軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294.届いた招待状

レイノルト様から頂いたアドバイスは、機会を狙って活用することにした。

(今はベアトリスお姉様と二人きりではないから)

あの後、カルセインはすぐそこまで来ていたので部屋から出て行った人はそう時間の経たないうちに帰って来た。そして、私とレイノルト様、ベアトリスとカルセインが向かい合うように座った。

「来訪者に関しては私が聞いても問題ないでしょうか」

「はい」

レイノルト様はどこか不安そうな声色で尋ねたものの、カルセインの即答によって小さな笑顔が浮かんでいた。

「シグノアス公爵家が主催する夜会への招待状でした。……夜会ではありますが、十中八九第二王子の婚約について尋ねてくるでしょうね」

「説得するつもり、ということでしょうか」

「説得……いえ。脅すつもりかと」

「なるほど」

男性陣が話を進める中、下を見て無言になるベアトリスをじっと観察していた。

「行く価値はないということですね」

「断言できます。……シグノアス公爵が私達に求めているのは受け入れて頷くことですから」

「厄介ですね」

シグノアス公爵が第二王子を本気で王位につけたいのは、この行動でより鮮明になってきた。だからこそ、ベアトリスの意思が重要になってくる。

「姉様。お聞きしますが、この招待はお受けするつもりですか?」

「…………」

「姉様……?」

「……シグノアス公爵に会いに行く価値はあると思うわ」

「姉様!」

「「!!」」

思いもよらない返事に、その場にいる全員が驚いた。カルセインは反射的に立ち上がって声を荒げた。

「正気ですか! 敵陣に乗り込むなど!!」

「落ち着きなさい、カルセイン」

「…………」

理解できないという表情のままカルセインは着席した。

「何も婚約者になるというために行くのではないわ。私は抗議のために行くつもりよ」

「抗議ですか」

「えぇ。このくだらない監視体制を止めるように」

「!」

(…………お姉様)

毅然とした態度で述べるベアトリスだが、私にはそれが本当の目的には思えなかった。

「……ですが姉様。抗議なら手紙でもできます。わざわざ危ない場所に足を踏み入れるのは得策ではありません」

「でもカルセイン、考えてみて。監視だからこそまだ大きな問題でないけど、シグノアス公爵が何か手を出せばその瞬間彼の信用は地に落ちるわ。そんな危ないことをするかしら?」

「…………それでも、危ない橋はわたるべきではありません」

「それでも……最近は社交場に顔を出せていないから」

「他のパーティーもですか?」

私の疑問に答えてくれたのはカルセインだった。

「今は国中の貴族が慎重になっているからな。下手にパーティーも開けない状況だ」

「……その中でシグノアス公爵がパーティーを開くのは何か意図しているとしか思えませんね」

(喧嘩を売ってるってことか)

カルセインの説明で大枠が理解でき、レイノルト様の言葉でより理解が深まった。

「姉様……お聞きします」

カルセインは意を決したような眼差しで、体ごとベアトリスの方に向けた。

「姉様は第二王子との婚約を望んでいらっしゃるのですか?」

「…………私は」

即答をしないベアトリスだったが、瞳はゆるぎないものだった。

「私は、いつどこで何があろうとも、変わらずリリアンヌの味方よ」

「お姉様……」

「……わかりました」

真剣な眼差しの奥には、まだ秘めた思いがあるようにしか思えなかった。

「その上で、この夜会に出席したいとのことですね」

「……えぇ」

「…………わかりました。ひとまず、この夜会について調べさせてください。それから再考するというのはいかがでしょうか」

「わかったわ」

納得した面持ちでベアトリスは頷いた。すると、もう一度カルセインは立ち上がった。

「では早速調べてまいります。夕食でお会いしましょう」

「カルセイン殿、私も何か手伝いを」

「ありがとうございます」

「レティシア、ではまた後で」

「はい、レイノルト様」

レイノルト様から応援の眼差しを受け取ると、部屋の中には先程と同じ女性陣になった。モルトン卿は変わらず外で待機してくれているのが、レイノルト様が去る時に見えた。私は侍女二人の方を向く。

「……ラナ、エリン。お茶が切れたみたいなの。茶葉を取って来てもらえる?」

「「かしこまりました」」

侍女二人が茶葉を取りに席を外したところで、再びベアトリスと一対一で向き合った。

「お姉様」

「レティシア……」

「夜会に参加したい、どうしても譲れない理由があるんですよね?」

「!!」

ベアトリスは目を丸くした状態でこちらを見つめた。

「どうして……」

「失礼ながら、ずっと観察していました」

「か、観察……」

「先程は……その、本音を十分に聞けなかったと思って」

「あ……」

その言葉は当たっていたようで、ベアトリスの表情がわずかに動揺する。その反応を見て、確信するとともに少し寂しさが浮かんだ。小さく深呼吸すると、ベアトリスの瞳を真っすぐ捉えた。

「お姉様、私じゃ駄目でしょうか」

「え……?」

「お姉様にとって、私は妹です。この事実はどんなに頑張っても変えられません。ですが、私はそれでもお姉様のお力になりたいとずっと思っております。お姉様にとっては、妹は、弟は、守るべき存在だと思います。ですが私はそれで終わりたくないのです。……お姉様の、役に立ちたいの」

「レティシア……」

ベアトリスにも守るべき尊厳があることはわかっている。姉としての役目があることも。それでも思いが届いてほしかった。私の切実な声が、部屋の中に響き渡るのだった。