軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 ギルマスさんと裏切り者

「あ~、待て」

忘れていた。

牢屋の中を見られたら、ソルの魔石が見つかってしまう。

疲れているのか?

しっかりしないと。

「まだ何があるか分からないから、階段は下りるな。話は、そこからしてくれたらいい」

俺の言葉にイイリャがホッとした表情をして、下まで下りていた階段を少し上る。

その行動に少し笑ってしまう。

「そう言えば、グピナス司教が気持ち悪いってどういうことだ? 何かあったのか?」

階段の上方に移動したイイリャが見えるように、階段の傍まで移動する。

後ろを振り返ると、牢屋からはまだ光が溢れている。

何かあっても、対処出来るようにしておかないとな。

ソルの魔石があるから大丈夫だとは思うが。

「それが、こちらで魔法陣が発動したと言ったら、すぐに自分は助けられると笑いだして。その後はなんていうか……最悪でした」

「最悪?」

「はい。『奴隷の輪を外さんか、私を誰だと思っている』とか、『外したら少しは面倒見てやる』とか。もう言いたい放題なんですよ。それを無視したら牢屋の中で大暴れ。ベッドは壊すしこちらにベッドの破片を投げてくるし、大変でした」

イイリャから聞かされるグピナス司教の様子に唖然とする。

まさか、そこまでひどいとは。

というか、教会に籍を置く者の態度では無いな。

もう、大人しくしておく必要が無いと思ったのか、それとも魔法陣による影響か?

「話している内容は、とにかくおかしいです。あと、表情なんですが……何というか……。笑ってはいるんですが、その笑みがとにかく気持ち悪くて。前に会った時は、そんな風に思わなかったんですが」

表情も変わったという事か。

「もしかしたら、魔法陣を使いすぎて狂ったのかもしれないな」

狂っていたとしても、グピナス司教の言った「助けられる」が気になる。

サリフィー司祭の体に刻まれている魔法陣が発動したら、グピナス司教を助けだす者が現れるって事だよな。

「グピナス司教の警備を増やしてくれ」

「あっ、大丈夫です。『助けられる』という言葉と本人の態度が気になったので、警備を2倍にしておきました」

イイリャは本当に有能だな。

だが、ギルマスには向かないんだよな。

弱くないくせに、戦闘が苦手だからな~。

残念だ。

「さすがだ」

俺の言葉に嬉しそうにするイイリャ。

とりあえず、グピナス司教の方は大丈夫か。

まぁ、裏切り者が紛れ込んでいる可能性を考えると、万全とは言えないが。

「裏切り者の方だがどうだった?」

「ギルマスの言う通り、態度のおかしい者を数名見つけました。冒険者ギルドの職員が3名、冒険者が4名です。ただ、司教が捕まったため困惑しているのか、裏切り者なのか微妙に分からない者もいました」

教会の教えを信じている者にとっては司教が捕まった事は信じられないだろうな。

その者たちが暴走しないといいが。

「その微妙な者たちは?」

「2名のギルド職員です。牢屋に近付こうとしたので、注意をしておきました」

2名か。

思ったよりも少ないな。

「分かった。短時間に良く調べてくれた、ありがとう」

「いえ、こういう人を観察する仕事は好きなので」

知っている。

「犯罪者を1日中観察できる」と牢屋番の隊長に志願した奴なんて初めてだからな。

いい人材なんだけどな。

本当に残念だ。

「ギルマス」

後ろからピアルの声がしたので振り向くと、階段からドタバタと音がした。

音を確認すると、イイリャが一番上まで避難していた。

まぁ、いいけどな。

「どうした?」

「魔法陣から光が消えました」

終わったのか?

