軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

418話 逃げ、一択

しばらくすると団長さんが部屋に顔を出した。

「悪いな、遅くなった。それにしてもソラとソルはすごいな。あと4人だぞ。それに、疲れ知らずなのかまだまだ元気だ」

「あははっ、それは良かったです」

食べ過ぎで、身動き出来なくなっている事もなさそうだ。

団長さんが椅子に座ると、ナルガスさんたちは話を始める。

団長さんは静かにそれを聞いて、何度か頷いている。

「アイビーさんが、今が好機だと。俺たちもそう思います」

私の名前が出ると、団長さんがちらりと私を見る。

うん。

やはりこの人は団長さんだ。

一瞬だったけど、背中がぞくりとするような怖さがあった。

その怖さをゆっくり深呼吸することで追いやる。

上に立つ人って、何かを見抜こうとする力があるよね。

見られるこっちは、その視線がちょっと怖いのだけど。

「確かに、今がいい時だろう。誰が行くんだ?」

「俺たちとドルイドさんとアイビーさんで」

「子供を連れていくつもりか?」

「あっ」

団長さんの言葉に、ナルガスたちがぱっと私を見る。

えっ、もしかして忘れてたの?

いや、見たら分かるよね。

「話しぶりから、なんだか子供に思えなくて。おかしいな」

ピアルさんの言葉に他の3人が頷く。

話しぶりか、それは申し訳ないです。

「えっと……アイビーさんは村に」

「一緒に行きます」

ナルガスさんに、村にいるよう言われる前に宣言しておく。

足手まといにならないように頑張ろう。

「いや、それは」

団長さんが難色を示す。

やはり駄目かな?

私がいると、気が散るなら待っていた方がいいのかな?

「シエルがやる気になるから、アイビーは一緒に行った方がいいだろう。それに今回はナルガスたちが中心となって動く予定だ。俺たちはまぁ、……ちょっとしたお供って事で」

お父さんの説明に団長さんが、一瞬唖然としてすぐに笑いだした。

「ちょっとしたお供って。『ギルドの隠し玉』をそんな風に使うのはどうなんだ?」

団長さんの言葉に、嫌そうな表情を見せるお父さん。

まさか知っているとは思わなかったな。

誰かに聞いた?

ジナルさんたち?

「はぁ、その呼び方は嫌いなので」

「それは悪かった。そうだ、フォロンダ領主様から王都にいる知り合いに協力を得る事が出来たと報告があった。それと、名前は伏せられていたがアイビーの知り合いに魔法陣に詳しい人物がいるらしいので、その者が協力してくれたら直で『ふぁっくす』が届くことになっている。アイビー誰の事か分かるか?」

私の知り合いに魔法陣について知っている人?

そんな話はしたことがない。

誰の事だろう?

炎の剣のメンバーか、それとも雷王のメンバーかな?

もしかしてオグト隊長とか?

