軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先を見据えた金稼ぎ

春は仕事の季節。ギルドマンにとっても嬉しい時期だ。

バロアの森の奥深くに籠もっていた連中が活動範囲を外側まで広げ、狩猟ができるようになる。

チャージディアの毛皮が生え変わりの影響で価値が落ち気味になるといったちょっとしたマイナス要素もあるが、討伐せずとも生え変わりの角を拾えたり、野草や薬草が多かったりと歩いてて楽しい季節である。

とはいえ、春はそうバロアの森に関わっていられない季節でもある。

啓蟄。春は虫の湧く季節。

パイクホッパーが各地でブイブイ言わせる時期でもあるからだ。

ハルペリアでは比較的珍しい虫型魔物、パイクホッパーは犬サイズのバッタだ。

尖った頭部が頑丈で、強いジャンプから繰り出される頭突きは子供相手であれば突き殺せるレベルである。

しかしでかい図体のせいか小回りはきかず、正面に立たなければ避けることはそう難しくはない。アイアンクラスのギルドマンでも十分に討伐できる魔物だ。

だがパイクホッパーの問題は戦闘力ではない。こいつの主食が小麦って所にでかい問題がある。

ただでさえバカでかい図体に草食。しかも人の主食たる麦をメインターゲットにする悪辣さ。この国においてはそこらの不快害虫なんて目じゃないくらい嫌われている存在だ。

幸い、パイクホッパーは麦に狙いをすまして集団移動するタイプの魔物ではない。空も飛べないので簡単な柵があればある程度動きを封じることもできる。

それでも農業国家としては存在を許せる魔物ではない。

そのため、ギルドによる春のバッタ討伐は大々的に行われているのだった。

「来たな、飛び跳ねる貢献値」

農場に近い林に入ってすぐ、向こうの茂みから無機質に藪を踏みしめる音が聞こえた。

パイクホッパーだ。バッタのくせに卵から成体になるまでの間は土の中で育つとかいうセミみたいな生態をしているが、こうして地上に這い出てくると完全にバッタである。

こいつの討伐は安いが貢献値は悪くない。

しかし素材が売りにくいのは残念だ。一応解体すれば鶏肉みたいな可食部も得られるんだが、ハルペリアでは虫食文化に否定的というか、サングレールの逆張りをしてるせいであまり一般的ではない。俺もわざわざ解体してまで食いたいかっていうと微妙なところだ。

それでも、俺にとってこの手の魔物は都合が良い。

「中途半端な攻撃力。逃げない知能。少ない返り血。俺は結構好きだぜ、お前のこと」

茂みから勢いよく、パイクホッパーが向かってきた。

それをひらりと横に動いて回避すると、パイクホッパーはある程度突進を続けた後、のろのろと方向転換を始める。動きとしては戦車っぽい感じがする。

「この横っ腹を向けてくれるのがやりやすくて良い」

突進後の方向転換が最大の隙だ。

パイクホッパーの横面をバスタードソードで思い切り切り落としてやれば、それだけで終わる。まあ普通は斬撃が通るほど柔らかくもないんだが、俺にとってはこれができるから楽だ。

