作品タイトル不明
800話 料理とお菓子
屋台でのお昼は、とても美味しかった。
ただ、もの凄く落ち着かなかった。
なぜなら、ジナルさん達やセイゼルクさん達に声を掛ける人が多すぎたから。
しかも、どの屋台もジナルさん達が一緒という事で無料になった。
悪いと言って、ジナルさん達が払おうとしても受け取ってくれない。
しかもあちこちの屋台から「これもこれも」と食べ物が集まってくる。
そのお陰で、あっという間に食べきれない量の料理が集まった。
それに苦笑しながら、広場でお昼を食べ始めたんだけど、ここでも色々な人が声を掛けて来た。
ジナルさん達は大変だと思っていたら、私にも声が掛かった。
家の修理を一緒に頑張った人達や、修理をした家の持ち主など。
しかも、なぜか私に声を掛ける人はお菓子付き。
「そんなに食いしん坊に見えるのかな?」
山となったお菓子を見ると、どう見られているのかちょっと不安になる。
「いや、そうでは無くてお礼がしたんだろう」
お父さんの言葉に首を傾げる。
修理をした家の持ち主からは分かるけど、一緒に頑張った人達からはどうしてだろう?
「アイビーはこの村の者ではない。それなのに頑張っただろう?」
「うん。出来る事はしようと思った」
まぁ、ちょっとしが助けにはならなかったけど。
「それが嬉しかったんだよ」
「嬉しかった? そっか」
お菓子を1つ手に取る。
感謝の気持ちが詰まったお菓子。
うん、1つ1つ大切に食べよう。
「嬉しい」
「良かったな」
お父さんを見て笑みを見せる。
頑張ってよかった。
「あれ? クラさんだ」
広場の出入り口で、きょろきょろとしているクラさんに向かって手を振る。
「あっ!」
私に気付いたクラさんが、こちらに駆けて来る。
「えっ?」
「サーペントか?」
駆けて来るクラさんの後ろから、サーペントさんが姿を見せた。
大きさは1mぐらいだろうか?
小ぶりのサーペントさんだ。
「アイビー! 宿に行ったら、いなかった」
「買い物に行っていたので、えっとその子はどうしたの?」
クラさんから、彼の後ろにいるサーペントさんを見る。
「一緒にいる子」
クラさんの言葉に、ジナルさん達やセイゼルクさん達から驚きの声が上がった。
一緒にいる子。
つまりテイムしたのかな?
いや、印は無い。
「森で作業していたら、手伝ってくれたんだ。それからなぜか一緒にいる」
最初の頃の私とシエルみたい。
今の関係が続けば、テイム関係になるかもしれないな。
「そうなんだ。一緒にいてくれる子がいると、心強いよね」
「うん。でも、スライムも探す」
そうなんだ。
「うん、頑張ってね」
「頑張る」
クラさんがギュッと両手を握ると、ジナルさんが傍に来た。
「テイムはしていないのか?」
「うん。俺の魔力量では無理、出来ない」
クラさんの言葉にシエルを思い出す。
魔力量だけでテイムが出来るわけでは無い。
だから、諦める必要は無いと後で言った方がいいかな?
