軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

514話 本

「本格的な休憩すぎるだろう」

ジナルさんが、机の上にあるお菓子を食べながらため息を吐く。

「ぷっぷ~」

私の膝の上にいるソラが、不思議そうに体を傾けジナルさんを見る。

ジナルさんの膝の上にいる、ソルは眠そう……いや、いつの間にか寝ている。

「ジナル、言っていることと行動が伴っていないぞ。そう思うなら食うな」

確かに、この状態を疑問に思っているらしいが、しっかりお菓子に手が伸びている。

あっ、次のお菓子にも手を伸ばした。

反対の手はソルを撫でてるし……。

「普通、洞窟の中で机を出してお湯まで沸かして休憩するか?」

そう言えば、ジナルさんたちと合流してから洞窟内でゆっくり休憩した事は無かったかも。

「たまにするが。今もしているし」

「まぁ、そうだが。……これまでの常識が、シエルに会ってから通用しないな。あっ!」

ジナルさんが自分のマジックバッグから、新しいお菓子を出す。

「渡すの忘れてた。ハタハ村で美味かったから買ってきたんだった。アイビーは食べた事があるか?」

ジナルさんが机の上に置いたお菓子は、紫色の焼き菓子。

食べた事どころか見たのも初めてだったので、首を横に振る。

「初めて見ます」

「ハタハ村の大通りの隅にある店のお菓子だ。ムルという野菜を練り込んであるんだよ」

「ムル!」

ジナルさんがお菓子を差し出すと、お父さんが慌ててそのお菓子を取り上げる。

「あの不味いムルの菓子なんて食べさせるな!」

不味いの?

驚いてジナルさんを見ると、笑って首を横に振っている。

「すごく渋い野菜を使用しているからそう考えるだろうけど、これは渋くなくて美味しいんだって」

ジナルさんがフィーシェさんに話を振ると、フィーシェさんも頷く。

お父さんはそれに首を傾げる。

そんなに渋い野菜なんだろうか?

「本当に美味いのか?」

「あぁ、疑うなら俺たちが先に食べるって」

そう言うとジナルさんがムルの野菜が入った焼き菓子を食べる。

それをお父さんが、ちょっと驚いた表情で見ている。

何だか、ムルの渋さが気になるな。

どれくらいなんだろう?

「本当に食べた」

お父さんが眉間に皺を寄せてお菓子を見ると、一口かぶりついた。

「……渋くない」

「だろ?」

「美味い」

「そうなんだよ」

お父さんの驚きに、ジナルさんが得意げに笑う。

「ハタカ村とハタヒ村の間に、今は無いんだが小さい集落があったらしい。そこではムルを上手に渋抜きして、なんにでも使っていたそうだ。この焼き菓子を売っている主人が、その集落の末裔で渋抜き方法を知っているんだ」

1つ焼き菓子を取って食べる。

すごい生地がしっとりしてる。

ムルを使っているからかな?

「どうだ?」

「すごいしっとりしてますね」

「そうなんだよ。それが美味くてな」

確かに美味しい。

程よい甘さだから、結構な数が食べられそう。

「にゃうん」

シエルの鳴き声に、全員が視線を向ける。

広い洞窟の真中に集まって、ドーリャと体を寄せあっている。

遊び疲れたのか、シエルたちもちょっと休憩のようだ。

「本当に不思議な光景だよな」

ジナルさんの言葉に、フィーシェさんが頷く。

「アダンダラとドーリャか……あれ?」

フィーシェさんが、思案顔で首を傾げる。

「どうしたんだ?」

「いや、アダンダラとドーリャで何か思い出したような気がして……なんだっけ……あっ! さっきジナルが言った洞窟の守り神だ! そうだ、さっきもなんか思い出しかけたんだが、あれだ!」

フィーシェさん1人が納得したように頷くが、ジナルさんも私とお父さんも首を傾げる。

なんの事なのかさっぱり分からない。

一緒のチームのジナルさんを見るが、眉間に皴を寄せてフィーシェさんを見ている。

どうやら、彼も分からないようだ。

「フィーシェ、何のことだ?」

ジナルさんが、思い出した事でちょっと興奮しているフィーシェさんに声を掛ける。

「ん? 覚えていないか? アダンダラもドーリャも洞窟の守り神と書いてあった本があっただろ?」

アダンダラも洞窟の守り神?

そんな本があるの?

「本………………?あぁ、俺たちがまだ10代の頃に見たあの本か!」

ジナルさんの言葉にフィーシェさんが嬉しそうに笑う。

「どんな本なんだ?」

お父さんがフィーシェさんとジナルさんを見る。

私も知りたい!

そんな本があるなら読んでみたい!

