」

「家族である私が、お姉様の力になって守ることは私にとって最高の誉れです。これは決して責任の押し付け合いなどではありません。家族だから、一人ではなく皆で解決するんです。責任放棄ではなく、私達に分散させてください。一緒に背負わせてください」

「レティシア……」

気が付けば私は涙を流していた。それを見たベアトリスは立ち上がって隣へと座り直した。そして涙を拭いてくれた。

「……貴女の涙を拭うのはこれで二度目ね」

「……そうですね」

「また私のことで泣かせてしまったわ」

「それだけお姉様が大好きなんです」

「……!」

ベアトリスからすれば思いもよらない言葉だったのか、すぐには何も返ってこなかった。私はそんなことなどお構いになしにベアトリスを抱きしめた。

「驚くことですか? 私は本当にお姉様が大好きで、大切なんです」

「……ごめんなさい。今その言葉を聞くとは思わなくて」

少し放心していたベアトリスだが、すぐに抱きしめ返してくれた。

「……私も大好きよ、レティシア」

「それなら頼ってくださいますか」

「……そうね。私を守ってくれる?」

「何があろうとも守り抜きます」

「ふふっ」

顔が見えない状態でも、柔らかい声色からベアトリスが本当に心を許してくれた気がした。

「レティシア……」

「はい?」

「そんな言葉どこで覚えたの。もしかしてレイノルト様に言われたのかしら」

「えっ! い、いきなり何を言うんですか!」

驚きのあまりバッと体を離してしまった。

「あら。そうだったの」

「お、お姉様」

「良い言葉ね」

「か、からかっているのですか」

「まさか。妹の恋の話を聞きだしただけよ」

(……それをからかっているというのでは?)

疑問に思いながらも、段々と暗い表情が消えてきたベアトリスを見て安心していた。二人並んだまま向き合い直すと、ベアトリスが本音を語ってくれた。

「実はね……私、まだ第二王子とお会いしたことがないの」

「え⁉」

「驚きでしょう? 私もよ。婚約を申し込まれた時は書面だったし、一度この家に来た時はカルセインにだけ会って私には会おうともしなかった」

「お姉様は顔を出さなかったのですか?」

「出す暇もなかったわ。カルセインに会っていくつか伝えたら風のように去ってしまったのだから」

「……つまり避けられているということですか?」

「その可能性が高いんじゃないかしら」

まさかの状態に、開いた口がふさがらなかった。

「失礼にも程があるわよ。だからこそ、直接文句を言わないと気が済まないわ」

「な、なるほど」

ベアトリスは本心からそう思っているからか、少し圧がかかっていた。

「オルディオ殿下があのオル様かどうかもまだわかってないから、確かめないと。もしシグノアス公爵が招待した夜会を悪用して私と第二王子の婚約を無理やり発表すると仮定しましょう。そうしたら、必ずその婚約の場にはオルディオ殿下も現れるはずよ」

すっと目を細めながら言うベアトリスには、彼女が思い描いていた案があるようだった。

「……その夜会が危険だとは重々承知よ。でも……それでも会いたいの。会って本人に言わないと、今婚約を断った時いつかどこかで後悔しそうで」

「お姉様……」

冷静な声色になったかと思えば、今度は本心を強く吐き出し始めた。ベアトリスのそんな姿は初めて見たので、私は胸を大きく揺さぶられた。

「……お姉様。それならば行くべきです」

「レティシア?」

「わかっているのに後悔を残すことなど、選ぶべきではありません。ですから、一緒に行きましょう。シグノアス公爵主催の夜会へ」

「駄目よ、レティシア。行くならば私一人で」

「一人で行く方が危険です」

「でも」

ベアトリスの譲れない思いもわかる。ただ今は、ベアトリスの願いをいかに安全に遂行できるかが重要なのだ。

「お姉様。私達にはレイノルト様という帝国の大公がいます。レイノルト様が一緒なら、シグノアス公爵も下手な真似はできません。婚約に関しても、本人の意思なしで進めるなど、あってはいけませんから」

「レティシア……」

レイノルト様だけではない。私やカルセインがいれば、絶対に命まで狙われることはない。国際問題を起こしてまで、ベアトリスとの婚約を結ぶことは恐らくないはずだから。

「お姉様。とにかく行くのならば、全員で。……守らせてくださるのでしょう?」

「……………ありがとう、レティシア」

ベアトリスはこつんと顔を私の胸に軽く当てると、小さく涙を流すのだった。