軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

698話 お父さんと気配

「お父さん、この男の取り調べと報告書をお願いね」

ミッケさんが笑顔で言うと、ガバリ団長さんが凄く嫌そうな表情をした。

「それはミッケが――」

「私は病弱だから、そろそろ体が限界なの。倒れそう」

えっ?

ミッケさんの言葉に、彼女の顔色を見る……ん?

とても元気そうに見えるけど。

「はっ? どこがだ?」

そうだよね?

「病弱にしたくせに」

「あ~、それは悪かった」

ガバリ団長さんが、ばつが悪そうな表情でミッケさんから視線を逸らす。

彼女は笑顔になると、私達の下へ来る。

「聞いて。面白半分で病弱設定されたから、この年までそれを演じなきゃいけなかったのよ。どう思うこれ!」

面白半分?

ガバリ団長さんを見ると、ちょっと困った表情をしていた。

「まさか、俺もその設定がここまで続くとは思わなかったよ。ただし、途中で止めていいと言ったのに、続けたのはミッケだろうが」

そうなんだ。

「まぁ、それはそうなんだけど。だって、面白いぐらいにこの村を狙っている貴族が引っかかるんだもん。続けないと勿体ないじゃない。ちょっとふらっとして咳き込むだけで、向こうからホイホイやって来るのよ。あとは、『弱いから家族から虐げられて』みたいな事を言っておけば、証拠や証言が集まるんだから。……もう少し続けるべきかしら?」

ミッケさんの言葉に、ガバリ団長さんの表情が引きつった。

「もう駄目だ。ミッケが続けるなんて言ったら、今度こそ本気で嫌われる」

「あぁ、お母さんね。娘を病弱にした事を本気で怒ったもんね」

「そうだ。離婚の話までされたんだぞ。どれだけ大変だったか」

ガバリ団長さんの表情から、本当に大変だったことが窺える。

ガバリ団長さんの奥さんで、ミッケさんのお母さん。

凄く興味があるな。

「ん?」

隣を見ると、お父さんが自警団員さん達を見て首を傾げている。

不思議に思って彼らを見るが、特におかしな点は見られない。

「どうしたの?」

「ん? いや。うん」

歯切れの悪い返答に、体調が悪いのかと思いお父さんの額に手を伸ばす。

その行動に、小さく笑ったお父さん。

「大丈夫。熱は無いだろう?」

確かに伝わってくる熱はいつも通りだ。

「そうみたい。でも、大丈夫?」

なんだろう。

ちょっと戸惑った様子だよね。

お父さんが困るような事は、起きていないと思うのだけど。

「大丈夫だよ。自分でもちょっと説明できない事なんだ」

「そうなんだ」

「あぁ、確かめたら話すよ」

「うん」

お父さんが話すと言うなら、いつか話してくれると思う。

それを私は、待てばいいよね。

……あれ?

そう言えば、お父さんさっき「気配が薄いな」って言わなかった?

あの時は、男性の仲間が来たのかと焦って。

でもガバリ団長さんの仲間だと分かって安心したんだよね。

それで……確かに、お父さんが「気配」と言ったよね。

お父さんは、気配を感じられないはずなのに。

「お父さん」

どう言えばいいの?

というか、ここで聞く事じゃないか。

「どうした?」

「そろそろ、村に戻らない?」

あとで聞こう。

もしかしたら、言い間違ったのかもしれないし。

「そうだな」

「あっ、帰るの? 私も帰る」

ミッケさんは本気で男性の後処理をガバリ団長さんにやらせる気だ。

ガバリ団長さんを見ると、既に諦めた表情で自警団員さんに指示を出していた。

「さっ、あれは任せても大丈夫。帰ろう」

ミッケさんの言葉に頷くと、ガバリ団長さん達に挨拶をする。

「無茶な事を言われたら、ちゃんと断れよ」

ん?

自警団員さんの言葉に、首を傾げる。

どういう意味だろう?

「そうだぞ。ミッケは無謀な事を始めたりするからな。無理なら無理だというんだぞ」

「ちゃんと断れば大丈夫だからな」

なんだか、自警団員さんにすごく心配されている。

ミッケさんを見ると、拗ねているのが分かった。

「もう、アイビー達に無理難題を押し付けるわけがないでしょ? 言う相手ぐらい、選んでいるわよ」

それはつまり、自警団員さん達には無理難題を言っているという事だよね。

あぁ、自警団員さん達が疲れた表情をしている。

そんなにすごい難題を言われるのかな?

