軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話 クレインの秘密

王都への道中で書き終えた資料を、途中の街でヘルモーズ商会の飛脚に持たせて送り出した。

先に王宮へ連絡を入れておき、謁見の予約をしておいたのだ。

今回は最初から献上の話まで含めて通してあったからか、幸いにして暗殺者のような存在は現れず。

王都に到着した日の午後、クレインはそのまま王宮へ向かう。

本来であれば十日ほど待たされる期間を移動時間に宛て、彼は即日で謁見に臨んだ。

「なるほどな。結構な範囲に鉱床があると」

さて。冷静に言う国王だが、やはり声が弾んでいる。

銀の不足が解消されるという点でもそうだが、クレインが差し出した報告書の末尾に付いている提案――別名、山賊への命乞い――それが刺さっていた。

「で、利益の 四割(・・) は王家に献上する、か。……正気か?」

国王がそう聞くのも無理はなかった。

銀鉱山から齎される利益の四割と言えば、アースガルド子爵家が今得ている全収入の倍は超える。

領外から人を呼んで採掘の量を増やせば、更に数倍の利益を叩き出すだろう。

前々回の人生までで献上していたのは、利益の半分だとして。

四割でも莫大な金額になる。

「はい、私は正気でございます。諸経費が引かれると、実際は三割ほどになる見込みではございますが」

そして、経費を引いてからの利益を献上する。

この条件は前回までの人生で出していなかった。

これまでと比べれば王家の取り分を減らしているが、銀が手に入ることそれ自体が求められているので、利益を一割やそこら減ったところで大差は無いだろう。

彼はそう判断して、献上分を減らすことにしている。

「十分過ぎるな」

普通なら一割ほどで済む納税を、自ら多めにすると言ってきたのだ。

案の定、三割でも国王は満足した。

――が、問題はそこではない。

今回の人生ではショートカットのために、現地調査をしていない。バルガスたちが手を付けたポイントも、まだ一つしかないのだ。

実際には大半の銀鉱脈が、未発見の状態になっている。

要するに彼は――まだ見つけてもいないのに――銀の一大鉱脈を発見したという報告書を提出したのだ。

そうと知られれば確実に死罪が待っているとしても、クレインには絶対にバレない自信があった。

未発見の資源を献上するなどという無茶。

発覚すれば死刑で、何のメリットも無い。

こんなことをやる者は普通いないので、疑われることがあり得なかった。

しかし何はともあれ、クレインの中では確定事項だ。

確実に銀はある。

だからもう時間が短縮できれば何でもいいと、彼はやりたい放題にやっていた。

「忠義の心、 天晴(あっぱれ) である……と、言いたいが、何が狙いか」

王国の法律に照らせば、資源は見つけた領主が独占していい。

そこから得た利益から税は取られるが、それは儲けの一割にも満たないのだ。

王宮側が召し上げをチラつかせたわけでもなければ。

アースガルド家の東南側は大山脈と森林が広がるばかりで、難癖を付ける貴族がいるわけでもない。

だというのに、クレインは最初から全面降伏の態勢だった。

今回は経費も献上分から差し引いているので、実際にはそうでもないとして。

何にせよ初手から権利を放り捨てた土下座外交の姿勢で臨んでいるのだ。

国王からすれば訳が分からなかった。

「私め如きが銀山を保有すれば、いらぬ 諍(いさか) いを招くかと存じます。であれば欲張らずに、最初から献上してしまうのが一番平和です」

その言葉で、何となく国王にもイメージはついたらしい。

親戚から事業に噛ませろと言われることは想像に難くないし、東方か北方の小領主たちが連名で難癖を付ける可能性もある。

「確かにそうだな。ある意味、最も賢い選択か」

大義名分を気にせず、資源目当てで紛争を吹っ掛けられる可能性は確かにあった。

しかしここで、アースガルド側に大義があればどうだろう。

「王家のために銀を採掘しているのに、邪魔するのか?」

という最強の言い分が手に入るのであれば、地方の小領主たちなど黙らせられる。

ヴァナルガンド伯爵家はおろか、ラグナ侯爵家でも手出しはしにくいだろう。

実際には小貴族連合も東伯も、時間経過で手を出してくると知っているのだが。

当面の間。問題は何も起きないはずだとクレインは考えている。

「だがな。三割でも行き過ぎだろう。何故、わざわざ利益を献上するのか」

「陛下」

「気になるではないか。……なんだ? 伯爵位でも欲するか?」

折角くれるというのだから黙って貰えばいい。

目でそう語る宰相を横に置き、国王は献金の理由を尋ねる。

国王にとっては身内の毒殺事件以来。

血生臭い事件ばかりで気分が沈んでいたところに現れた、久々のいい話。