「ククッ」
サーペントさんが、顔をクラさんにそっと寄せる。
するとクラさんが自然な流れで、サーペントさんの顔を撫でた。
その慣れた様子に、笑みが浮かぶ。
お互いの様子から、きっとテイム出来る日は近い気がする。
「本当に懐いているんだな」
ジナルさんが羨ましそうに、クラさんを見る。
「憧れるよな」
チラリと、ラットルアさんが私を見る。
それに首を傾げる。
あっ、シエルの事か。
「撫でて大丈夫かな?」
ジナルさんがサーペントさんに手を伸ばす。
パクッ。
「あっ」
サーペントさんは何を思ったのか、ジナルさんが伸ばした手を咥えてしまう。
「痛くは無いけど、抜こうとすると力がいるな」
ジナルさんがサーペントさんを見るが、口を開ける気配が無い。
「触られたくないから、咥えたんじゃないか?」
フィーシェさんの言葉に、ジナルさんが拗ねたような表情をする。
「少し触るだけなのに」
パクッ、パクッ。
口の中の手を、何度か噛む仕草をするサーペントさん。
「本当に、そうなんじゃないか? ぷっ、くくく」
フィーシェさんに笑われたジナルさんが、悲しそうな表情でサーペントさんを見る。
「本当に?」
パクッ、パクッ。
答えるように口を動かすサーペントさんに、苦笑するジナルさんがクラさんを見る。
「悪い。触らないから、放すように言ってくれるか?」
「うん。放して」
パクッ、パクッ、パクッ、パクッ。
「「……」」
サーペントさんの行動に、クラさんが首を傾げる。
その間も、サーペントさんはジナルさんの手を口に入れたまま動かしている。
「無理です」
「いや、諦めないでくれ」
ジナルさんの言葉に、首を横に振るクラさん。
その隣で、心配することなく笑っているフィーシェさん。
おかしな状況になっている気がする。
「クラさん。この子の名前は?」
「まだ。考えてる」
まだ名前は無いのか。
「サーペントさん、ジナルさんの手を離してあげて」
サーペントさんが、ジッと私を見る。
その目を見つめ返すと、パカッと口を開けジナルさんの手を放した。
そして、スッと私に顔を近付けて来る。
「触ってもいい?」
サーペントさんを見ると、小さく頷いたのが見えた。
「ありがとう」
そっと手をサーペントさんの顔に伸ばす。
そして、ゆっくりと頭を撫でる。
「つるつるしていて気持ち良い」
大きなサーペントさんより、鱗が少し柔らかいのか触り心地が少し違うみたいだ。
「ククッ」
サーペントさんは気持ちがいいのか、小さく鳴くとスルスルと顔を手に擦りつけて来る。
「クラさん、可愛いね」
「うん」
クラさんと一緒にサーペントさんを撫でる。
「ククッ」
目を細めるサーペントさんは、本当に可愛い
「どうして俺は駄目なんだ?」
「腹黒いからだろう」
ジナルさんのフィーシェさんの会話に笑ってしまう。
腹黒いなんて、パッと見て分かるものでは無いのに。
「触らせてくれてありがとう」
サーペントさんは私から離れると、今度はお父さんの傍に寄った。
お父さんは少し驚いた表情をしたけど、すぐに頭を優しく撫でた。
「どうしてだ!」
「あはははっ」
ジナルさんの声とフィーシェさんの笑い声が広場に響くと、あちこちで笑い声が聞こえた。
先ほどからのやり取りに、セイゼルクさん達も村の人達も楽しそうだ。
クラさんとサーペントさんが一緒にいる姿に戸惑っている人もいたけど、今はもう大丈夫みたい。
元々、村を守った存在として人気があったのもよかったのだろう。
「ジナルさん、サーペントさんに遊ばれているね」
「うん」
サーペントさんの態度に戸惑っていたクラさんも、今は楽しそうに笑っている。
「あっ、それより何か用事があったの?」
広場に来た時、私を捜している様子だったよね?
「うん、村を出るみたいだから、いつ?」
「えっと、旅で食べるご飯を作ったり、旅の準備をしたりするから……4、5日後かな?」
お父さんを見ると、少し考えてから頷いた。
「そうだな。旅の準備に、今回は少し時間が掛る可能性があるからな」
無くなったマジックバッグに入っていたのは、調理器具だけではない。
旅に必要な道具も色々と入っていた。
だから、今回は少し時間が掛る可能性があるんだよね。
とりあえず、今日の夜にでも必要な物を書き出そう。
「分かった。手伝う」
「んっ?」
「お店、紹介出来る」
クラさんは、マーチュ村のお店をよく知っているみたいだから助かるな。
「ありがとう」
そろそろ、このマーチュ村ともお別れか。