作品タイトル不明
10話「いろいろ大変」
「いかがした?」
「いえ、何でもないです」
俺の視線が頭部に向いているのを気取られたので、適当に胡麻化しておく。
思っただけでそんなことする訳もなく、というかいくら謎パワー発揮しているとはいえ武装している相手にそんなことする気は起きないよ。
ああ、そうそう。
今日の遊佐さん完全武装なんだよ。
槍と刀に鎧……まさかこの重武装でここまで何時間もかけて歩いてきたのだろうか?
やっぱ化け物だ。
「それならば良いが……この前は世話になった。おかげで無事町までたどり着き城へと戻ることが出来た」
「よかったです。また流されないかと心配していたんですよ」
この寒い時期に川に入るとか風邪引くだけじゃすまないよ。
……いや、でも前にあった時は割と平気そうだったな? 空腹でやつれてただけだろうし……こわっ。
「これを」
「……これは」
頭の中でちょっと失礼なことを考えていると、遊佐さんが腰に下げていた袋をこちらへ渡してきた。
ずしりとかなりの重さがある。中身はなんだろうな……大きさの割に重い。金属だろうか。
って、渡してきたから思わず受け取ってしまったが、これなんだ?
くれるってことなのだろうか。
「貴重なものを頂いてしまったからな」
疑問が顔に浮かんでいたのだろう。
遊佐さんは少し笑みを浮かべると渡してきた理由を俺に言った。
ご飯とか水筒とかのお礼ってことだろうね。
白米ってこの時代だと高級品扱いらしいし、水筒にいたっては一種のオーパーツだからな。
「受け取らないのは失礼ですよね……ありがたく頂きます」
下心なかったとは言わないが、こういった直接お礼を受け取るのは気が引ける。
だがここで受け取らないのはせっかくここまで持ってきてくれた遊佐さんに対し失礼だ。
なのでしっかり受け取り礼を言うべきだ。
「どうぞ。茶とお菓子です」
遊佐さんはここまで歩いてきたのだから、疲れているだろうし喉だって乾いているはず。
なので椅子を渡し、テーブルも引っ張り出してお茶とカステラ……1個100円のやつをだす。
本当はもうちょい高級品にしたかったけれど、たぶん飯も食べていくだろうからお菓子にそこまでお金を掛けられなかったんだよ……金欠つらい。
「ありがたく……うおっ」
まあ100円とはいえ十分おいしいやつだ。
口に入れた瞬間、遊佐さんが驚きのあまり声をだすのも仕方がないだろう。
なにせ砂糖とかは貴重品だからね。ここまでガッツリ甘い食べ物はあまり食べたことがないはず。
あったとしても干し柿とかだろうし、食感が違う。
「こういった物はあまり売ってないので?」
「うむ。見たことはないな!」
バクバクと食い進める遊佐さんに質問してみるが、やはりこういったものは売ってなさそう。
俺も一口食べるが……うん、おいしい。
久しぶりに食うといけるね。お茶より牛乳が欲しくなるが、ちょっと遊佐さん引いてしまそうなので今日は我慢だ。
「実はご相談したいことが」
「む……聞こうか」
1個目を食い終わったところで、お代わりをさしだし……例の質問したいことをたずねてみる。
商品については実物を見なければ分からないだろうから、手持ちの食器などをいくつか引っ張り出して遊佐さんの前に並べていく。
遊佐さんにはこの地で農業だったり色々やるつもりであること、やるにあたって道具が必要になっていること、これらの商品を売って道具を買ったり作って貰いたいと考えていること。いざ売るとなった際に買い手がつきそうか、何か問題が発生しないか遊佐さんの考えを教えて欲しい。お礼としてこれらの商品は遊佐さんにさしあげます。と伝えた。
遊佐さんは俺の話を聞いている間しっぶい顔で眉間を揉んでいたがやがて、手を膝に置くと口を開いた。
「まず、こういった器は避けたほうが良い。特にびぃどろは朝倉家が作っていたはずだ、目を付けられかねん」
ほうほう……ほう? びぃどろってガラスのことだよな。ガラスの器を指しながら言ってたから間違いないはず……ってことは戦国時代にもガラスがあったと言うことか。まじか。
朝倉は調べた時に出てきた国の名前だ。たしか能登畠山と同盟とかそれに近い国と出てきた気がする。
戦国時代の同盟国かあ……あっさり裏切りそうなイメージあるねえ。
とりあえずガラス製品や陶器系はやめたほうがよさげと。
元が安くてそれでいて高く売れそうだったけど、仕方ないね。
「塩や油も避けるべきだろう……砂糖やこういった菓子であれば問題は無いと思うぞ。特にこれは良い、某も買いたいぐらいだ」
「明日までにいくつか用意しておきますよ」
「おお! かたじけない!」
塩と油は予想通り。甘味はOKと。
てか遊佐さん甘いの好きなのな。やたらとテンションあがってる……前に見たときはやつれていたからちょっと老けて見えたけれど、いまは30……いや、20代後半ぐらいに見えなくもない。
若い子はいっぱい食べないとね。
明日はお土産にカステラ持たせてあげよう。本人買うつもりだろうけど、まあお礼ってことで。
で、甘味ねえ……砂糖は1kgの袋で数百円で手に入るから、そこそこ数は用意できる。
なので砂糖を売るのはありかなと思う。
ただ砂糖だけだとちょっと寂しいんだよなあ。
甘味、甘味……そういや調べた時に出てきたので良さそうなのがあったな。
「蜂蜜とかはどうです?」
「な、蜂蜜があるのか??」
おお? 食いつきが良いぞ。
高級品ってことだったけど、砂糖よりもずっと貴重なのかな。
「これですね」
これも見本を見せようということで、ヨーグルトにかけるように買っておいた蜂蜜を遊佐さんに見せてみる。
「む……また妙な器だな。びぃどろかと思ったが妙に弾力がある」
まあ、高級品ではないので……売るなら瓶入りのやつかな。
ってあれもガラスだからダメじゃん。
まあ、器を入れ替えるなりすれば良いか。
とりあえず蜂蜜をガン見している遊佐さんに味見でもして貰おうかな。
「ちょっと味見でも」
「そうだな!」
食い気味できた。
相当甘いものに飢えてそうだ……んじゃ、大匙一杯ぐらいをスプーンですくってと。
「どうです?」
「甘い」
そりゃそうだ。
しょっぱかったら詐欺だよ。
てか聞きたかったのはそんなことじゃなくてですね……。
と、ちょっとジト目で遊佐さんを見ると、気まずそうに顔をそらすとぼそぼそと話し始めた。
「いや、実は蜂蜜を口にしたことが無くてな……甘くて旨いとしか分からぬ」
味見したかっただけかい。