軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

804話 ちょっと寄り道?

「シエル、本当にこの道なのか? いや、これは道じゃなく崖だな!」

ラットルアさんの声が森の中に響き渡る。

確かに、ここは道ではなく崖だね。

しかも、絶壁!

縄を使って少しずつ登っているけど、頂上が遠いよぉ。

「ラットルア、声を押さえろ。魔物に気付かれるだろう」

セイゼルクさんの言葉に、ラットルアさんがシエルを見る。

「魔物が来たらシエルが楽しそうに追い掛け回しているから、問題ないだろう」

確かに、楽しそうに追い掛け回しているよね。

でも、不思議だな。

今までだったら、シエルの気配で近付いても来ないのに。

この森の魔物は、シエルの気配では逃げないのかな?

あれ?

それって、それだけこの森の魔物が強いって事なのでは?

「アイビー、どうした? 疲れたか?」

右上を見ると、ラットルアさんが私を見ている事に気付いた。

縄を掴む手に力を入れて、首を横に振る。

「大丈夫です。あの、この森の魔物はシエルの気配では逃げないから、それだけ強いのかなって思って」

「にゃっ」

んっ?

上からシエルの不満そうな鳴き声が聞こえたような?

崖の上を見ると、下を覗き込んでいるシエルと視線が合った。

「アイビーの言葉に、不満があるみたいだな」

セイゼルクさんが楽しそうに言うと、シエルの喉が鳴る音が聞こえた。

「そうか。シエルはやって来た魔物を追い掛け回すために、気配を加減しているんだな」

「にゃうん」

えっ?

今の返事は肯定?

「えっ、本当に?」

ラットルアさんが驚いた表情で、上にいるシエルを見る。

シエルは、満足そうな顔をしている。

本当に、追い掛け回すためなんだ。

まぁ戦闘が好きなアダンダラだから、たまには思いっきり動きたいのかも。

うん、きっとそうだ。

「にゃ!」

シエルの鳴き声に、上を見ると地面を前脚で叩いている。

まるで「早く」って言われているみたい。

「早く来いって言ってそうだな」

「にゃうん」

セイゼルクさんが、肯定するように鳴くシエルに苦笑する。

これは当たっても嬉しくない。

「頑張っているんだけどな。でも、あと少しみたいだ」

セイゼルクさんが、腕に力を籠めて体をぐっと上に持ち上げた。

よしっ、私も負けないように頑張ろう。

縄を握り直して、1歩1歩上に登っていく。

まさか、90度近い崖を登る事になるとは思わなかった。

「アイビー、大丈夫か?」

「うん。お父さんは、器用だね」

どうして片腕であんなに器用に登れるんだろう。

脚の筋力?

「どうした?」

「片腕なのに、私より早く登るから何か秘訣でもあるのかと思って」

「それは、マジックアイテムを使っているからな」

確かにお父さんはマジックアイテムを使って崖を登っている。

でもそれだけで、こんなに早く登れるの?

「アイビー、バランスと足の筋力だよ。あと体力」

声に視線を左向けると、お父さんの向こう側に余裕の表情で笑うシファルさんがいた。

崖を登り始めて、約30分。

どうしてあんなに余裕の表情なんだろう?

私は、かなり酷い表情をしていると思うのに。

「悔しい」

私に足りないのは体力? それと持久力?

とりあえず、体力が増えるように運動量を増やそう。

「あと少しだ」

お父さんの言葉に上を見る。

あっ、本当だ。

ようやく崖の一番上が見えた。

「良かった。あと少し」

「最後まで気を抜くなよ」

「うん」

あと少しだと思って気を抜くと怪我をする確率が上がると、お父さんに教わった。

だから、崖を登り切ってしまうまでは、しっかりと縄を掴んで、足場を確認して。

ここを登り切れば……休める!

