軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288話 奇跡はちょっと

「こんにちは、解体お願いしま~す」

カリさんが元気に解体作業場と思われる建物に入ると、そこで作業していた人たちが不思議そうな表情を見せる。

「あっ? なんで裏口から入って来たんだ?」

どうやら裏口から入って来たため少し不審がられたようだ。

一番近くにいた男性が険しい顔でこちらを見る。

「ちょっと見て見て! ベアス! ベアスよ!」

カリさんは周りをあまり気にしないタイプの人の様で、先ほど質問した人を綺麗に無視して興奮状態。

それに男性が大きなため息をつく。

「ベアスがどうしたって、最近じゃまったく狩れないだろうが!」

「だからそのベアスを狩って来た人がいるんだって! で、騒ぎになるから直でここに来たってわけ」

「ベアスだと? 本当か?」

目の前の人とは違う男性の声が聞こえた。

そちらに視線を向けると、年配の男性が慌ててこちらに来るのが見えた。

そして、視線がドルイドさんが担いでいるベアスに向く。

「おぉ~、それか。見せてくれ! おい、その作業台を綺麗にしろ!」

その男性の指示で作業台の上がすぐに片付けられる。

そしてドルイドさんがそこにベアスを置くと、周りに人が集まってくる。

「本物だな、これはベアスだ」

「久々に見たな~」

「この大きさに、皮膚、爪、鼻の状態から見て2歳ぐらいの大人だな」

「完全にいなくなっていたわけではなかったんだな。よかった」

4、5年姿を見せなかったベアスに皆が興味津々だ。

中にはちょっと泣いている人までいる。

これにはドルイドさんと一緒に驚いた。

「ベアスを狩ってきたというのは本当か?」

そこに凛とした声が、解体作業場に響いた。

あっ、この声はプリアギルマスさんだ。

プリアギルマスさんはベアスが置かれている作業台に近づき、魔物を確認するとすぐに解体する指示を出した。

そしてカリさんが、私たちを紹介しようとしたのだが。

「えっ! ドルイドさん、アイビーさん!」

私たちを見たプリアギルマスさんの声に、カリさんが驚いた表情を見せた。

「ギルマス、この人たちをご存知なんですか?」

「あぁ、えっと知っている。というか、色々とお世話になっている」

ちょっと困惑した様子を見せたプリアギルマスさん。

さすがに、洞窟とか守り神とか色々あり過ぎて困りますよね。

「話を聞きたいので、こちらへどうぞ」

「はい。では解体お願いします」

ドルイドさんの言葉に、嬉々として作業をしていた男性たちが次々と返事をした。

なんだかおもちゃを与えられた子供のように楽しそうだ。

「カリさん、ここまでありがとうございました」

「ありがとうございました」

「いえ、ベアスを見られて嬉しいので気にしないで下さい」

プリアギルマスさんに付いて行き、ちょっと立派なソファが置かれた部屋に入る。

部屋の扉にマスターと書いてあったので、ギルドマスターの執務室なのかな?

ソファを勧められたので、ドルイドさんと隣り合って座る。

前には机を挟んでプリアギルマスさんが座った。

「驚きました。まさかドルイドさんたちとは」

「ハハハ、すみませんね。俺たちはベアスがそんなに珍しいとは知らなかったので」

「ここ数年のことなので、まだあまり知られていなかったかもしれませんね。この村では他にもシウサやハツリという魔物がこの時期出ますから」

シウサやハツリ。

その2種類も、さっきのベアスのように真っ白な毛を持っているのかな?

ちょっと狩りが楽しみだな。

「すみませんが、ベアスを狩った場所を教えてもらうことはできますか? もちろん無理にとは言いませんが」

ドルイドさんと視線が合う。

これは困ったね。

言いたいけど、知らない。

「すみません。私たちには分かりません」

ドルイドさんが正直に謝ると、不思議そうな表情をするプリアギルマスさん。

それはそうだろうな、狩って来たのに場所を知らないと言うのだから。

「あれはシエルが、アイビーへの贈り物として狩ってきたモノなので」

「シエル? あぁ、アダンダラ! って失礼」

ちょっと声が大きかった事を謝ったプリアギルマスさんは、棚にあるアイテムを机に置くとボタンを押した。

ここ最近、よく見かける声を外に漏らさないためのアイテムだ。

「これで誰にも聞かれませんので」

「すみませんね。お手数おかけします」

「いえ、でもドルイドさんたちは凄いですね」

凄い?

