軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

824話 2年前のエサ?

マーチュ村を出て……あれ?

何日目だっけ?

あまりにも寄り道が多くて……そろそろ1ヵ月かな?

お父さんの誕生日のあとも、シエルお薦めの果実を採りに行ったり、風景が綺麗な場所に行くために崖を登ったり、まぁ色々と面白かった。

でもそろそろ次の町に行かなければと、今は王都の隣にある町の1つ、カシム町に向かっている。

順調に行けば、あと数日で到着する。

「アイビー」

そろそろ今日の寝泊まりする場所を探す時間だなっと思っていると、ラットルアさんが隣に来た。

「どうしたの?」

私の言葉に、前を見たラットルアさん。

視線の先には、お父さん?

「アイビーからのプレゼントを手に持っては、にやにやと笑ってたぞ」

「えっ?」

ラットルアさんの言葉に、お父さんを見る。

喜んでくれたのは、知っている。

お父さんが、腰に下げている守護石を時々触っている事も。

でも、にやにやと笑ってた?

「そんな姿は、見た事ないけど」

守護石に触れている時も、お父さんは微かに笑う程度でにやにやと笑ってはいない。

というか、にやにやと笑っているお父さんを見た事がない。

「嘘でしょ?」

「本当だ。俺も見た」

ラットルアさんの反対側にヌーガさんが来る。

2人が言うなら、本当に守護石を見てにやにやと笑ってたのかな?

「ん~、想像が出来ない」

想像をしてみるが、優しく笑うお父さんしか思い出さない。

それは、私が大好きなお父さんの表情だ。

「あれは、顔が緩むのを我慢して我慢して、ついに我慢できなくなって、にやにやと笑っている感じだな」

ラットルアさんの言葉に、無言で頷くヌーガさん。

我慢って。

……見たい!

私も、そんなお父さんの表情が見たい!

「まっ、アイビーには絶対に見せたくない表情なんだろうな」

「えっ?」

ラットルアさんの言葉に驚く。

私には見せたくない?

「アイビーには、かっこいいお父さんでありたいと思っているみたいだからな」

カッコいいお父さん?

それは、いつもの事では?

たまに、失敗して慌てている可愛い所もあるけど。

「私も、お父さんのにやにやと笑っている所が見たいな」

私の言葉に、ラットルアさんとヌーガさんが楽しそうに笑う。

「あれは、本当に一瞬だからな。すぐに元に戻してしまうから、見るのは難しいぞ」

「そうだな。特にアイビーが近くにいたら、絶対に見せないな」

ラットルアさんとヌーガさんの言葉に、少し考える。

私が傍にいると無理という事は、絶対に見られないのでは?

それは、すっごく残念。

でもお父さんが、私に見せたくないなら諦めよう。

「んっ? 『待て』だな」

ラットルアさんが、足を止めて前を指す。

そちらを見ると、ジナルさんが片手を挙げていた。

「何か問題があったのか?」

ヌーガさんの言葉に、周りを見る、

木々に人の付けた痕跡が多くあるので、あと少しでカシム町に続く村道に出るはず。

「あっ、戻って来た」

ジナルさんの表情を見ると、眉間に皺。

しかもちょっと不機嫌そうだ。

どうしたんだろう?

「あ~、悪い。また刺客がいた」

刺客?

マーチュ村から1ヵ月近く経っているのに?

「なんて暇な人達なんだろう」

皆の視線が私に向く。

あれっ、声に出てた?

「ぷぷっ。確かに約1ヵ月も待っているのだから、暇な奴等だな」

ジナルさんが楽しそうに笑いだす。

それに釣られるように、皆が笑う。

「まぁ、俺の始末が仕事だからな、来るまで待つしかないだろう」

それもそうか。

ジナルさんの殺しを依頼されているんだから、待つか。

「でも、よくカシム町だと分かったよね」

王都に続く隣町は、3つある。

カシム町、カシス町。

そして、教会があったカシメ町だ。

一番最短で王都に行くには、カシメ町を通るのがいい。

マーチュ村から一番近いのも、カシメ町だし。

でも、教会に関連する施設や関係者が多かったため、いまだに問題が残っているそうだ。

別に通るだけなら問題ないが、何かあると面倒という事で今回は避ける事になった。

「いや、分かったのではなく。行き先が複数ある場合は、全てに刺客を送るのが普通の事なんだ」

お父さんの言葉にジナルさんが頷く。

「そうなんだ」

それなら、誰かが絶対にジナルさんに当たるね。

「ただ今回は、カシム町に当たりを付けたようだ。まぁ、2つの町にも刺客が送り込まれているだろうけど」

「えっ? どうしてだ?」

セイゼルクさんの言葉に、ジナルさんが肩を竦める。

「俺が昔『苦手だ』と言った者が、刺客として送り込まれている。俺の近くにいた者の中に、裏切者がいたんだな」

ジナルさんが苦手な刺客?

