軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.二日目は地方へ

後悔に包まれた夜が明けると、いつも以上に低いテンションで身支度を始めた。

「お嬢様。地方にわざわさ行きたくないのはわかりますが、頑張ってください。今欠席したら後が余計に面倒ですよ」

気分が暗い原因を、普段の振る舞いの延長と捉えてくれているラナに苦笑いをする。憂鬱な理由は全く別の所にあるのだが、それを説明する気力もない。魂が抜けたような状態でラナに身を任せる姿はまるで、着せ替え人形のようだった。

「完了です!」

「あ……ありがとう、ラナ」

ラナの一言で一気に現実に引き戻され、着飾った自分の姿を鏡で確認する。

「お嬢様、よく似合ってますよ」

「ありがとう」

「それにしても、このドレスも本当に良くできているものですよ。昨日と同じ上品さに加えてほんのりと華やかさが加わって……お嬢様という素材をよく引き立たせてるドレスですね」

ラナの言う通り、薄紫色のドレスにはレースやフリルが使われている。その使い方がとても丁寧で上品さを醸し出している。以前キャサリンが寄越した、フリルだらけのセンスの欠片もないドレスとは大違いだ。

「こんなに良いドレスを着たんですから。是非楽しんできてください。もちろんお嬢様なりで構いませんから」

普段自分では絶対手にしない類いのドレスを眺める。昨日のベアトリスの笑みを思い出すと、不思議と自分まで嬉しくなってきた。ほんの少し気分が晴れるのを感じて、自然とベアトリスに感謝の気持ちを抱いた。

「……確かにそうね。ラナの言う通り、できるだけ楽しんでくるから」

「はい、お気をつけて」

「いってきます」

「いってらっしゃいませ!」

いつも通り明るいラナに見送られて馬車に乗り込む。会場に着く道中、昨日レイノルト様が今日の参加が厳しいという話をしていた事を思い出す。

(という事は今日は会わなくて済む……取り敢えず良かった)

今後の対応に悩みながらも、一旦考えることを保留にしてパーティーへと向かった。

(今日は楽しもう。一人でも楽しめる方法はいくらでもある。せっかく地方に来たんだから)

地方会場の個人的な醍醐味としては、地方ならではの料理にある。王都の高価すぎる料理よりも、少し庶民的な要素が入った地方の料理の方が私は好みなのだ。

会場に足を踏み入れると、いつも通りダンスホールには目もくれず壁へと向かう。普段と違うのは、料理を持っていくため寄り道を少しするくらいだ。

好奇な視線など全く相手にせずに料理の置かれた場所へ向かおうとしたその時、聞きたくない声を背後から耳にする。

「レティシア、来ていたのね」

(……同じ会場だったの? 知らなかった)

地方という事もあり、公爵家からはてっきり自分一人だけの参加だと思い込んでいた。始まる面倒事に内心溜め息をつきながら、キャサリンに向き合った。

(地方に来てまで絡んでくるなんて、余程暇なのね。王子妃候補になったんだから、人のこと利用してないで自分の力でアピールすればいいのに)

いつものように、キャサリンが優しげな笑みを浮かべながら茶番の準備を始める。その間にも、既に私は心の中で元気に活動を始めていた。

好奇な視線が増えてくるのを肌で感じる。相変わらず見世物にしたいのだろう。だとしたら、この地方の会場は大正解だ。

「レティシアっ、貴女……」

(始まったな……ん?)

私の振る舞いにとにかくいちゃもんをつけて、優しく注意する姉を演じ始める。そう思っていたが、キャサリンの様子がおかしい。

少なくとも今まで付き合ってきた茶番劇では見たことのない始まり方で、キャサリンは目に少し涙を浮かべていた。形を変えて悲劇のヒロインを演じ始めるかと、少しだけ身構える。

(でも違う。いつもよりどこか……)

読めない表情を前に困惑しながらも、無表情を崩さずに見続ける。

「やっと……やっと、着てくれたのね……!」

(…………………………………………今、何て?)

突然すぎる言葉と、初めて見るキャサリンの喜ぶ姿に動揺が走る。だが、落ち着いて状況理解を始める。最近心が休まることがなかったが、そのおかげで心が鍛えられたみたいだ。

「嬉しいわ……。貴女が少しでも変わってくれたのなら、私は本当に嬉しいの」

(…………そういうことか)

王子妃候補になったからこそ、私を利用し続けるという推測は見事に当たった。ただ一つ読み間違えたのが、扱いの変化だ。

性悪な妹を見捨てずに根気強く改心させようとする姿は、本物であれば確かに素晴らしい事だ。だが、捉え方次第ではいつまで経っても妹を改心することのできない、威厳のない姉とも見れる。

それを防ぐ為には、一つ先に進まないといけないと考えたのだろう。

(今まで散々注意してきた妹が、自分のおかげで少しずつ変わっていく。その姿を描きたいんでしょうね)

そうすれば、手柄になる。

周囲はキャサリンに、人を更正させる力があると持ち上げ始めるだろう。

私の扱いが変わろうとも、茶番劇に付き合わされる現実は変わらない。それならば今まで通りでも。そう考えが過る。

一人無言で立ち尽くしている間も、キャサリンは喜ぶ演技を続ける。

「私の選んだドレスを着てくれて……本当に嬉しいわ……!」

その一言を、私は許すことはできなかった。