「魔石が採れる洞窟を教えてくれて、守り神との間を取り持ってくれて、そして滅んでしまったのではと思われていたベアスを持って来てくれる。凄すぎますよ。そう言えば、魔石もそうでしたよね」

あっ、魔石。

「魔石は足りているんでしょうか?」

「えっ、赤の魔石のことですか?」

プリアギルマスさんが訊いてくるので頷く。

「正直足りているわけではないです。でも、最悪の事態を防げる数は集まりました。あとはこの雪が、穏やかに降ってくれることを祈るだけです」

穏やかに降る?

意味が分からず、首を傾げながらドルイドさんを見る。

「雪の降り方によっては被害が出てしまうから。吹雪や豪雪になると大変ですよね?」

「えぇ、なので今のように穏やかに降り続けてくれるのが一番なんです。まぁ、それも長く続けば被害が出ますけどね」

私は、村の雪しか知らないので想像できないな。

でも、豪雪で大変だったという話は冒険者から聞いたことがある。

どこに行くのも大量の雪が邪魔をして、身動きが出来なかったとか言っていた気がするな。

ふわふわした雪でも、大量に降ると大変なんだな。

あっ、魔石と言えば今日も復活させたモノを持っていたんだった。

帰りにローズさんのところに持って行かないとな。

あれ?

プリアギルマスさんも既に魔石を持って来ているのが私たちって知っているよね?

だったら、ここで渡してしまってもいいのかな?

それともタブロー団長さんに渡すことにしているから駄目?

「ドルイドさん、魔石を渡す相手はタブロー団長さんでないと駄目なのですか?」

隣のドルイドさんに少し小声で話しかける。

「ん? あぁ、もしかしてここに置いていっても問題ないかと聞きたいのか?」

「うん」

小声で話していても目の前にいるため聞こえているのだろう、プリアギルマスさんが不思議そうに私たちを見ている。

「問題ないだろう。共同で事に当たっているようだから」

ドルイドさんの言葉に頷いて、プリアギルマスさんに向き合う。

「あの、魔石を復活させている話は聞きましたよね?」

「あぁ、えっと確かスライムの……フレムという名前の子が魔力が切れた魔石に魔力を入れて復活させてくれているのだったよな? そして、それを提供してくれている」

「はい。で、今日の分を持っているのですがここに置いていってもいいですか? タブロー団長さんにもそう伝えてほしいのですが」

「今日の分? えっ、どういうこと?」

あれ?

「毎日、復活させた分を渡していたのですが」

「いや、それは聞いていない。それに毎日は無理ではないか? 使用した魔力を復活させる日数が必要になるだろう…………もしかして、必要ない?」

「えっと、はい」

「そうか。タブローがアイビーさんのスライムは奇跡に近いと言っていたが、そういうことか」

奇跡?

どんどんあの子たちが、すごい存在に持ち上げられている気がする。

いや、それともそれが正しい周りの判断?

でも、なんだか嫌だな。

「レアではありますが、奇跡ではないですよ」

私の言葉にちょっと驚いた表情を見せるプリアギルマスさん。

それに首を傾げる。

何かおかしな事でも言ったかな?

「それより、魔石は置いていっても問題ないですか?」

ドルイドさんが、再度訊いてくれる。

「はい。もちろん大丈夫です。こちらとしても、うれしいので」

その言葉を聞いてマジックバッグから先ほどフレムが復活させた魔石を取り出して机に置く。

どさっとした音に、プリアギルマスさんが目を見開いた。

「これが、今日の分?」

「はい。今日の分です」

プリアギルマスさんはなぜかそっと袋を覗き込む。

別に恐ろしい物ではなく、赤の魔石なんだけど。

「やっぱりアイビーさんのスライムは奇跡ですよ」