軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.二度の驚き

家に到着して馬車を下りると、同じタイミングに帰宅をした様子のベアトリスが馬車の中から出てきた。

「ごきげんよう、ベアトリスお姉様」

「ごきげんよう。………」

いつも通り挨拶だけ済ませて帰ろうと考えたが、レイノルト様にもらった言葉を思い出して少し交流をしてみようと行動する。

「お姉」

「悪くないわね、そのドレス」

今日の夜会はどうだったかとありきたりな話題を振ろうとした時、ベアトリスが言葉を被せた。

「え」

「似合ってるわ。素敵よ」

「あ…………ありがとう、ございます。その、お姉様のおかげかと」

戸惑いながらも感謝を述べれば、ベアトリスは満足そうに笑みをこぼした。

(お姉様もこんな風に笑うのね……)

傲慢という印象からは考えられないほど優しく美しい笑みだった。初めて見る姉らしい表情に思えた。

「確かにそれもそうね。でも、こういうドレスは素材が良くないと映えないものよ?」

「あ、ありがとう、ございます」

(少し遠回しだけど凄い褒めてくる……)

ベアトリスからの思わぬ賛辞にどうにか処理しようと頭を働かせている間も、私と自身が渡したドレスを眺めていた。

「では失礼するわ」

「はい」

見るからに不機嫌な様子はなく、むしろ機嫌が良いように思えた。珍しいものを見た気分になりながら、私も自室へと戻った。

部屋に入ればラナが小言つきで迎えてくれる。

「おかえりなさいませ。それにしてもお早いお帰りで。もっと楽しんできても良いのですよ?」

「ただいま。それは全力で遠慮するわ。……そうそう、下でベアトリスお姉様にお会いしたの」

「見間違いではありませんか? お嬢様じゃないんですから、こんなに早い時間に戻られるなんてあり得ませんよ」

言われてみればその通りである。確か姉は三人揃って王子と同じ会場に出席された筈だ。にも関わらず、早めの帰宅をするのは考えにくい行為だ。

「でも会話をしたの。少しだけだけど」

「えっ」

「お姉様から貰ったドレスを着ていたでしょう? それで似合ってると言われたのだけれど」

「お嬢様、さては幽霊でも見ましたか」

ラナが疑いたくなる気持ちは十分理解できる。だが馬車を下りた先にいたのは、間違いなくベアトリスなのだ。

「本物だと思うけど……というかお姉様はまだご存命よ」

「そうですけど……全然想像できませんよその光景」

「言いたいことはわかるけど、本当なの」

「そこまで言うなら疑いませんけど……。それにしても変ですね、こんな時間に戻られるなんて」

「うん……」

体調不良のようには見えなかった為に、自分の意思で帰ってきたのなら尚更不思議に感じてしまう。

「でもまぁ、そういう日もありますよね」

「……そうね」

深追いするようなことでも無いため、話もそこで終わる。息つく暇もなく、ラナは大きな声を出した。

「あ! そうでしたお嬢様。思い出したんですよ」

「思い出した?」

「はい。以前お嬢様不在の時にカルセイン様が、見たことない方を連れてきた話をしたじゃないですか」

「そんなこともあったね」

確か少し前、キャサリンが王子妃候補に選ばれた話と共に聞いた気がする。

「その方、お嬢様が観光案内された方だったんですよ」

「え?」

「侍女達が言ってたお連れ様の名前と、お嬢様が教えてくれた方の名前が同じことに気づきまして」

「……そう、だったの」

レイノルト様が我が家に来たことは驚きの事実で少し声が詰まるものの、よく考えれば隣国からいらした上に貿易関係の仕事をしに来たのならば王宮勤めの兄に関わってもおかしくはない。

「レイノルト様はご友人の貿易関係の仕事を手伝いに来たと仰ってたから、お兄様といても不思議じゃないわ」

「そうなんですね。じゃあやはり、エルノーチェ家の誰かが見初められたという噂は嘘ですね」

「あぁ、キャサリンお姉様の話?」

「はい」

主観的な印象も入るが、それは無い気がする。もしもキャサリンに婚約を迫るのならば私を利用しない手はないからだ。紳士的なレイノルト様なら誰かを利用せずに自分の手で、とも考えられるが二人の時に話題にすら上がらなかった為に可能性は限りなく低いだろう。

「うん。キャサリンお姉様はもちろん、誰も見初められてないと思うよ。観光の時や話す機会が何度かあったけど、誰の事も何も聞かれなかったから」

「なるほど……でも、残念ですね。下手したらセシティスタの王子方よりも優良物件と言われてるのに」

「え、そうなの?」

初めて聞く話に更に驚きが沸き起こる。

「そうですよー。だってレイノルト・リーンベルク様は、あの帝国フィルナリアの大公ですよ? 身分では王子方とそう変わりませんし、セシティスタに比べたらフィルナリア帝国の方が豊かですからね。国としても栄えてますし」

「………………………………」

「どうしましたお嬢様。口が開きっぱなしですよ?」

大公。しかも、大陸一の武力を誇り、栄えているフィルナリア帝国の。

そんな相手を前に不遜な態度を取ってしまったのではないかと、脳内はパニック状態になる。

しかも名前を呼ぶ許可を貰ったものの、相手は大公。貴族だとは思っていたが自分よりも上だとは思いもしなかった。

あの日、下の名前を聞き逃すことが無ければ────。

どうしようもない後悔が沸き上がりながら、パニックから抜け出せずにいた。