「誰なのかは全くわかりません。すみません」

「いや、魔法陣については極秘だからな。知らなくて仕方ない。アイビー」

「はい」

笑みを消して真剣な表情の団長さん。

まっすぐに私を見ると、ポンと頭に手が乗った。

「何かあった場合、自分の命を優先する事。それが守れるなら、森に出る事を許可する」

「大丈夫です。何かあった場合、自分の安全を最優先するので」

「えっ? そうか。アイビーはしっかり分かっているんだな」

私に何かあったら、お父さんとシエルの動きに制限がかかる。

だから、何があっても私は怪我はしても逃げきる事。

これが私にできる、最大限の協力だから。

絶対に間違わない。

団長さんの前でぐっと両手を握って見せる。

それを見ると、ふわりと団長さんが笑った。

「ドルイドは、いい子を娘に持ったな」

「自慢の娘です」

前も「自慢」だと言ってくれたけど、ちょっと恥ずかしいんだよね。

嬉しいんだけど……。

「今から鍛え上げれば」

「あげませんから」

団長さんの言葉をお父さんが遮る。

そしてちらりと睨みつけると、目が全く笑ってない笑みを見せた。

それを見たナルガスさんたちがちょっと引いている。

「あははははっ、怖いな~。まぁ仕方ないか。よしっ、ナルガスたちは話があるからついてこい。ドルイドたちはちょっと待っててくれ。すぐに済む」

ひとしきり笑うと団長さんはナルガスさんたちを引き連れて部屋を出ていった。

「団長さんは、抜け目がない感じだね」

人を観察する鋭い視線、あの目を向けられると全てばれている気がする。

でも、それだけでは無くて見守るような包容力も感じる。

「今回は敵の術に嵌ったが、相当やり手だろうな。だから悔しかったと思うぞ」

そうだよね。

ちょっとした隙を狙われたんだから。

「絶えず警戒をしている人たちを、陥れるってすごいよね。どんな敵なんだろう?」

サーペントさんを閉じ込めていた魔法陣を見たけど、かなり大掛かりな物だった。

これだけの人を操れるのだから、かなり大きな魔法陣を想像したけど、違うのかな?

それに敵はどんな人なんだろう。

誰にも気づかれないようにゆっくりと術を広げていくなんて、絶対に1人じゃないよね。

「冒険者ギルドでも自警団でも、自由に動ける者じゃないか?」

者?

「お父さんは敵が1人だと思ってるの?」

「ん? あぁ、言い方が悪かったな。1人だとはさすがに思ってはいないよ。被害の規模からある程度の集団を最初は考えたんだが、調べても何も出てこない。集団になると、少なからず情報が外に漏れるものだからな。それがない以上、かなり少人数なんじゃないかと考えている。3人もしくは4人ぐらいの。10人はいないだろう」

確かに人が集まれば集まるほど、情報が外に漏れやすい。

お父さんはその情報を探したって事だよね。

知らなかったな。

それにしても多くて4人。

そんな少人数で、これだけの被害を出す事が出来るって事?

「関わっているのは、かなり熟練の冒険者や自警団員だろう」

熟練だというなら、この村の人たちにとっては頼りになる人って事だよね。

でも、お父さんの言う通りかもしれない。

そんな人たちなら自警団の詰め所にだって、冒険者ギルドにだっていても違和感はない。

でも、だからおかしい部分もあるんだよね。

詰め所も冒険者ギルドも人の出入りが激しい場所だといえる。

そんな場所に、以前見たような大きな魔法陣は絶対に描けない。

それに、さすがに違和感が無くても普段と違う行動をとっていれば、気付かれるはず。

魔法陣は冒険者ギルドと自警団の詰め所にあると思ったけど、違うのかな?

でも、冒険者たちが必ず行く場所は、冒険者ギルドしかないし……。

「悪い。待たせた」

ナルガスさんたちが、装備を整えて部屋に入ってきた。

それを見てお父さんが首を傾げる。

「さっきとは違う装備だな」

「はい。団長が貸してくれました」

確かに、さっきまで付けていた装備より頑丈そう。

団長さんが彼らを心配して貸したのかな?

「あ~、よかった。間に合ったわね。アイビーさん、はいこれ」

エッチェーさんが部屋に来たと思ったら、私を見つけて嬉しそうに、何かを目の前に差し出した。

それを見ると、小さな小袋に入った何か。

数にして15個。

「これは、なんでしょうか?」

エッチェーさんを見ると、嬉しそうに笑う。

「激袋よ」

森へ行く私のためにわざわざ作ってくれたのか。

「ありがとうございます」

「人に向けてはダメよ。風の方向も気を付けて」

「はい」

1人で逃げる時に使うようにしよう。

そんな場面がない事が一番だけど。

「少し外れたとしても、少し吸い込めば痺れて動けなくなるから」

「えっ?」

「こっちの赤い紐で縛ってあるのが痺れね。結構周りに飛散するから、気を付けてね」

あれ?

激袋って、確か辛みの成分の粉を詰め込むんじゃなかったかな?

痺れ?

「で、こちらの青い紐の袋は、最後は失神すると思うから」

「……最後? 途中は……」

「ちょっとのたうち回るぐらいよ。驚かないでね。まぁ、どちらでも逃げられるけど、私のお薦めは青い紐かな。新しく調合したから。ふふふふっ。結果を教えてね」

激袋はそんな危険なものではなかった気がするんだけど。

エッチェーさんの笑顔を見ていたら、言えないよね。