「はぁ、はぁ、はぁ。登り切った~。さすがに今回の崖はきつかった」

地面に膝をつき、全身で呼吸する。

「無事に、登れてよかった」

「確かにこの崖は怖かったな」

お父さんの言葉に何度も頷く。

今回の崖は、崩れやすい場所があちこちにあった。

そのせいで、何度も足を置いた崖が崩れて怖かった。

時間が掛かると、縄を持つ手からは力が抜けそうになるし

よく無事に登れたなぁ。

立ち上がって、崖の下を見る。

うわ~、凄く高い。

しかも、見晴らしが良い。

周りの森が一望出来る場所みたいで、凄く気持ちがいい。

怖かったけど、登って良かった。

「お父さん、凄いね」

「あぁ、これは凄いな」

お父さんと並んで森を見渡す。

ラットルアさんが傍に来ると、ある方向を指した。

「見ろ。凄くデカい魔物がいる」

「えっ。何処ですか?」

ラットルアさんの指した方を見るが、分からない。

「大きな岩が3個あるだろう? その真ん中の岩の傍だ」

ん~、あっ!

「本当だ。えっ? ここから見てあの大きさという事は?」

「かなり巨大な魔物だな」

だよね。

遭遇しなくて良かった。

「お疲れ様」

シファルさんの声に視線を向けると、普段と変わりない彼とヌーガさんが傍に来た。

ん~、シファルさんとヌーガさんはどうして呼吸が乱れていないの?

同じ崖を登って来たんだよね?

「どうした?」

「呼吸も乱れていないから、不思議で」

ヌーガさんを見上げると、ふっと笑顔になる。

「登った直後は、さすがに乱れていたぞ」

「本当に? シファルさんも?」

私の言葉に、頷くヌーガさんとシファルさん。

それだったら、乱れた呼吸が元に戻るのが早過ぎると思う。

「まっ、色々経験しているからな。ほら、セイゼルクやラットルアも既に元通りだぞ。あとドルイドも」

そういえば、いつの間にか皆いつも通りだ。

私は、まだ呼吸が乱れているのに。

経験値か。

「ゆっくり、鍛えて行けばいいよ」

「それしか、無いですね」

ヌーガさんの言葉に頷くと、頭をクシャっと撫でられた。

「アイビー、あれが探しているホリュスだ」

シファルさんの言葉に、指した方を見ると不思議な木が目に入った。

「本当にジナルさんの言っていた通りだ」

幹や枝が青く、葉っぱが真っ白な木。

まるで作り物みたいに見える、不思議な存在感を醸し出す『幻の木』。

幻と呼ばれるのは、ホリュスの木が森の奥。

本当に最奥でしか育たないから。

そして、その気になる果実がポーションでも治す事が出来ない病気を治すと言われているから。

「本当にあるんだな」

お父さんも噂には知っているけど、見た事は無いと言っていた。

「あぁ、本で読んだけど。本当にあるとは思わなかったな」

セイゼルクさんの言葉に、それだけ珍しい木なのだと分かる。

「実が生っているといいんだけどな」

ジナルさんの言葉に、全員が頷きホリュスの木に近付く。

近付いて行くと、青臭い香りがしてきた。

「あった」

ヌーガさんが、ホリュスの木に手を伸ばすとプチッという音がした。

そして、その手には真っ青なホリュスの実が握られている。

「本当にこの色なんだな」

ジナルさんは、ヌーガさんからホリュスの実を受け取ると、ほっとした表情を見せた。

王都に向かっている途中。

ジナルさんがシエルに、ホリュスの木が近くに無いか聞いていた。

気になってジナルさんに探している理由を聞くと、少し迷った後に教えてくれた。

教会で保護した子供達の一部に、ポーションが全く効かないと。

しかもその子達が、魔力が枯渇する病気に掛かっていて危険な状態にあると。

ホリュスの実は、文献によるとポーションでも治せない病気を治せると載っていたそうだ。

だから、その可能性に掛けてジナルさんは探していたのだ。

その話を聞いて私は、シエルの前に地図を広げた。

そして、遠くてもいいのでホリュスの実がある場所を知っているのか聞いてみた。

そして教えてくれたのが、今いる場所。

まさか、崖の上だとは思わなかったけど。

お父さんが言うには、森の奥過ぎて調査がいい加減だったんだろうって。

まぁでも、ホリュスの実が見つかったから地図の不備なんてもうどうでもいい

このホリュスの実が、文献に書かれていたように病気を治してくれるといいけれど。