サリフィーがいる牢屋まで行き、中を見る。

確かに、魔法陣から発生していた光はどこにも無く、元の薄暗い牢屋に戻っていた。

サリフィーは地面に倒れ、体がびくびくと痙攣をしているように見える。

「確認します」

ピアルが牢屋に入ろうとするのを止める。

「俺が――」

「駄目です。ギルマスに何かあった方が被害が大きいんですから」

ピアルはそれだけ言うと、牢屋にさっさと入ってしまう。

そして、横に倒れていたサリフィーを仰向きにすると、脈を確かめた。

顔色や、目の状態を確認すると牢屋の外に出てきた。

「どうだった?」

「気を失っている感じです。目には充血も無く、特に問題は無いかと思うんですが、顔色がかなり悪いです」

「そうか」

魔法陣が発動した衝撃で倒れたのか、それとも限界になって倒れたのか。

今の段階では分からないな。

目が覚めたら話も聞けるが……様子見だな。

「イイリャ。アッパスの家に行って、とりあえず魔法陣が落ち着いたことを伝えてくれ」

「分かりました」

イイリャが階段から離れていく音が聞こえる。

「とりあえずベッドに寝かせておきます」

ピアルが牢屋に戻ると、地面に横たわっているサリフィーをベッドに移動させる。

あっ、しまった。

裏切り者の人数は確認したが、誰なのかを聞いてない。

はぁ、こんなミスをするとは。

「見張りを新たに立てますか?」

ピアルが牢屋から出ると、扉に鍵をかける。

「そうだな、見張りというか警備は必要だろう。サリフィーを連れ去る者が現れるかもしれないしな」

とりあえず、地下から出る事になり上に続く階段へ向かう。

「ここか? ギルマス、いるか?」

「誰だ?」

どこかで聞いたことがあるが、馴染みのない声が聞こえた。

「悪い。ガリットだ」

あぁ、ジナルさんたち『風』のメンバーの1人だな。

「何かあったのか?」

さっきの声が、少し焦っていたように聞こえたが。

階段の壁に手をかけて上を向く。

ガリットが、階段の上で手を挙げた。

階段を上がっていくと、ガリットの足元で何かが倒れているのが分かる。

それを不思議に思いながら近付くと、人だという事が分かった。

顔がこちらを向いているので確認したら、冒険者ギルドの職員と冒険者風の男性の2人。

倒れている者たちを見て首を傾げると、すっと小瓶が差し出される。

不思議に思い、それを受け取る。

「これは?」

「こいつらが所持していた、一定時間体を痺れさせる薬だな。主に自分より強い魔物に襲われた時に使うものだ」

馬鹿にされているのだろうか?

それぐらいは、色を見たら予測がつく。

魔物用の痺れ薬は綺麗な水色をしているのだから。

「睨むなって。こいつらが、そこから出てきた奴にかけようとしてたんだよ。真正面からギルマスを襲っても勝ち目はないと判断したんだろう」

ん?

そこって牢屋に続く階段の扉の事か?

そこから出てくる奴って、俺たちが狙いか?

「まぁ、裏切り者ってやつだな」

「はぁ~」

来るとは思ったが、予想より早いな。

「助かった」

「いや、団長から危ないかもしれないので様子を見に行ってくれと頼まれたんだ。こっちはまだ術を解いていない者が多いんだろう?」

ガリットの言葉に頷く。

まだというか、ほとんどの者たちが術に嵌っている状態だ。

「自警団の方はそろそろ終わりそうなんだ」

「えっ? 早くないか?」

「魔法陣をもう1つ準備して、術を解く人数を2倍にしたから」

だが、それだと術を解くために魔法陣を発動させている者たちにかなり負担が行くはずだ。

「ん? あぁ、心配ない。魔法陣をもう1つ作らせたのは、術を解いている奴らの希望だ」

その言葉に、後ろにいたピアルが驚いた声を出した。

それはそうだろう。

もう既にかなり魔法陣を発動させている。その上で数を増やせと言っているのだから。

「彼らの様子は?」

「ピンピンしてる。使い方は簡単で何度でも使えると皆大喜びだ」

ん?

ガリットのおかしな説明に首を傾げるが、少し離れた場所に人の気配を感じた。

仲間なのか、裏切り者か。

まぁ、隠れてこちらの様子を窺っているのだから裏切り者なんだろうな。

ピアルも隠れている存在に気付いたのか、俺の後ろからそっと離れる。

「そうか。それはよかった。そう言えば、もう朝か?」

少し声を大きくする。

「あぁ、…………飯でも行こうか?」

何を言うか迷ったな。

ピアルをそっと見ると、気配を消して人が隠れている場所へ近付く。

「そうだな。その前にサリフィーの警備を依頼しないとな」

「飯を食った後でもいいだろ。もう、問題は何もないんだろ?」

「あぁ、裏切り者も全て捕まえたし」

ゴン。

「うわっ」

音のした方を見ると、1人の男性がピアルによって廊下に押さえつけられていた。

その顔を見て、自分の表情が歪んだのが分かった。

「まさかお前が裏切り者だとはな」

「親しいのか?」

「……幼馴染だ」