作品タイトル不明
728話 登録は駄目
「あ~、すまない。まだ、名乗ってもいなかったね」
男性が、申し訳なさそうな表情でお父さんと私を見る。
「失礼しました。私はマーチュ村でテイマーをしている、マルチャといいます。一応テイマーたちを指導する立場の者ですね」
男性が頭を下げると、隣に来た男の子も頭を下げた。
「俺は、クラです」
マルチャさんが名乗っても、クラさんが名乗ってもバッグは揺れない。
お父さんが私を見るので、「大丈夫」と頷く。
「俺達は旅をしている、父のドルイドです」
お父さんが私を見る。
「娘のアイビーです。よろしくお願いいたします」
私達が名乗ると、マルチャさんがホッとした表情をした。
そして、そっとお父さんと私を窺う。
「えっと、それでどうだろう? このマジックアイテムのゴミについては村でも問題になっているんだ。だから、正式にマーチュ村として依頼したいんだが」
私としては、困っているなら助けたい。
マーチュ村を出るまでになるけど、ソルならある程度のマジックアイテムを食べてくれるだろう。
「アイビーはどうしたい?」
お父さんの質問に、マルチャさんが縋るように私を見た。
「手伝えるなら手伝いたい」
ただ問題がある。
「分かった。マルチャさん、娘は手伝ってもいいと言っている。ただ、村からの正式の依頼になると、スライムの登録が必要になりますよね? それが問題なんです」
そうなんだよね。
村からの正式な処理依頼を受けるには、テイムしているスライムを登録しないと駄目なんだよね。
「なるほど、登録はしたくないと」
お父さんの話に、神妙に頷くマルチャさん。
「えっと、誰かのスライムを盗んできたという事ではないよね?」
「違います。レアだから表の記録に残したくないんです」
マルチャさんの言葉に、お父さんが首を横に振る。
「それだったら、特別依頼という方法があるんだけど、どうかな? このマーチュ村は様々な理由で逃げ込む人が多いんだよね。だから、外に個人情報が漏れないように、村の者がその人物を保証する事で、情報を一切出さずに仕事が出来る仕組みがあるんだ。それを利用すれば、ドルイドさんとアイビーさんの情報を出さずに、依頼を受けられるんだけど、どうかな? これでも無理かな?」
それなら大丈夫だと思うけど、マルチャさんに迷惑が掛かりそうだな。
「その特別依頼に必要な物はなんですか?」
マルチャさんを見る。
「何もないよ。私があなた達を、『村にとって必要な人だと判断した』と報告すればいいだけだから」
それだけ?
なんだか、あまりにも簡単過ぎるんだけど。
「じいは、この村でそれなりに力がある。だから簡単に認められる」
マジックアイテムを捨て場に運びながら、クラさんが教えてくれる。
「そうなんですか?」
「いやいや、ちょっと年を取っているから大事にされているだけだよ」
「団長の相談役。ときどき、副団長と一緒に団長を怒ってる」
クラさんの言葉に、マルチャさんを見ると困った表情をしていた。
もしかしたら、内緒の話だったのかな?
「怒ってるわけじゃないんだよね。ただ、書類が山になっているから、それを注意するだけなんだよ。本当に」
あっ、なんとなく想像がついた。
うん、書類が苦手な団長さんは多いみたいだからね。
「あっ、そうだ。特別依頼の時は、書類に署名が必要なんだった。あっでもその書類は、私が情報を洩らしませんという約束をする書類だからね。村に提出する事も、無いから安心してね」
それって契約書なのでは?
マルチャさんを見ると、台車の上にあるバッグの中をガサゴソと漁っている。
「えっと、あった。これだね」
マルチャさんは、1枚の書類をお父さんに渡す。
お父さんがその書類に目を通すと、私に渡してくれた。
書類の内容は、マルチャさんを代理として認めるという事と、知りえた事を秘密にするという事だった。
やっぱり契約書だ。
「大丈夫そうか?」
お父さんの言葉に頷いて、書類を渡す。
「大丈夫だと思う」
「よかったぁ。あっ処理だけど、無理はしなくていいからね。出来る範囲で大丈夫だから」
お父さんが署名して書類を渡すと、マルチャさんが安堵の表情をした。
本当に困っていたみたいだ。
「そうだ。マジックアイテムからは魔石を取り出しておいた方が良いよね。指示を出しておくけど、どれくらいで出来るかな?」
んっ?
マジックアイテムから魔石を取り出す?
どうしてそんな事をするんだろう?
「えっ? あれ?」
私の様子を見たマルチャさんが首を傾げる。
お父さんも不思議そうにマルチャさんを見る。
「あっ」
「お父さん? どうしたの?」
お父さんを見ると、苦笑しているので首を傾げる。
「マルチャさん、その必要はありません。このままの状態で大丈夫です」
「えっ? このままでいいの? 本当に?」
「はい。問題ありません」
お父さんの言葉に、少し呆然としたマルチャさん。
「そういえば、テイムしているスライムはレアだと言っていたね。もしかして、凄いテイマーにお願いしたのかな? もしよければ、ポポやミミと遊んで欲しかったんだけどね」
それはきっと、大丈夫だろうな。
心配なのは、ポポやミミがソルやソラ達の勢いに付いて来られるかだと思う。
「終わった」
「んっ? あぁ、ごめん。全てやらせてしまったね」
マルチャさんと話している間に、台車の上にあった大きめのマジックアイテムはクラさんの手によって全て捨て場に降ろされていた。
「大丈夫。……あの、スライムを見せてもらえませんか?」
クラさんが、私を見る。
「いいですよ」
そういえば、クラさんとは契約をしていないな。
お父さんを見ると、ポンと頭を撫でられた。
大丈夫という事かな。
「みんな、外に出ていいよ」
ソラ達が入っているバッグを開けると、勢いよく4匹が飛び出してくる。
「えっ、4匹?」
マルチャさんの驚いた声が聞こえる。
そういえば、私がテイムしているスライムについて、何も話していない。
「うわぁ。うわぁ……凄い! 凄い、じい。凄い! えっ、うわっ」
ドサッ。
「あっソラ、駄目でしょ! クラさん、大丈夫ですか?」
ソラに飛び掛かられて、後ろに倒れてしまったクラさんに駆け寄る。
ソラは倒れたクラさんの上に乗って、満足そうにしている。
「透き通ってる」
クラさんが驚いた表情で、胸の上で揺れるソラを見つめる。
「本当に綺麗なスライム達だね。確かに、これは登録をしない方が良いね。少しでも情報が洩れたら、取り合いになっちゃうね」
マルチャさんが、クラさんの上にいるソラにそっと近付く。
彼は手を伸ばす事なく、少し離れた場所からソラを見ている。
「マルチャさんから見ても、取り合いになると思いますか?」
お父さんの言葉に、彼が苦笑する。
「当然。間違いなくなるね」
取り合いか。
それは絶対に嫌だな。
「凄く警戒しているからどんなスライムが出て来るかと思ったけど、この子達だったら頷ける。特に透明のスライムは、今まで2回ほどしか見た事が無いね」
「2回も見た事があるんですか?」
透明のスライムはいたんだ。
「あぁ。と、いっても森の中で見た事があるだけなんだけどね」
テイムされたスライムでは無かったのか。
それじゃ、どんな性格だったとか能力は分からないか。
残念。