作品タイトル不明
番外編 オカンコ村 自警団団長の不安
ーガバリ自警団団長視点ー
書類を確認する。
問題が無ければサインを書き込み、問題が見つかれば問題の部分を赤丸で囲う。
終れば、次の書類に。
次々とサインを書き込んだり、赤丸で囲ったり……疲れたな。
「ふ~、体がギシギシ言っているみたいだ」
時計を見ると、既に仕事を始めてから4時間。
休憩を入れずに作業していたので、疲れを感じるはずだ。
「そろそろ1回、休憩を入れるか」
手に持っていた書類にサインを書き込み、書いた名前に間違いが無いか確認する。
「奴のサインも上手くなったよな」
サインには、俺の名前ではなくギルマスの名前が書かれている。
「問題なし、と」
書類を、確認済みの書類が積みあがっている一番上に置く。
ちらっと執務机にある、別の書類の山を見る。
俺もだけどギルマスも書類仕事は苦手だから、気付くと溜まっているんだよな。
「と言っても、今回の量は酷いだろう。あいつ、そうとう書類を溜めこんでいやがったな」
ギルマスが溜めた書類は、今までで一番多いような気がする。
帰って来たら、絶対に夕飯を奢らせよう。
「そろそろ帰ってくる頃だよな」
執務机から離れて、お茶の準備をする。
「おっ、新しいお菓子だ」
棚にあったお菓子を口に入れる。
部下が用意してくれたお菓子は、今の俺にはちょうどいい。
疲れた時は、やっぱり甘味の強いお菓子だよな。
コンコン。
「んっ? 誰だ?」
「俺だ」
ギルマスの声だが。
「どうぞ」
あぁ、やっぱり違ったか。
入って来たのは、ギルマスではなくギルマスの影。
こいつが来たという事は、奴はまだ当分戻ってこないという事だ。
王都の教会から出て来た占い師の始末をしに行ったが、問題が起きたのか?
「どうした?」
「はい、ギルマスから連絡がありました。占い師と護衛は処理済み。教会幹部1名は確保。暗殺部隊は2名を除き8人は処刑。それと、仲間2名が死亡したようです」
コップにお茶を入れていた手が止まる。
が、すぐにコップにお茶を入れていく。
「何があったのか聞いたか?」
「占い師の傍にいた護衛を捕まえたら、爆発したそうです」
「どうぞ。爆発か」
「はい。ありがとうございます」
ギルマスの影にお茶を出し、自分用に入れたお茶を飲む。
ちょっと苦かったな。
「他には?」
この報告ぐらいなら、ギルマスの直属の部下が知らせるはず。
わざわざ、影が動く必要はない。
「ギルマスは、オカンノ村に今回の事に手を貸した者がいると情報を掴んだため、隣の村に向かいました。あと、占い師の体に魔法陣が描かれていました」
影からの報告にため息を吐く。
魔法陣を使ったある事件で見つかった、司祭の体に描かれた魔法陣。
この情報があったので村の中で迎え撃つのは危険と判断し、森の中で処理をする事にしたが、正解だったな。
「どんな魔法陣だったんだ?」
「場所を知らせる魔法陣だったようです。それと、占い師は病気だったそうです」
「病気?」
「はい。占い師を見た仲間が、1年は持たなかったんじゃないかと言ってました」
1年と言う事は、かなり病気は進んでいただろう。
それなのに、王都で療養せずにこんなところまで?
……休ませてもらえなかったのか。
「酷い事をするな」
よく病気の体で、魔法陣に耐えられたな。
「そうですね」
教会は、死んでいく占い師の替わりがどうしても欲しいという事か。
いや待てよ。
リーリアは昔、教会に捕まっていた事があるんだよな。
と言う事は、教会はリーリアがどんなスキルを持っているのか、知っている可能性がある。
もし、教会の欲しいスキルをリーリアが持っているとしたら。
リーリア以外にも教会から逃げ出した占い師はいる。
この村にも、数名いる。
だが、彼らを探し出そうとしている気配はない。
「教会の奴らは、彼女を諦めないかもしれないな」
狙いは逃げた占い師の誰かではなく、リーリア。
「だとすると、今の状態は少し不安だな」
彼女の護衛は今、4人で当番制だったはずだ。
当番制と言う事は、たえず傍にいるのは2人。
少し不安だな。
だが、多くしすぎると目立つ可能性があるから駄目だ。
「彼らの保護はどうしたんですか?」
護衛の数はそのままに、護衛する者を変えるか。
もう少し、戦闘能力の高い護衛に。
「今は保護だが、準備が整ったら仲間として迎え入れる事になっている」
俺の言葉に、少し考えこむ影。
彼らを仲間にする事は反対なのだろうか?
「反対か?」
「いえ、3人以外に2人。ともに行動している者達がいましたよね? 彼らも仲間になるんですか?」
「いや、彼らは別行動になる」
おそらく、そろそろ彼らはこの村から出ていくだろう。
冬の準備に入る時期だからな。
それにしても、驚いたよな。
生まれつき感じる事が出来なかった気配を、感じるようになるなんて。
女医の話では、「間違いなく気配を感じている」と言っていたから、本当のことなんだろう。
どうして感じるようになったのかは、いろいろなポーションの同時服用らしいが、どうも嘘くさい。
いや、複数のポーションを同時に使うと、不思議な効果が出る事があるのは知っている。
だが、どうにも怪しいんだよな。
そこに何か隠し事があるような気がして。
俺的には、詳しく調べたいが……彼らは、王都のあの人が身元を保証しているからな。
もし余計な事でもしてみろ。
一体、何を言われるか。
違うな、どんな仕事を回されるか分かったもんじゃない。
好奇心を満たすために、命は掛けたくない。
「やっぱりここは穏便にだな」
「団長?」
「ん? いやなんでも無い」
声に出していたな。
失敗した。
「あっ、そういえば。ここに来る前にこれを預かって来ました」
影から、数枚の書類を受け取る。
中身を確認すると、深いため息が出た。
「それは?」
「洞窟内を調べてもらったんだ。洞窟に一番詳しい者に」
「あぁ、団長のお父さんですね」
そういえば、影は知っていたな。
「そうだ。問題の物が、見つかったそうだ」
俺の言葉に影が、眉間に皺を寄せた。
その表情が、ギルマスにそっくり過ぎてちょっと苦笑してしまう。
「なんですか?」
「いや、いつもは思わないんだが、今の表情はギルマスにそっくりだと思ってな」
影が自分の顔を手で触って首を傾げる。
「似てないと言うの、団長ぐらいですよね。従弟だからなのか、そっくりだと言われる事の方が多いのに」
「それが不思議なんだよな」
俺から見て、ギルマスと影は似ているが違う人物に見える。
でも、影を務めるだけあって似てはいるが。
「まぁ、そんな事はどうでもいいんですが。見つかったという事は、空間移動の魔法陣が完成しているという事ですよね?」
「そういう事になるな」
座標を確定する魔法陣が、3つの洞窟で見つかった。
そのうちの1つを、親父は発動させたらしい。
あれほど危険な事はしないようにと言ったのに。
まぁ、そのお陰で空間が移動する事を確認できたんだが。
「空間移動がどこまで出来るのか、それが問題だな」
空間の中に人がいても移動が出来るのか。
もし出来るのであれば、そうとう危険な事になる。
「村の真ん中に、敵を送り込めるようになったという事ですよね」
そういう事なんだよな。
影の言葉に頷くと、彼は大きなため息を吐いた。
王都の仲間が、空間移動について情報を掴めればいいが。
これから、どうなるんだろうな。