軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 ギルマスさんと裏切り者2

「幼馴染?」

ガリットの驚いた声に頷く。

ピアルに押さえ込まれているのは、間違いなく幼馴染のティグだ。

昔は一緒に鍛錬に励み、一緒に魔物を討伐した仲間だ。

少し性格に問題はあるが、まさか裏切っていたなんて。

「誤解だ。俺は心配になってここにいただけだ」

「見苦しいな。心配だったら隠れる必要はないだろうが」

ガリットの言葉に、彼を睨みつけるティグ。

いつから、こいつは裏切っていたんだろうか?

……それを知ったところで、意味は無いが……。

「ティグ、残念だ」

俺の言葉に、睨んでくるティグ。

その表情を見ると悲しみに襲われるが、ギルマスとしての仕事がある。

小さく深呼吸し気持ちを切り替える。

グピナス司教とサリフィーからは、話が聞き出せない可能性がある。

ならば、ティグを上手く誘導して情報を聞き出すのが得策だろう。

こいつは気が短い、そこを上手く突けばすぐにぼろを出すはずだ。

「お前が裏切り者だとは……。そうか、先輩たちはお前が裏切ることを分かっていたのかもしれないな。だから同期の中で一番上位冒険者になるのが遅かったんだ。最後まで反対した者もいたもんな」

「煩い! 奴らに何が分かる!」

「そう言えば、前のギルマスのチェマンタにも不安がられていたよな」

「煩い! ははっ、お前は知らないだろうがチェマンタはこちら側だ! 残念だったな。どうだ? 信じていた者に裏切られる気持ちは」

最悪だよ。

だがこれでチェマンタが確実に裏切り者だと確定した。

思い出した記憶は信じていたが、どこかで否定したい思いもあった。だがもう迷うことは無い。

あとは……チェマンタの居場所を知っているだろうか?

「チェマンタが裏切っている事は知っているぞ? 別に何か思うことは無い。あいつは敵だ」

「何?」

「知っていたと言っているんだ」

「それは嘘だ。奴がこの町から出て行く時、まだお前は知らないから良い様に利用しろと言っていた。はっ、見栄を張っても無駄だ」

この町にはチェマンタはいないのか。

それにしても、前にもまして口が軽くなっていないか?

上手に誘導なんて、出来てないぞ?

もしかして嘘か?

すっと目を細めティグを観察する。

嘘をついている様子は無いが、少し揺さぶってみるか?

「相変わらず口が軽いな。だから誰もお前を必要としなかったんだろうな。可哀そうに」

「なっ」

ティグの表情が醜く歪むと暴れだす。

ピアルが少し焦って力を籠めるが、さすがに色々経験しているだけはあり、跳ねのけられてしまう。

「がっ、何?」

ピアルの手が離れた瞬間、にやりと笑ったティグ。

だがすぐにガリットによって、もう一度廊下に体を押さえつけられた。

その手際の良さを見て、ガリットに視線を向けると肩を竦められた。

やはり、ガリットを含め『風』の奴らは何か隠しているな。

「くそっ」

「悔しいか? まぁ、その姿はかなりお似合いだが」

「はっ、いい気になるなよ。お前がどうこうしたところで既に手遅れだ。この村の冒険者も自警団員もアーピーの一言で暴走する。どうやって自我を取り戻したのか知らないが、全て手遅れなんだよ! ははははっ」

アーピー。

この村の商人だったな。

確か、他の村や町にも店を構えていたはずだ。

そうか、奴か。

「よくしゃべるな、お前。まさかこんなに簡単に重要人物の名前をしゃべるとは驚きだ」

この口の軽さのせいで、作戦が無駄になったことがあったよな。

「くっ、いい気になるなよ。俺がアーピーの下に戻らなければ、自警団員や冒険者たちが暴れ回る手はずになっている。いいのか? 村に被害が出るぞ。ははははっ」

ティグが不気味に笑いだす。

「今の冒険者だったら、自警団員で押え込めるだろう」

「馬鹿か。話を聞いていたか? 自警団員も俺たちの命令で動くんだよ! 今のうちに俺に対する態度を改めた方がいいぞ。少しなら手加減ってやつをしてやるよ。俺は優しいからな」

