軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【Side Story】勝利の朝と、すれ違う恋人たち

ファフニール襲来の夜。銀のフクロウ亭。

カチ、コチ、と時計の針が進む音だけが、店内に響いていた。

「ああもう! 帰ってきませんわ! ソフィアちゃんも、坊ちゃんも!」

ヨランダは、カウンターの前を行ったり来たりしていた。

フローリングが磨り減るのではないかという勢いだ。

「あー、どうしましょう~。いっちゃえばよかったかしらー、『行くなー!』って足にしがみつけばよかったかしらー。でもでも、それはあのアンポンタン坊ちゃまの仕事ですし~!」

彼女は自分のエプロンをきつく握りしめる。

「信じてますわよ、坊ちゃん。でも、もしこれでソフィアちゃんを行かせてしまったら……ぶち転がしてやりますわよーっ!」

ヨランダは独り言を呟きながら、モップを構えて素振りを始めた。

不安と期待と殺意が入り混じった、長い長い夜だった。

チュン、チュン……。

小鳥のさえずりと共に、カーテンの隙間から朝日が差し込んできた。

カチャリ。

入り口の鍵が開く音がした。

「……ただいま、ヨランダさん」

「……戻ったぞ」

ドアが開き、朝日を背負った二人が入ってきた。

その姿を見た瞬間。

ヨランダの目から、滝のような涙が噴き出した。

「ぞ、ぞびあぢゃぁあああああん!!」

「ヨ、ヨランダさん……?」

「しんぱいじええええええ! いってほしくなくてええええ! わたくしはぁあああ!」

ヨランダはソフィアに飛びつき、その小さな体を力一杯抱きしめた。

「うびゃぁあああああ! よかったぁあああ!」

「ご、ごめんなさい……心配かけて……」

「いいのです、いいのですよぉおおお!」

ひとしきり泣き喚いた後、ヨランダは真っ赤な目でギルバートを睨み……そして、ニカっとサムズアップした。

「よくやったぞ、坊ちゃん! 偉いですわ!」

「……お前、どこから目線だよ」

ギルバートは苦笑したが、その顔には憑き物が落ちたような清々しさがあった。

「で、今までどこにいらしたの? 心配しましたのよ」

「ああ……。ホテルの屋上に、ファフニール様に降ろされてな。しばらく二人でいたんだ」

「屋上!? まあまあ! それじゃ寒かったのでは?」

ヨランダが驚いて尋ねると、二人は顔を見合わせ、頬を赤らめた。

「いえ、全然……。むしろポカポカでした。……ギルさんが、ずっと抱きしめてくれてたから」

「ギル……さん?」

「……フィーが、カイロみたいに温かかったからな」

「フィー……?」

ヨランダは耳を疑った。

ギルさん? フィー?

呼び方が、変わっている。しかも、この甘ったるい空気はなんだ。

(うぉおおおおおおお!! 勝利! 勝利! 大勝利ですわよぉおおお!!)

ヨランダは心の中でガッツポーズをした。

(見ていますか、ガンダールヴ様! マリア様ぁ! あの恋愛偏差値5の二人が! 亀のごときのろさの恋愛速度の二人が! ついにゴールインしましたわよー!)

「何はともあれ……おめでとうございます、お二人ともっ!」

「ありがとう。……やっと、恋人同士になれたよ」

ギルバートが照れくさそうに言った。

「……ほへ?」

ヨランダの動きが止まった。

「……恋人?」

「ああ。二人で話し合ってな。……これからは、恋人として支え合っていこうと」

「…………」

ヨランダは真顔になった。

「え、っとぉ……つまり?」

ここまでのいきさつを、二人から、ヨランダは聞き出す。ファフニールの前でのやりとりを、つぶさに。

いやいやいや。

『俺に君の人生をくれ』とか、『一生かけて愛し抜く』とか、『誰にも渡さない』とか叫んでいたはずだ。

「あそこまで言って、恋人!?」

「え、違うの……?」

二人はキョトンとして顔を見合わせた。

そして、もじもじしながら、人差し指をつんつんと合わせる。

「だって、その……ま、まずは、お付き合いから始めないと……」

「そうだな。順序というものがあるし……」

ヨランダは、吸い込んだ息を、腹の底から吐き出した。

「もうそれ、結婚でいいだろうがぁああああよぉおおおお!!」

早朝のフクロウ亭に、ヨランダの絶叫がこだました。

「ええっ!? そ、それはちょっと早いかも……」

「早くねええええええ!! 人生賭けたんでしょうがぁあああ!!」

まったく、この二人は。

ヨランダは呆れつつも、その目尻には嬉し涙が浮かんでいた。

まあいい。外堀は、これからわたくし達が埋めていけばいいのですから。

フクロウ亭の朝は、いつになく騒がしく、そして温かかった。