それは、そうとう強い人なのでは?

「何が苦手なんだ? 強いのか?」

お父さんの言葉に、ジナルさんが首を横に振る。

「別に強くはない。ただ奴の性格は、最悪なんだ。だから、手加減が難しくて」

強いから苦手というわけではないのか。

心配だったから良かった。

「性格?」

お父さんの質問に、溜め息を吐くジナルさん。

私を見るので、大丈夫だと気持ちを込めて頷く。

「奴は、弱い奴をいたぶって殺すのが好きなんだよ」

「屑か」

ラットルアさんの言葉に、私も頷く。

本当に最悪な者みたい。

「捕まえられた事はあるんだが、雇っていたのが貴族だからな。証拠が不十分だと釈放されたんだ。ただこの時に、奴が貴族専用の刺客だと分かった。奴を生かして捕えれば、貴族が関わった事件の証言が取れる。だから、全ギルドから『殺さずに捕獲』と命令が出されたんだ。まぁ、その命令が出た時は、雲隠れしたあとだったけどな。貴族に始末された可能性もあったけど、生きていたな」

全ギルドから『殺さずに捕獲』は、凄いな。

それだけ、貴族が関わった事件の証言が取りたいという事か。

「『苦手』はエサか。いつそのエサをバラまいたんだ?」

シファルさんの言葉に首を傾げる。

苦手がエサ?

「バレたか」

ジナルさんの楽しそうな表情に、シファルさんがため息を吐く。

あれ?

ジナルさんの雰囲気が変わった?

「裏切者に、ワザと『苦手だ』と情報を流させたんだろう? この言葉だけなら、敵はジナルを殺すには貴族専用の刺客が最適だと思い込む」

あぁ、なるほど。

ジナルさんは最初から、身近にいる誰かが裏切っている事を知っていたのか。

それで、貴族専用の意客をおびき寄せるために利用した。

「2年前だったから諦めていたけど、食らいついたな」

えっ、エサを撒いたのは2年も前なの?

「凄いですね」

あっ、元の話し方になってしまった。

「本当にな。もう、殺されていると思っていたよ。まぁ、生きていてくれて良かった。でも『苦手』なのは本当だぞ。奴を見ていると、首を切り落とし……ちょっとやり過ぎたくなる」

首を落とすのは、「ちょっと」では無いけどね。

「どうするんだ」

「捕まえる。奴が表に出てきたんだ、逃すわけにはいかない」

セイゼルクさんの言葉に、真剣な表情をするジナルさん。

また雲隠れされたら、困るもんね。

「別に、生きていればいいんだよね? 少しぐらい骨が折れていても」

シファルさんを見ると、ちょっと引くぐらいあくどい表情で笑っている。

この表情で今の言葉。

「ほどほどに」

「ふふっ」

怖い。

すっごく、怖い。

あっ、ヌーガさんがシファルさんに何か渡した。

あれ?

鞭?

いや待って、その鞭の先がおかしい。

「まてまてまて、アイビーが引いてるから」

いや、私が引いていなかったら止めないの?

驚いてお父さんを見る。

「奴の事を知っているみたいだな」

「奴ではなく、奴の被害者達を知っている」

ジナルさんの質問に、シファルさんだけでなくラットルアさんまで頷く。

名前は出ていないけど、誰の事が分かったみたい。

それだけ有名な悪人という事か。

「にゃうん」

シエルの鳴き声に視線を向けると、なぜか機嫌よく尻尾を振っている。

あっ、もの凄く嫌な予感がする。

「ははっ。なんだ。協力でもしてくれるのか?」

「にゃうん」

やっぱり。

シエルは、やる気だ。