そして気になる話だ。

国王は心なしか明るい表情で、タネ明かしを迫るような雰囲気を出しているのだが。

一方のクレインは余裕でポーカーフェイスを維持していた。

「当家が求めるものは人材でございます――」

ここから先に大きな変更など無く、兄弟子へ私塾を引き継がせるための交換材料である、王宮の蔵書を数冊求めたくらいだ。

要求については全て危なげなく通っているので、これからの流れも変わらない。

クレインは見覚えのある廊下を歩き、謁見の控室で待機することになった。

「そろそろか」

初回は驚いたものだが、もうここで王子が現れることは分かっている。

耳を澄ませて、微かに物音がした瞬間に立ち上がると。

「第一王子殿下に、ご挨拶を申し上げます」

「……っ!?」

こっそり近づき、不意打ちで驚かせて。

会話の主導権を握ろうとしていたアレス王子は、逆に驚く羽目になった。

「気配には敏いようだな」

「たまたまです」

「……そうか。まあ、座れ」

長めの銀髪に、やや釣り目気味の鋭い目。

神経質そうな男は、在りし日と変わらずそこにいた。

「殿下。周囲の者は殿下の側近でございますか?」

「む……ああ、そうだ」

もちろん彼の傍には、金色のような髪をした女性も控えている。

それを確認してから、クレインは速攻を仕掛けた。

「少々内密のご相談がございます。できれば人払いをお願いしたく」

「……いいだろう」

会話の主導権を握られて多少不機嫌そうにしたものの、彼としてもクレインとの縁は結びたいと思っている。

多少 猜疑心(さいぎしん) は強まったが、ブリュンヒルデだけを残して。

付き人も使用人も部屋から出ていった。

「では、殿下。最近お悩みはございませんか?」

「悩み、とは?」

「例えばラグナ侯爵家のことです」

初手から核心へ切り込めば。

王子は目に見えて動揺していた。

「……北侯、か」

王子と出会った当初のクレインならば気づかなかっただろうが。

今の彼からすれば、かなり分かりやすい反応だ。

「それを聞いてどうする。何が狙いだ」

「狙いなどございません。殿下のお味方になろうと思い、参りましたので」

北侯と敵対して、地盤も固まっていない王子の側に付く。

そんな勢力はごく少数であり、声掛けは難航していた。

そこに降って湧いた幸運。

大規模な銀鉱床を発見して、これから力を付けていくであろう子爵家。

その当主が味方になりたいと言ってきたのだ。

「……そうか。それで?」

状況は不自然だ。

何かの罠かもしれないと疑惑を深めた王子だが、しかし、今すぐ殺すのも悪手。

そうと理解はして、続きを促す。

「殿下はラグナ侯爵家が、王位の簒奪を目論んでいるものと推測されている。お間違いはございませんか?」

「そのような話を、どこで」

「これはただの推測です。そして、私がお聞きしたいのはただ一つ」

一度会話の流れを切って紅茶を飲み。

気持ち前傾姿勢になってクレインは言う。

「そのお話は、どなたからお聞きになりましたか?」

「……ッ!」

妹の遺臣から聞いた話ではあるが、それは極秘だ。

しかしクレインの様子を見る限り、それは既に知られている。

そのこと自体が、王子には衝撃だった。

実際には、クレインは既に王女と王子が接触したものと思い。

王女本人が虚偽の情報を吹き込んだものと思っていたが。その認識の違いは、大した障害ではない。

「何の、話だ」

「……さて」

余計なことを話さず笑みを浮かべたままのクレインを見て、王子は勝手に深読みしていく。

配下の者でも、その話を知る者はごく少数だ。

どこから摑まれたのか。

内通者がいるのか。

そこまで考えを広げた彼の胸中には、言い知れない不安が走った。

「貴様は、一体」

王族を毒殺してくるような家臣がいて。

王子からすれば、その手はどこまで伸びているか分からない。

そもそも存在しないのだから、いくら調べても 敵の(・・) 痕跡が出てはこず。

出会う人間のほとんどに協力を断られ、彼は人間不信に陥りかけていた。

信じられるのは古くからの配下と、直属である王女が死んでもなお、王家に尽くす 忠臣(・・) たちだけだ。

そこから裏切り者が出るなど、彼からすれば信じたくない話だった。

「その呪縛を解かなければ、無理……か」

舞台裏がそんなところだろうと気づいているクレインからすれば。

まずは、王子の考え方を変えるところが第一歩だ。

「何を言っている」

「いえ。殿下。ではもう一つよろしいですか?」

「……言ってみろ」

次は何が出てくるのかと、気が気ではない王子だが。

クレインは、あっさりと暴露する。

「王家に伝わる秘術、時渡りでしたか。その存在はご存じでしょうか」

今明かされる、クレインの秘密。

それは、雑談程度の気軽さで切り出された。