そう言えば、ティグは昔から人の上に立ちたがっていたな。

俺がギルマスになった時も、悔しそうだった。

ティグはそのおしゃべりなところと人を馬鹿にする性格があったから候補にも上がっていなかったがな。

何度も注意したけど、やはり直らなかったんだな。

ただ、命がけで仲間を守る度胸と優しさはあったが……。

「ティグ。俺がどうやって自我を取り戻したのか、気にならないか?」

「どうせお前に使った魔法陣が中途半端だったんだろう?」

魔法陣について、知っているみたいだな。

「そうか」

「それより離せ! いいのか? 俺にこんな事をして、村の奴らが死ぬぞ。それとも何か解決策でもあるっていうのか? くくっ」

嫌らしく笑うティグに、嫌悪感を覚える。

年を取って丸くなるって嘘だな。

昔よりひどい。

「確かに自警団員と冒険者たちが暴れ回れば、被害はでかいだろうな」

だが、今の話を聞いた瞬間にピアルは俺に1つ頷いてからいなくなった。

恐らくアッパスに、報告に行ったんだろう。

自警団を動かす全ての権力を持っている自警団長の指示を仰ぐために。

「だったらこいつに命令して手を離させろ!」

「なぜだ? お前は犯罪者なのに、どうして手を離せと命令されなければならない?」

「はっ?」

ティグが俺を唖然と見上げる。

なんとも間抜けだな。

「先ほどの質問に答えるよ。『何か解決策はあるのか?』だったな……答えはある、だ」

まぁ、実際に冒険者が暴れだしたら自警団員が押え込むまでに少し被害が出るだろう。

だからと言って、ティグの要望を聞くことは無い。

それは絶対だ。

「ありえない」

「それと、俺が自我を取り戻した事を不思議に思わないか聞いただろう? お前は術のせいにしたが、それは違う。俺はある方法で自我を取り戻した。そして同じ方法で自警団員たちが術から解放されている。だから、さっきのお前の作戦はけっして成功しない」

別の方法で自我を取り戻したが、同じ方法と言っておいた方がいいだろう。

後でこの件は必ず調査が入る。

こいつにも必ず話を聞きに来るだろうからな。

口の軽さも、利用する側からすると便利なんだよな。

ちょっとした防波堤にしかならないが、ないよりましだ。

「まさか、そんなはずはない。……もしかして魔法陣か? お前たちも魔法陣を使っているのか?」

ティグの焦った表情に、ニコリと笑みを返す。

そんな俺を見たんだろう、ガリットが嫌そうな表情をして俺を見る。

そんなあくどい表情をしただろうか?

……したかもしれない。

「ガリット、悪いんだが」

俺の言葉が衝撃だったのか、小声でぶつぶつ何か言っているティグを見ながらガリットにお願いをする。

「なんだ?」

「あ~、そいつの服をめくって腹と背中を見せてくれ」

「はっ?」

「言っておくが趣味では無いからな。サリフィーのように魔法陣が彫られていると厄介だから、確認したいだけだ」

「あぁ、なるほど」

ガリットが押えつけながらシャツを上にめくりあげる。

本当に手際がいいな。

ティグの腹と背中には魔法陣は無かった。

その事にほっとする。

「少しそのまま、待っててくれ」

地下の牢屋に戻り奴隷の輪を掴む。

冒険者ギルドの牢屋にも、自警団の牢屋にも魔法陣を体に刻んだ者が入っている。

どういう状態になると発動するかは不明だが、ティグは必ず何かする。

それを防ぐためにも、制限するしかないよな。

あ~、後で問題になるかな?

サリフィーたちは魔法陣があったからと言い訳出来るが、ティグは無かったからな。

まぁ、仕方ないか。

「悪い待たせた」

押さえ込まれているティグの腕に奴隷の輪を嵌める。

「首じゃないのか?」

「まだ判決が出てないからな。普通は駄目だから」

ガリットが俺の言葉に、納得した表情をする。

そっと彼を窺うが、奴隷の輪を使う事を疑問に思っていないようだ。

……普通は、何か思うよな?

「まぁ、俺たちは色々経験が豊富だから、それもありだろう」

俺の視線に気付いたのか、苦笑を浮かべるガリット。

経験豊富か。

「裏か?」

表には出すことが出来ない問題を、解決する冒険者がいる事は知っている。

エッチェーが、そんな仕事をしていたからな。

「まぁ、それもあるかな?」

やはり、ただの冒険者ではなかったか。

しかし、「それもある」ってなんだ?