軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71話 恐怖と名物

広場へ戻る途中、不意に不快感を覚えた。

討伐中に、寝泊まりしていた広場で感じた不快感より強い。

その不快感を追うと、複数の人の気配がする。

一瞬足が止まりかけるが、今いる場所は人が少ない。

走らない様に気を付けながら、急ぎ足で広場へ向かう。

人が多すぎる場所は、注意力が散漫になるから駄目。

でも少なすぎると、もしもの時助けを呼べないから駄目。

ラットルアさんから聞いた注意事項を頭に浮かべながら、道を選んで戻る。

管理の人に頭を下げて、広場へ入る。

テントの中で待ち伏せされる事もあるので、入る前には気配を調べるようにとも言われている。

怖いので、テントから少し離れた場所から気配を探る。

よかった気配はない。

テントの中に入り、入り口をしっかりと閉めて金具で止める。

「はぁ~……」

両手を見ると微かに震えている。

そう言えば、怖すぎて誰なのかを確認できなかったな。

ソラをバッグから出して、ギュッと抱きしめる。

何かを感じたのだろう、テントの中では鳴いたことが無いのに小さく「ぷぷ~」と鳴いている。

テント周辺の気配を探る。

少し離れた所から、話し声が聞こえる。

人が動く音もするが、こちらを気にかけている気配はない。

「ありがとう、ソラ」

ソラの前にポーションを並べる。

食べ始めるのを確認してから、捨て場から拾ってきたソラ用のポーションを整理する。

専用バッグに入れていくが、数が多すぎたのか少し入りきらなかった。

それらをテントの隅にまとめておく。

途中、何度も外の気配を探る。

ふぅ~、何かをしていないと落ち着かない。

でも、テントの外には出たくないな。

ポーションを入れてきたバッグの中に手を入れる。

そして、小型のナイフを手に取る。

ポーションを拾っている時に目について、思わず拾ってしまった物だ。

村を出るとき、小型の剣を持っていた。

だが、森の中を走り回っている時に落としてしまい、それ以来武器は持っていなかった。

私には大きすぎたし、逃げる時に邪魔だったからだ。

でも、このナイフを見た時、自然と手に取っていた。

このナイフで何か出来るのか……たぶん何も出来ないだろうな。

セイゼルクさんの話だと、手慣れた人物が多数いる組織の可能性があるそうだ。

攻撃スキルを何も持っていない私が、ナイフ1本でできる事はほとんどない。

それでも、ナイフを持つと少し落ち着く。

食事が終わったソラが、ピョンピョンと私の周りを跳ねまわっている。

何だか、その姿に体から余分な力が抜ける。

「ソラ、ありがとう」

お礼を言って、揺れるソラをゆっくりと撫でる。

ソラがいてくれてよかった。

テントの外で音がする。

気配を探ると、知っている気配だ。

これは、セイゼルクさんにラットルアさん。

「アイビー、いるか?」

「はい」

ラットルアさんの声に、返事をする。

ソラをバッグに入れて、テントの入り口を開ける。

「よかった。夕飯を買ってきたから食べよう」

「えっ? 夕飯?」

周りを見ると、既に明かりが灯されているテントが見える。

気が付かないうちに夜になっていたんだ。

「そう。この町の名物なんだ。アイビーに食べて欲しくて買ってきちゃった」

「うれしいです。ありがとうございます」

テントから出て、周りを確認する。

ボロルダさんとリックベルトさんが、机を用意して買ってきた物を並べている。

ドンッ。

少し重たい物が置かれる音がすると、机の真ん中に大きな酒のビン。

今日はお酒が解禁の様だ。

「よし、食おう!」

ボロルダさんは食おうと言いながら、お酒をコップに注ぎ飲み干す。

「あ~、久々の酒は美味い!」

「討伐隊のリーダーなんかになるからだろ。そのせいで俺達も飲めなかった」

リックベルトさんが、愚痴をボロルダさんにこぼす。

「仕方ないだろ、あの時は他の奴がこの町にいなかったんだから。いたらしてね~よ」

ボロルダさんとリックベルトさんが交互に勢いよく飲んでいく。

すごい!

まるで水みたいに飲んでいる。

「2人とも、少し大人しく飲め」

セイゼルクさんが、呆れたように酒のビンを取り上げる。

「「あ~……酒」」

取り上げられた酒ビンに、手を伸ばす2人の姿に笑いが込み上げる。

「セイゼルク、返せ!」

ボロルダさんが取り上げられた酒を取り返すと、コップに酒を足して飲む。

セイゼルクさんは呆れた顔をしている。

私の中でボロルダさんの印象って、どんどん変わっていくな。

不思議な人だ。

「アイビー、気にしなくていいよ。はい、これがこの町の名物。モウの煮込みスープです!」

お皿に盛られたスープは、モウの大きなお肉がごろごろと入ったとろみのあるスープ。

口に入れると、懐かしい味に近い。

何だっけ……懐かしいってことは前の私だな。

ビーフシチューと言う言葉が浮かぶ。

どうやらビーフシチューという料理に味が似ているらしい。

「美味しくない?」

「えっ!」

じっと味を考えているのを、不味いと勘違いさせてしまったみたいだ。

ラットルアさんが不安そうに私の顔を覗き込む。

「違います。知っている味に似ていたので」

あっ、これは駄目だ。

「知っている味?」

「……はい。昔にちょっと」

説明とか無理です。

ラトミ村では、お肉は野ネズミぐらいだった。

しかもほとんど干してある物。

どう言えば、問題ないかな。

「そっか~、美味しい?」

「はい。美味しいです」

「よかった。これは俺の好物なんだ」

「私もこの味、大好きです」

「へへ、よかった」

ラットルアさんは少し照れたような、ただ少し寂しげに見える笑顔を見せた。

時々、こんな表情をする。

すぐに隠されてしまうが、その表情を見ると悲しくなる。

きっと冒険者の人達っていろいろあるんだろうな。

辛い事とかも。

「アイビー! 君も飲め!」

「えっ?」

ちょっと目が据わったリックベルトさんがコップをずいっと差し出す。

いきなり何だろう。

それに私が未成年だと知っているよね。

「やめんか! ったく。悪いなアイビー、今日のリックベルトは絡み酒だ」

セイゼルクさんが、差し出されているコップを取りあげた。

それに不服そうな表情のリックベルトさん。

何だか新しい一面だな。

ただ、ものすごく目が据わっているから怖いな。

「あちゃ~、今日のリックベルトさんはめんどくさい方だね」

「めんどくさい?」

「そう、酔い方が3種類あるんだ彼。笑い酒、絡み酒、あと自慢酒。今日は一番厄介な絡み酒だ」

ラットルアさんが、苦笑いしながら説明してくれた。

「ご飯食べ終わったら、テントに戻った方がいいかな。あ~なると長いから」

セイゼルクさんに絡んでいるリックベルトさんを見る。

「いいか、今回俺は本当に頑張ったんだ。なのに誰だよ、俺の手柄を~!」

絡み酒と言うか、愚痴を隣で言い続けられるのか。

それは確かに嫌だな。

よし、周りの物を片付けてさっさとテントに戻ろう。

汚れたお皿などを、静かに片付ける。

リックベルトさんに見つからない様に、静かにテントに戻る。

「おやすみなさい」

私のちいさな声に気が付いたセイゼルクさんが、片手をあげてくれた。

明日、皆大丈夫かな?