軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49回目 提案

「内容による、としか言えません」

「しかし、殺されない自信があるのだろう? であれば、ある程度の考えはあると思うが」

「ふむ……」

何らかの情報を持ち、何かの思惑があってここを訪ねてきたのだろう。

侯爵がそう考えることは自然だし、状況から見ても当然のことだ。

普段は王都の方を全く向いていない地方領主が、この時期に王都を訪ねる意味。

それは何か。

何も狙いが無いのだとすれば、酔狂でしかない。

だから何かしらの狙いがあるはずだと言外に言われている。

その言い分はクレインにも分かった。

実際には過去に戻ることを前提で領地を空けてきたので、明確な目標は無いのだが。それらしい理由を考えながら、即興でクレインは言う。

「推測はあくまで推測です。予想に基づいて策を練れば、真実が分かった時には全てが無駄になります」

「余計な手間は省きたいと?」

「そういうことになりますね」

第一王子との問答や、商会とのやり取りで成長したのだろうか。

実際には無策であってもクレインは動じず、真正面からはぐらかした。

それをどう見たのか。侯爵は愉快そうに笑みを深め、宰相は不審そうな目をしている。

「くく……はっはっは! ただの田舎領主、ただの子爵、ただの成り上がり者だなどとは、とんでもない。これは中々の逸材だ」

「侯爵。これ以上は」

何がそんなにおかしいのか。

ラグナ侯爵はクレインの受け答えを見て、腹を抱えるほど笑っていた。

「口を滑らせるかもしれないって? 多少の失言はご愛敬じゃないかな」

「ふざけている場合か! これ以上の失策が続けば、我らはおろか――!」

「おっと、それこそ失言というものだ」

この二人は何かの思惑を共有している。

だが、目的は違うところにあるらしい。

そう判断したクレインは二人を分析する。

宰相はヒントになるようなことを言いつつも、核心を話す気は無い。

侯爵は真相を話してもいいと言いつつ、致命的な失言をする気は無い。

どちらも、詳細を語る気がないのは同じだ。

それなら、失言しかけた宰相を狙うのが上策だろう。

失敗を前提に宰相を煽って、情報を引き出すか――と、クレインが考えていれば。

「まあ、第一王子と親密だった君には。既に、彼が暗殺されたという一報は入っていると思うのだがね」

ラグナ侯爵は明け透けに、王子は死んだと言う。

口調はごく軽く。

世間話でもするかのように切り出してきた。

「……それは」

「今さら取り繕うこともないだろう。何故暗殺されたのか、誰が暗殺したのか。そこには触れない方が身のためだ。と、先に忠告しておくよ」

そして、これ以上の詮索は身を亡ぼすという、脅し。

随分直接的な表現が出てきたなと思う一方で。

相手から切り込んできたのだから、好機でもある。

「知れば身の破滅、ですか。……しかし、知らなくとも同じことでは?」

そう捉えたクレインは、宰相に向きかけた意識を侯爵に戻して挑発する。

「と、言うと?」

「私は王子の遺臣と言える存在です。次代の王を討つという壮大な計画を企てた者が、私に対して全く手を打たない間抜けだと思いたくはないのですよ」

「ふっ、くく……言うじゃないか」

クレインはできる限り強い言葉を選び、平坦な口調ながらも痛烈に下手人を批判していく。

すると、益々愉快そうに、侯爵は笑いを堪えた。

「事実ではないでしょうか?」

「まあそれもそうか。殿下には特に見るべきところも無かったし。配下を見ても、有能なのはごく一部。……その筆頭である君を放置するなど、片手落ちもいいところだ」

「ラ、ラグナ! 貴様何を――!」

言外に第一王子や、その取り巻きは無能だったと言い放ち。

無礼を咎めようとした宰相を、右手で制しながら侯爵は続ける。

「そうだね。仮に私が犯人であれば、君のことは――確実に始末するよ」

数か月前に小貴族の残党を根絶やしにしたクレインだが、今は彼が第一王子派閥の残党と見ていい。

アースガルド家では問題を起こさなかった村長や顔役などをそのまま使っているが、普通の貴族はそんなことをしない。

粛清。

政敵を滅ぼしたなら、その配下までしっかりと消していくのが普通だ。

誰がどの程度の忠誠心を持っているかなど分からないのだから、怪しきは全て滅ぼすのが常道になる。

それを考えれば、暗殺を実行した勢力が今後どう動くのかは容易に想像がついた。

「なるほど。君の立場から見れば、少しでも正確な情報が知りたい。そして、国政の長である宰相なら正しい答えを知っている」

「ええ、その推測については当たったようで何よりです」

宰相は苦い顔をしているが、ラグナ侯爵は終始上機嫌だ。

「合理的だ。変な建前や遠慮を置いて成果を求める。正しい行いだよ」

「お褒めに与り光栄です」

敵の 首魁(しゅかい) に認められたところで嬉しくもない。

そう思うクレインだが、しかし。

ここで何を思ったのか。

ラグナ侯爵は、少し考えこんでから言う。

「で、話を戻すが。君が真相を知り、その後どうするのかね」

「どう、とは?」

「仮に暗殺した者たちの正体を知ったとしよう。知ったところで敵が変わるわけでもなければ、自分の勢力を増やすこともできない」

それはそうだ。敵を知ったとしても、その敵対勢力以外へ声かけをして、味方を集められる以外の利点はない。

そして味方を集めるにしても、クレインは王都や他の地域の貴族へのツテがない。