「王都の隣のカシメ町にある本屋に、見た目の違う本が置いてあるんだよ。その本を一冊だけ読ませてもらったことがあって、それにアダンダラとドーリャの事が載っていたんだったよな?」

見た目の違う本?

「どんな本なんですか?」

「こんなに分厚い本なんだ」

そう言ってジナルさんが手で作ったのは約3㎝の幅。

それを見て、「あれ?」と思う。

これまで見てきた本屋にあったのは、糸を使って綴じた冊子。

どの冊子も薄かった。

確か、沢山綴じると紙がめくりにくいとか紙に負担が掛り過ぎて取れやすくなるとか色々理由があったはず。

「しかも紐で留めてないのに、しっかり本なんだよ」

紐で留めてない?

それって、占い師がくれた本に似ているかもしれない。

お父さんにも見せた事があるため、ジナルさんの話をじっと聞いている。

「表紙も紐でとじられた本よりしっかりしていたよな?」

フィーシェさんが言うとジナルさんが頷く。

やっぱり、私が占い師に貰った本と同じかも。

どの本屋にも無かったから諦めていたけど、やっぱりあるところにはあるんだ。

「カシメ町にある本屋には、そんな本が沢山あるんですか? 王都にもありますか?」

私の質問にジナルさんとフィーシェさんは首を横に振る。

「いや、今言った本はカシメ町の1軒の本屋でしか見た事は無いな。王都でも無い」

1軒だけ?

ジナルさんの説明に首を傾げる。

「その本屋なんだが、店主が頑固でよく揉め事が起こるんだよ。まぁ、貴族や金持ちがいちゃもんをつけるんだけどな」

フィーシェさんの説明にジナルさんが苦笑いする。

「そうそう、俺たちがその本屋を知ったのも冒険者ギルドからの依頼。その時は、冒険者が理不尽な要求をしてくるから、仲裁してくれだったな」

冒険者ギルドが仲裁の依頼?

そんな事もするんだ。

「その本屋、今言ったように珍しい本があるから、それを譲ってほしいという奴がいるんだよ。断られたら諦めたらいいのに、権力や金や力で何とかしようとする馬鹿が多くてさ」

あぁ、なんとなく想像がつきそう。

「断られた貴族がどう動くか想像がつくな」

お父さんの言葉に、ジナルさんが嫌そうな表情で頷く。

「まぁな。でも本は、その本屋の財産という位置付けだから、持ち主が拒否すれば貴族でも奪うのは難しい。何かして、訴えられたら貴族の恥だしな。で、ならず者や下位冒険者を雇って色々するわけだ。その色々してくる馬鹿たちを処理する依頼が舞い込むんだよ」

本屋も大変そうだな。

「何回目かの依頼が来て処理したあとに、店主に言ったんだよ。その本を売るのが無理なら、複製して売ればいいって。本の中身を知りたいと思っている者は、見た目が変わっても満足するはずだって。それだけでも文句を言ってくる者は減るはずだからって」

本の珍しさに目がくらんでいたら無理だけど、本の内容に興味がある人なら見た目なんて気にしないよね。

「まぁ、すぐに断られたけどな」

断った?

「置いてある本の内容を知ることができるのは、本の正当な持ち主だけだって」

「正当な持ち主?」

ジナルさんの言葉にお父さんが訊き返す。

「あぁ、正当な持ち主だと言った。俺も不思議に思って訊き返したからな」

2人の会話に首を傾げる。

「正当な持ち主」とは、何か問題のある言葉なんだろうか?

「その正当な持ち主は誰だったんだ?」

「それが……」

お父さんの質問にジナルさんが、ため息を吐く。

「『今はまだいない。いずれ現れるそうだ』と言われたんだよ」

いずれ現れるって、今は存在してないみたいな言い方だな。

そんな事あるのかな?

「なんだ、それ……。意味が分からないんだが」

「ドルイドの言う通り、俺たちもさっぱりだ。それ以上は何を訊いても答えてくれなかったからな」

フィーシェさんが肩を竦める。

「あぁ、でも。もっとおかしなことを言っただろ?」

ジナルさんの言葉にフィーシェさんが不思議そうにジナルさんを見る。

「あれ? 傍にいなかったか? ガリットだったかな? 『この本たちは必要が無くなれば消える。持ち主が見る前に消えるのが一番だ』って」

「「「はっ?」」」

あっ、フィーシェさんとお父さんと気持ちが一緒になったみたい。

こんな事で一緒になっても意味はないけど。

それにしても、その本屋さん気になるな。

洞窟の壁に寄せかけてあるマジックバッグを見る。

あの中に、貰った本が入っている。

ジナルさんに見せた方がいいかな?