軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第149話:生産職の腕試し

ジジールさんと一緒にキッチンにたどり着くと、予想以上に何もなくて、驚いてしまう。

野菜を食べない種族であり、調味料が乏しい世界ということもあって、あまりにもガランッとしている。机にはまな板や包丁が置かれ、調理スペースには大きな鉄板とオーブンがあるだけ。肉だけで生活しているなら、調理法が限られているのも納得ができるけど……飽きないのかな。

肉屋さんで買った肉をジジールさんが机に置いたため、その横に焼き肉のタレが入っているビンを取り出す。

「こちらが焼き肉のタレになります。ちょっと甘みがあるので、魔族の口に合うかはわかりませんが」

興味津々のジジールさんは、ビンに顔を近づけて、焼き肉のタレをじっくりと観察。メガネをずらして裸眼でも確認する姿は、メル以上に良いリアクションだと思った。

「ほほお……。この焼き肉のタレに漬け置きして、肉を焼かれるということですね」

「話が早くて助かります。今回は付け置きする時間がないので、焼いてるときに直接かけて、味付けをしちゃいましょう。まあ、焼いた肉を直接タレに付けてもいいんですけどね」

「左様ですか。せっかくの機会ですし、ベルガス様とレミィ様にもよろしいですかな?」

「構いませんよ。その代わり、俺とリズはこっちの塩っぽいのでいただいても大丈夫ですか?」

机に置かれている透明度の高い綺麗な塩が気になったんだ。普通の塩にしては粒が大きく、岩塩みたいな印象を受ける。

「どうぞご自由にお使いください。魔晶石の湖で取れる塩になり、疲労回復効果が期待される『魔塩』になります」

魔晶石の湖……? トロールキングを討伐した場所にあった湖のことかな。まさかあそこが塩湖だったとは。この辺りは海が近いのかもしれない。

じっくりと魔塩を眺めていると、鉄板でジューッと肉を焼く音が聞こえてきた。味が混ざらないようにするためか、三人分の肉が置かれている。

調理法は人族と同じみたいだ。肉の焼き加減をジーッと見て、ひっくり返すタイミングを見計らっている。

もうそろそろ焼けそうだなーというところで、慣れた手つきでジジールさんがひっくり返すと、肉の表面に軽く焦げ目がついていた。実においしそうな印象を抱く、絶妙な焼き加減である。

焼き肉のタレで味付けをしようとしたジジールさんがビンの蓋を開封すると、クンクンと香りを嗅ぎ、驚いていた。

「ほお、これはなかなか良い香りですな。少しばかり私も試食させていただいてよろしいですか?」

「大丈夫ですよ。まだまだありますので、遠慮なく使ってください」

お邪魔させてもらっている土産代わりに焼肉のタレを譲ると、ジジールさんは冷蔵庫と見られる場所から大きめの肉を取り出し、どーんっ! と鉄板に乗せた。意外に大食いなんだろうね、どう見ても試食の肉が一番大きいよ。

「あとでベルガスさんに怒られませんか?」

「はっはっは、執事の特権というやつですよ。こう見えて私は錬金術師ですので、人族の作るものには興味があります。いくつになっても、好奇心には勝てませんな」

嬉しそうなジジールさんの顔を見れば、気持ちがわからないでもない。未知の素材やアイテムと聞くだけで、俺もテンションが高まるんだよなー。生産職の 性(さが) みたいなものだろう。

「ジジールさんも生産職だったんですね」

「魔族の生産職は貴重ですし、年寄りでも重宝されていますよ。名前が名前だけに、錬金ジジイと呼ばれていますがな」

はっはっは、と笑う姿を見る限り、人に好かれやすいタイプだと思う。執事としてキッチリしている部分もあれば、田舎のおじいちゃんみたいにフレンドリーなところもあり、初めてでも話しやすい。つまみ食いのためにガッツリ肉を食べるあたりは、いたずらっ子にも見えてしまうけど。

焼いている肉を裏返し、両面に焼き色がついたところで、ジジールさんが焼肉のタレで味付けをする。ジュ~ッ! という音と共に焼肉のタレの良い香りが広がっていった。

待ちきれないジジールさんが、試食用の肉を手早く切り分け、パクッと口に入れて、じっくりと噛み締める。

「実に興味深い味わいですな。 タ(・) マ(・) ネ(・) ギ(・) の甘みに絶妙な塩味、いや、これが 醤(・) 油(・) と呼ばれる調味料みたいですね。大豆に塩を加えて全く異なる味わいを作り出すとは。いやはや、人族の頭脳は侮れませんな」

一度食べただけで焼肉のタレの詳細を当てられ、俺は動揺した。なぜなら、野菜を食べないはずの魔族がタマネギの甘みと断言し、存在すら知らない醤油を認識したからだ。

バーベキューでカレンと話した時、料理に関しては食べたものがレシピ化する、と教えてもらった。料理の作成工程を見る限り、クラフターとはスキルのあり方が違うけど、錬金術師も似たような方法でレシピを手に入れるのかもしれない。

ましてや、相手は平均四百歳まで生きる魔族。戦いに身を置く者ならば、老いを感じて弱体化していくが、生産職は違う。スキルを使い続けた分だけレベルが向上して、老いるほど錬金術師としての力がついてくる。

「おや、これはいけませんね。予想以上に刺激的で、思わず称賛の声が漏れ出てしまいました。これは失敬」

ジジールさんの目を見れば、魔族を舐めてもらっては困る、というメッセージに聞こえる。が、妙に嬉しそうだ。

もしかしたら、戦闘好きな魔族がいるように、生産職の魔族も競い合う精神をもっているのではないだろうか。生産職の腕試しみたいなもので、お前の実力が見たい、的なやつ。

「意外ですね。ジジールさんが負けず嫌いだとは思いませんでしたよ」

「己の力を見せて、どちらが上かハッキリとさせる。これが、魔族流のおもてなしにございます。残念ながら、人族には合いませんでしたかな?」

なるほど。魔族全体にそういう文化があるのか。フォルティア王国と不干渉条約が結ばれるのも当然だよ。戦闘職の魔族がそんなことしてきたら、絶対に怖いもん。

でも、喧嘩を売る相手を間違えたと思いますけどね。

「人による、というところでしょうか。俺は嫌いじゃないですよ。同じ土俵で戦うなら、の話ですが」

勝負を受けて立つ俺は、ベルガスさんが買ってきた肉と、魔塩を右手に持ち、インベントリにパッと消す。そして、キッチンに立っているため、即座にステーキを作成し、左手からそれを取り出した。

その時間、僅か一秒。超高速作成した後、肉を一切れいただく。取り出したものを作ったと証明するために。

「魔塩というのは、随分とまろやかな塩ですね。元々塩は肉の旨味を引き立てますが、魔塩を使うことで、肉が際立つ印象を受けます。脂身が多い肉には、多めにかけて食べたい感じです」

「ほぉ、一瞬のうちに作成してしまうとは。なかなか面白いお方だ」

「一瞬のうちに焼き肉のタレの詳細を見抜いた人に褒められると、誇らしい気持ちになりますよ」

焼肉のタレで調理しに来ただけなのに、俺とジジールさんは通じ合う何かを見つけるのだった。