人の出入りが激しいアースガルド領で、敵の間者など防ぎようがないし。

この状態で立てられる策などそう多くもない。

「真実や真相を突き止めたところで、多少の安心感が得られる程度の結果に終わるだろう。……それどころか。敵の正体によっては、ただ絶望するしかなくなる」

「それはごもっともです」

ラグナ侯爵の言うことは、ある一面では正しい。

仮に、今すぐ北侯が敵に回れば、ロクな対策も打てずに終わるだろう。

情報を集めたとして精々、夜逃げをする余裕ができるくらいだろうか。

「ならば、ここに来た意味は?」

しかし、ここに来た意味。

それならばある。

中小の貴族にとって、生死を分けるほど重要な情報が――既に、手に入っている。

宰相も侯爵も特に意識してはいないとしても。クレインのような中規模の領地を持つ者が、一番知りたいものは知れていた。

「少なくとも、大まかな旗色は知ることができるでしょう。現にこうして、王国で最も強大な勢力と、王宮のトップが会談している事実も知れたことですし」

「ああ。そうか……これは一本取られたかな」

ここに来てラグナ侯爵は、彼らの前提が違うことに気づく。

ラグナ侯爵家は一大勢力だ。

敵対する勢力が現れたのなら、どう叩き潰すかという考えにシフトしていくだろう。

自らが主体となり、手足の貴族まで使って戦略を練る。

対してアースガルド子爵家は地方の一、中堅勢力だ。

敵対する勢力が現れたのなら、どう身を守るかという考えが全てになる。

誰の傘下に入るかの判断が求められ。

時には親戚の縁まで使って生き残る術を探る。

戦略を実行して戦える立場に居るか。

戦術を駆使して生き残る立場に居るか。

それは重大な差異だった。

「なるほど、立場の違いから考えればその通りだ。私も思考は柔軟な方だと思うが、自らの足で情報を稼いだりはしない」

スケールが違えば、取り得る手段も変わってくる。

「大勢力の旗色が知りたい」という意見は中小の貴族なら誰もが思うことであり、自然なことでもある。

地方で誰よりも早く情報を手に入れたクレインが。

続報を待つのではなく、自ら動いて調べ上げに来た。

自分の身を守ることで精いっぱいになりがちな地方領主という立場にあって、当主自ら王都に乗り込み。最新かつ、正確な情報を集めようとしているのだ。

その動きは誰よりも早い。現に宰相に渡りをつけ、興味を持った北侯まで釣り出すことに成功している。

そう考えれば目標はこの部屋に入った時点で達成されているだろう。

そこを加味した、ラグナ侯爵からの評価は。

「やはり有能な人物のようだね。寄る辺の無い殿下が必死で口説いたのも分かるよ」

「子爵……だから儂は止めたのだ」

相互理解をしていない故の誤解も含まれていたが、かなりの好印象を抱いた。

そして宰相は、この展開は望んでいなかったとばかりに溜息を吐いていた。

下手に動けば、諍いに正面から巻き込まれるリスクがある。

中央の体制が乱れ、国が荒れた時。

争いが収束すれば、王国の建て直しは地方にいる領主たちの働きにかかっている。

しかし有能な人間は外国への備えに辺境へ置かれるか、中央で国政を取り仕切っていることがほとんどだ。

小貴族連合のような者たちも少なくはない。

道が整備されているため、王都から見てそこまで遠くなく。

かつリーダーが優秀で、内政、外交の両方に明るく。

豊富な資源が産出され。

この不景気にあっても好景気を維持しているのがアースガルド領であり。

「優良物件が焼け野原になる可能性は、宰相としても避けたいところだろうね」

「ぬぅ……それを、まったく」

だからこそ、宰相は止めた。

それはクレイン本人と言うよりも、国の未来を案じてのことだった。

しかしラグナ侯爵家の立場から見れば話は変わる。

ここでも立場の違いだが、侯爵家としてはあくまで自領を第一に考える。

中央や王宮のことが第一な宰相と比べれば、地方領主寄りの考えをしているのだ。

つまり彼らの目標が違ってくるとすれば、それは立場の違いからくるものだろう。

と、クレインは追加で推測を建てていく。

「なるほど、そういったご事情でしたか」

この点でも宰相よりラグナ侯爵との方が意見は合いそうか。

などと考えたクレインの前に身を乗り出し。

余裕の笑みを浮かべたまま、侯爵は言う。

「しかし浅いところまでとは言え、事情を知っているんだ。もう、引き返すには手遅れだと思うのだが」

「ええ、私もそう思いますよ」

今はまだ、黒幕の正体は明かされていない。

どれだけ怪しい人間がいようと、まだ確定はしていないのだ。

しかし、「陰謀に首を突っ込んだ」と言えるところまでは来ている。

中央の諸勢力からすればクレインも厄介な存在になりつつあるし、それは眼前の二人からしても同じことだろう。

ならば一番簡単なのは、この場に兵士を呼んで殺害することだろうな。

と、クレインは後の展開を予想した。

「ここまで来れば君も、立派に当事者の一人だね」

「ええ、まさに」

「そこを理解できているなら、話は早い」

ラグナ侯爵が笑顔のままにそう言えば、宰相の顔が強張る。

笑みを深める男と、顔が険しくなる男。

対照的な二人を見て、クレインは不穏な気配を感じた。

どうせ処分されるなら、監禁などの手段を取られる前に 脱出(・・) するか。

そう考えたクレインが覚悟を固めきる前に、ラグナ侯爵は動く。

更に身を乗り出し、前傾姿勢になって――

「どうだね、アースガルド子爵。私と手を組まないか」

至極真面目に、そう言った。

今が決断の時だと告げるように、曇天の空からは雷鳴が轟いている。