「いやだ、アイビー。そんな目で見ないで。それほどひどい事は、まだ言ってないから」

まだ?

それって、いつか言うという事なのかな?

自警団員さんの1人が、ミッケさんの頭を軽く小突く。

「『まだ』とか言うな。ほらっ、帰るんだろう? あとは団長に任せればいいから」

「そうね。じゃ、明日ぐらいに自警団には顔を出すわ。その時に、詳しく話すから」

今度こそ、挨拶をして村に向かう。

「そうだ。洞窟で何かするみたいな感じだったけど、うまくいったの?」

説明せずに、洞窟に用事があると言っただけなのに、気にしてくれていたんだ。

「はい。うまくいきました」

ソラが、木の魔物の枝の黒く変色した部分を元に戻せたからね。

明日は、幹の変色部分の治療だね。

村に着き、大通りを宿に向かって歩く。

やっぱり今日も人が多く、人にぶつからないように歩くのは大変だ。

「相変わらず、人が多いわよね。何か買って帰るの?」

ミッケさんが人を器用に避けながら、屋台に視線を向ける。

「いいえ、今日は何も買いませんよ」

「そうなの? 残念」

ミッケさんはリーリアさんの言葉に、落胆した様子を見せた。

「つっ」

ん?

小さな声に視線を向けると、お父さんが少し苦しそうな表情になっていた。

熱は無かったのに、どうしたんだろう?

「大丈夫?」

「あぁ、人の気配が」

気配。

やっぱりお父さんが気配と言っている。

もしかして気配を感じられるようになったの?

でも、お父さんは元から気配を感じられない体質だと言っていたよね?

「人が多いと、きついな」

人?

確かに人が多いと気配も多いから、慣れてないと……あっ、もしかして慣れてないから?

だから、人の気配に気分が悪くなっているのかもしれない。

「ミッケさん、お父さんの体調が良くないので、人が少ない道を選んで帰りますね。先に帰っていてください」

「えっ? 一緒に行こうか?」

「いいえ、大丈夫です。お父さん、こっち」

人の流れを見て、少ない方を選びながら大通りから離れる。

「悪いな」

「それはいいけど。お父さん、気配が分かるようになったの?」

「たぶん。少し前から、微かに何か感じる気はしていたんだ。ただ、それが何か分からなかった」

これまで気配を感じた事が無ければ、分からないよね。

「体調が悪いのかと思って、フレムのポーションを少し飲んだりしていたんだ」

病気を治すポーションだから、体調が悪いのなら効くはずだもんね。

「でも、全く効いてくれなくて。もしかしたら怪我なのかと思ってソラのポーションも貰って飲んでたんだ」

「うん」

お父さんの調子が悪かった事に、全く気付かなかった。

それがちょっと嫌だな。

「全然、分からなかった」

「分からないと思うぞ。隠すのはうまいからな」

「隠さないでよ」

「悪い。すぐに治ると思うぐらい、本当に些細な不調……いや、違和感だったんだよ。俺もその違和感に少しの間気付けないぐらいの」

そうだったんだ。

「たぶん、周りにいる人の気配に少しずつ反応していたんだろうな。でもそれがほんの少しだったから、何か分からなかったんだと思う」

「気配だといつ気付いたの?」

「もしかして気配かもしれないと思ったのは、3日前だ」

3日前?

「微かな違和感が消えない事にちょっと不安を覚えて、フレムとソラのポーションを少しずつ飲んだんだよ。その直後に、部屋の扉からこれまで微かだった違和感を強く感じたんだ。で、アイビーが扉から入って来た」

私?

「それで、違和感の正体がアイビーの気配だったんじゃないかと思ったんだ」

それで気配だと考えるという事は、今まで色々考えていたんだろうな。

「あっ、今も違和感を強く感じるの?」

「その時は、10分ぐらいで元に戻ったんだけど。なぜか、ゆっくりと気配を感じる力が強くなっているみたいだ」

「体に不調は……起きているね」

「そうだな。でもこれは、気配に慣れていないからだろう」

そうなんだろうな。

でも、どうして気配を感じられるようになったんだろう?

「確信を持ててから話そうと思っていたのに、まさかこんな形で話す事になるなんてな」

ため息を吐くお父さんに苦笑してしまう。

本当に、弱みを見せるのが苦手だよね。