軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 ありったけ全部

「先生、次の試験ですが」

「ああ……うん。もう受けるまでもないと思うよ」

クレインは到着して早々から全力だった。

侯爵家志望の文官が受ける最高レベルのテストを要求して、複数科目の全てで満点に近い成績を取っている。

私塾へは、仕官のために通う者がほとんどだ。

その試験で高得点を取ることは、イコールで仕官。そして卒業ということになる。

「仕官の話はしてあげるから、なんなら今すぐ卒業でも構わないくらいだよ」

一度受けたことがあるテストなのだからクレインに死角は無く、望めばすぐにでもラグナ侯爵家の官僚となれるくらいの成績だ。

つまり結果として、彼は名門の私塾を一ヵ月で卒業可能という、冗談のような状況に置かれている。

「……なるほど。本当に今すぐでもいいんですか?」

「ああ。剣の稽古を中断して、一筆書いてきてもいい」

そして、いつでも許可を出せると言質を取った。

ならばそろそろ動く時期だ。

信頼関係はできる限り構築しておきたかったクレインだが、この街にいるのは最長でも2か月と決めていたのだ。

ここで今までの道のりを振り返ったとき、初期の動きはどうだったか。

初夏までに採掘の準備を終わらせて、銀鉱山を一部稼働させ、夏には商会長たちとの会合を行い、投資金によって鉱山の拡張を行う。

そんな流れになっていた。

今はアースガルド家の力だけで拡大政策を取ってから1ヵ月が経過し、鉱山開発の予算は全て子爵家の財産から出して発展させている。

秋には資金が底を尽きるペースで、金庫を全開放しているのだ。

ヨトゥン伯爵領で栽培した食料を売却できる時期には、もちろん間に合わない。その前に資金が空になり、不渡りが出る。

そんなわけで今では、ノルベルトたちが胃薬とお友達だ。

だからこそ期限は最長で2か月。

商会を呼び込むのがそれより先になれば、財政破綻の方が先に来るからだ。

しかし予定より早くて、悪いことは無い。

だから今、ここで勝負を決めようと思い、クレインは居住まいを正してビクトールに向かい合った。

「では先生。卒業の手続きをお願いするとして、もう一つ折り入ってご相談が」

「相談?」

ビクトールは会話の流れが摑めずに不思議そうな顔をしていたが、クレインは彼に向けて、切実な願いを告げた。

「文官をありったけ紹介してください」

「ありったけ……か。それは何人くらいを想定して?」

「最低でも10名くらいです」

10名と言われただけで多少驚いたビクトールだが、クレインは続いて念押しをしていく。

「ですが上限は設けません。先生のツテで紹介できる方を、全員。全部お願いします」

高度な教育を受けた内政官候補を、そこまでの人数集めることは不可能だ。

普通であれば、人材の確保は難しい。

しかしビクトールの協力があれば話は変わる。

「侯爵家に仕官したくて浪人している人でも、どこか適当な貴族家に仕えようとしている人でも。文官の能力があればどんな人でも構いません」

今回の人生で前回と違うところがあるとすれば、クレインは最初から身分を隠さずに入門して、アースガルド子爵として彼と接していた点だ。

だから領地経営に必要な人材を、紹介してほしいと言われていること。

それはビクトールにもすぐに理解できた。

「クレイン君の家で雇うのかい?」

「はい。実は銀鉱床が見つかったので、事業の拡大をしようかと」

零細領地にそんなお宝が発見されれば、急速に発展するだろう。

労働者や商人の出入りは間違いなく活発となり、拡大に合わせた街づくりも必要になる。

なかなか得られない、管理側の人間を紹介してもらいたいのは当然か。

ビクトールも同意はするが、まずはクレインを 窘(たしな) めた。

「まあ、そういう話はあまり口外しない方がいいよ。怪しい詐欺師とか、見たことがない親戚とかが大量に出てくるから」

「分かりました、気を付けます」

ビクトールはクレインの入門時に、アースガルド家の情報を調べている。

クレインの家が安定経営と言える状況だとは知っていた。

「どれくらいが適切かは悩みどころだが……二十人は多過ぎるとしても、十名くらいになら渡りを付けてもいいかな。さて誰がいいか」

紹介するにあたり金銭面での不安は無いと見て、ビクトールは数年以内に卒業した塾生の顔を順番に顔を思い浮かべていった。

「エメット君にチャールズ君だろ? オズマ君に……」

しかし仕官先は住み慣れた地域から離れた、地方領地の子爵家だ。

その条件が加われば難易度が上がると、渋い顔をした。

「適当に人選しても、扱い切れるかは微妙な子ばかりだな。やはり5、6人がいいところかもしれない」

アースガルド家に仕えることを承諾しそうで、かつ有能な者は数が少ない。

能力が高くても伯爵家の三男など、ビクトールからすれば、クレインの身分では扱いにくい者が多いように思えた。

その意見にはクレインも頷く。

「ええ、俺の力ではそうだと思います。なので彼らに言うことを聞かせられる人間。まとめ役も一緒に雇いたいんです」

クレインもそんなことは知っていたので、人材の取りまとめをする人間もセットで募集するつもりだった。

だが、話を聞いたビクトールが考えてみても、そんな人間はすぐ思いつかない。

「……まとめ役、ね」

彼はお手上げのポーズを取っておどけながら、紹介が難しいことを告げようとした。

「そこまで都合のいい人材はいないかな――」

「いるじゃないですか」

名家のご令息たちが一目置き、尊敬し、敬意を払う存在が。

ゆったりとした謎のカリスマ性を持ち、ちょうど暇している男が。

多少の問題児を雇っても問題なくコントロールできる、 先生(・・) が1人。

「伯爵家の当主が、うちの息子に勉強を教えてくれと頼みこむくらいの逸材に、心当たりは?」

「あー、はは。そういうことか」

私塾の卒業生であれば、ビクトールに頭が上がるわけがない。

卒業生の20名だろうが30名だろうが、相手の身分が多少高かろうが何だろうが、彼さえいればどうとでもなる。

クレインはビクトールという指揮官ごと、まとめて採用するために北へ赴いたのだ。

「ええ。つまりは先生を、当家に招聘したいというお話です」

過去のアースガルド領では、文官不足で内政が機能不全に陥ることもあった。

だからこそクレインは、北候の領地で 燻(くすぶ) っている、それなりに有能な人材たちを――まとめて引き抜く気でここに来ている。

しかし前世のように長い親交があるわけではなく、出会って1ヵ月ほどだ。

まだ信頼関係を作り終わったとは言えない時期で、ビクトールがどう返事をするかによっては今後の方向性が変わる。

だからクレインは、久しぶりに緊張しながら言葉を待った。