作品タイトル不明
694話 残念
木の魔物は、どうして黒い蜜を付けた枝をソラにくれたんだろう?
「もしかして、ソラはこの黒い蜜を食べるのかな?」
「えっ? どうしてそんな考えになったんだ?」
驚いた表情で私を見るガバリ団長さん。
どうしてって。
「これはソラが貰った物なので、食べるのかなって思ったんですけど」
「この黒い蜜は、アイビーが貰った物だろう?」
ガバリ団長さんの言葉に賛同するように、木の魔物の葉が揺れる。
私にくれた物だったんだ。
もしかして、ソラが私のテイムした魔物だから?
でも、治療したのはソラだからソラに何かあげて欲しいな。
「それと、スライムは黒い蜜を食べないと思うぞ。そんな話は聞いた事が無いから」
そうなんだ。
でも、ソラなら食べるかもしれない。
「ソラ、これ食べる?」
こういう事は、本人に確認するのが一番だよね。
「ぷ~」
「食べないのか」
残念。
ソラが食べないというなら、黒い蜜はガバリ団長さんにあげよう。
「この黒い蜜は、ガバリ団長さんが持って行っていいですよ。お父さんもいい?」
「あぁ、問題ない」
私とお父さんの会話を聞いていたガバリ団長さんが、なぜか焦りだした。
「問題あるだろう。これ、いくらすると思っているんだ?」
初めて黒い蜜という存在を知ったので、知らないな。
「高いの?」
お父さんを見ると頷いた。
「全てのポーションに効果が出るし、黒い蜜を入れたポーションの効きは別格だからな」
そうなんだ。
やっぱり、ソラのポーションに入れたらどうなるか試してみたいな。
もしかしたら、お父さんの腕が元に戻ったりしないかな?
「ん? 欠損した物は戻らないぞ」
あっ、見ているのがばれたみたい。
「あっちのポーションでも、無理かな?」
さすがにここでソラのポーションとは言えないから濁したけど、気付くかな?
「無理だと思う。あの2つのポーションは、傷と病気を治療する物だから。そもそも欠損した部分を再生させるポーションなんて、この世にないからな」
そうか。
今あるポーションの効果を高めても、欠損した部分には意味が無いのか。
残念。
ポンと優しく撫でるお父さんを見上げる。
なぜか嬉しそうな表情をしているお父さんに首を傾げる。
「優しい娘がいて幸せだな」
優しいかな?
「ガバリ団長。値段はそちらで決めて下さい」
あれ?
「お金を取るの?」
木の魔物から、タダで貰ったのに?
「当然だ。こんな高価な物を無料では貰えないよ。商業ギルドを通しての売買になるが、問題ないか?」
「あぁ、大丈夫だ」
お父さんとガバリ団長さんで話が纏まったみたい。
それにしてもいいのかな?
木の魔物を見る。
話は聞こえているはずだけど、気にしている様子は無い。
というか、ソラはいつの間にか起きているフレムやソルと遊んでいる。
あげた物の行方は気にしないようだ。
それならいいのかな?
「ありがとうございます」
お父さんがお礼を言うと、ガバリ団長さんも枝をちょっと持ち上げた。
「お礼は、俺が言うべきだろうな。黒い蜜の事もだけど、木の魔物が何をしているのかようやくわかったし。まさか、魔法陣だとは思いもしなかったが」
複雑な表情のガバリ団長さん。
分かって良かったけど、魔法陣が関係しているとなると素直に喜べないよね。
「そう言えば、あの魔法陣はどんな影響を及ぼす物だったんだ?」
お父さんの質問に少し考えるガバリ団長さん。
極秘情報になるのかな?
「ドルイド達だったら大丈夫か。内密に頼むな」
ガバリ団長さんの言葉に、お父さんと私が頷く。
「あれは、混乱を起こす魔法陣だ」
「混乱?」
「そうだ。半分ぐらいしか解明が出来ていないんだが、混乱を引き起こす文字が複数確認できた」
洞窟の中で混乱を引き起こすと、どうなるんだろう?
「洞窟も魔法陣の影響を受けるのか?」
お父さんの言葉に、ガバリ団長さんが首を傾げる。
「それは分からないが、全く影響を受けないという事は無いだろう」
ガバリ団長さんも知らないんだ。
知らないと対策も取れないから、不安だよね。
ん?
ソラ達と遊んでいる木の魔物を見る。
「うわっ」
すごい。
枝をしならせて、ソラ達を遠くに飛ばしている。
あの枝、あんなにしならせて折れないのかな?
というか、木の魔物に痛覚はあるのかな?
「凄い遊びだな。枝が折れそうで怖いんだが」
ガバリ団長さんも私と同じ感想だ。
やっぱり、あの枝のしなりぐあいは見ていると怖いよね。
うわ~、折れそう!
「ぷっぷぷ~」
飛ばされて喜んでいるソラを見る。
シエルに飛ばされる時より、遠く飛ぶのが面白いのか。
かなり楽しそう。
「てっりゅりゅ~」
フレムも楽しそうだね。
「ぺっ」
ソルは声がちょっと引きつってない?
「にゃ~」
シエルまで?
というか、飛ばされるためにわざわざスライムになったの?
「楽しそうだな」
ガバリ団長さんが、面白そうに飛んで行くソラ達を見る。
あっ、飛ばされるために並んでいる。
何となく順番に飛ばされていくソラ達を見る。
ん?
ゆっくり見てどうするの。
私は、木の魔物に聞きたい事があったのに。
「遊んでいるのに、ごめんね。木の魔物に聞きたい事があるんだけど、大丈夫?」
私の言葉に、木の魔物が遊ぶのを止めてくれた。
ソラ達から不満が出るかもと思ったけど、大丈夫の様だ。
良かった。
「木の魔物が消してくれた魔法陣。あれは、混乱を引き起こす魔法陣だったんだけど、洞窟の中で魔法陣が発動すると洞窟にも影響が出るのか、知ってる?」
ガバリ団長さんが、呆然と私を見ている事に気付く。
なんだろう?
「ぎゃっ!」
木の魔物が鳴くと、葉っぱがざわざわと揺れた。
知っているという事だよね。
「影響はあるみたいだな」
お父さんの言葉に頷く。
「どんな影響があるのか、わかる?」
「ぎゃっ」
もしかしたら知っているかもと思ったけど、やっぱり知っているんだ。
どうやって聞いたら、分かるかな。
「洞窟の中でも混乱が起きるの?」
「ぎゃっ」
洞窟の中で混乱を起こすのは、人かな?
「洞窟内部にいる人が混乱を起こすの?」
「……」
違うのか。
「魔物が混乱するの?」
「ぎゃっ」
「魔物が混乱して、洞窟から出ていく事はあるのか?」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
お父さんの質問に、大きく反応する木の魔物。
「もしかして、洞窟から魔物を溢れさせる魔法陣か?」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
この反応は、正解だよね。
「凄いな、普通に質問をしだしたと思ったら、まさかそれに魔物が答えるとは。意思疎通が、しっかり出来るものなんだな」
ガバリ団長さんが、私とお父さんと木の魔物を見る。
「それより、木の魔物が消してくれた魔法陣は、かなり危険な物だったみたいだぞ」
「あぁ、話を聞いていたから分かっている。魔法陣を消してくれたお陰で、魔物が溢れる事は無かったよ、ありがとう」
ガバリ団長さんが木の魔物の枝をぽんぽんと優しく撫でると、嬉しかったのか葉っぱがざわざわと揺れた。