それにいざ突進を受けても俺はほとんどダメージを受けない。こいつ程度の突進じゃ俺の強化された軽装備を抜けないんだよな。そういう意味でもストレスなく戦える相手だ。

「さー来い、どんどん来い。金欠でちょっと危ねーんだ。まとめて百匹くらい来てくれ」

その日、俺は日暮れ近くまでパイクホッパーを斬り続けたが、討伐数は20弱が限界だった。

何日かに分けて狩るような数ではあるが、元々ソロでもやれる討伐だから俺にとっては大した儲けにはならん。

後ろ足を加工して短めの武器の柄に加工したりってこともあるらしいが、それも人気無いしなぁ。

「ギルドでなんかいい仕事紹介してもらうかー」

俺はパイクホッパーの尖った額の甲殻をズダ袋いっぱいに詰め込んで、帰ることにした。

しかしこの時期はギルドも忙しい。

受付もエレナやミレーヌさんだけでなく、普段は裏方仕事をやってるフロレンスさんまでもが駆り出され、対応に追われている。

特に依頼主との個室対応がひっきりなしなため、建物内を行ったり来たりする職員も多い。

ここで行列に並んで“なんかいい仕事ない?”とふわっとした事を聞くのはめんどくさい奴である。ある程度列が掃けるまで待ってから並ぶことにしよう。

「お疲れ、エレナ。すげー客だな」

「はぁ……大変ですよ、本当に。それでモングレルさん、今日は?」

「忙しいとこで悪いんだが、ブロンズ3でも受けられて金になる仕事があれば欲しくてな。キツい力仕事で何か良いの無いもんかね」

「また金欠ですか?」

「近頃面白い品が多くてな」

「無駄遣いが多いんじゃないですか? まあ、市場も賑わってますから気持ちはわかりますけど。……んー、そうですね……あ、確か良い仕事がありました。路地の奥まった場所にある共同倉庫が一つ、商社に売り払われることになったんですよ。その中に入ってる重い道具類の運搬作業がありまして」

おお、わかりやすい力仕事だな。

「共同倉庫なので各持ち主の場所まで届けなくてはならないのですが、狭い場所なものですから運び出しに道具が使えず、作業が難航しているそうなんです。木製の台座に据え付けた鉄床だとか、本当に重い物が多いとか……本当は三人ほどの働き手を求められていたんですけど」

「俺にピッタリだな。三人も必要ないよ、俺一人でやる」

「そう仰ると思いました。……依頼の調整があるので、二日ほどお時間いただけますか?」

「おう、ゆっくりでいいよ。キツい仕事で数人分の働き。良い金になりそうだ」

「……本当はシルバーの仕事を受けたほうがお金になるんですけどねえ」

「それはまた今度ってことで」

良い仕事っていうのも、あるところにはあるもんだ。

二日後、案外早く仕事にありつけた。

どうやらさっさと倉庫を片付けて商社に引き渡さなければならないらしく、持ち主もそこそこ焦っていたらしい。

「うちの若い連中は力が無くてなぁ。俺ももうちょっと若けりゃ運べたんだが」

倉庫の入り口近くに置かれた重そうな道具類の数々。こいつを狭い路地を通って運ぶのは確かにしんどいだろう。

人数が多くてどうにかなるような場所でもない。

倉庫の前に建った新しい家屋が邪魔なんだろうなぁ。こればかりは仕方ないんだが……。

「俺が一つずつちゃっちゃと運ぶからさ。おやじさんたちは道具の持ち主だけ何か札みたいなの貼ってわかるようにしてくれよ。俺は札の通りに運び込んどいてやる」

「ありがてえ。……あー、できれば地下倉庫まで入れてもらえると助かるんだが」

「ああ構わねえよ。ただいちいち降りて登ってするのも面倒だから、一旦その手前に集めておくのでもいいかい」

「助かるよ。それでよろしく頼む」

そうと決まれば話は早い。さっさと倉庫を綺麗にしてやるかー。

「うおっ!? 力持ちだねえー……さすがギルドマンだ。依頼に出すには高いと思ったが、頼んで良かったよ」

「なぁに軽い軽い。給料分は働いてやるぜぇー」

共同倉庫の利用者は四人。大荷物を四箇所にそれぞれ運んでいくのだが、倉庫が地下にあったり狭い路地の奥にあったりと、確かにこれは面倒な作業だ。身体強化できなきゃ倉庫整理を考えたくない気持ちはよくわかる。

だが俺の力にかかれば大したもんではない。移動の手間があるくらいで着々と荷運びを済ませ、午前中には倉庫を空にできた。

昼食代もおやじさんの厚意で奢ってもらい、午後は各店舗にまとめておいた荷物をそれぞれの倉庫に下ろす作業もやったが、それも一時間ほどで片付いた。

重い荷物はあるが個数は少ない。危なげなく運べば、まあそんなもんである。

「いやー、一日で終わって良かった。ほんとありがとうな、モングレルさん」

「これが俺の仕事だからな。気にしないでくれ。また何かあればギルドか俺に頼んでくれよ」

「ギルド通さず、モングレルさんに直接通したら安くしてもらえるかい?」

「あーギルドに睨まれない程度の仕事だったらな。“友達の手伝い”って奴だ」

「そうか……まぁ俺達もギルドと喧嘩したいわけじゃないが、そうだなぁ……機会があればモングレルさんに直接頼ませてもらうよ」

ぬふふ、話の分かる人で助かるぜ。

ギルドを通すと金がかかるのは小さい店ほど実感が大きいからな。

そういう場合は俺が直接働きに出るのも悪くない。パーティー単位で動くとアレだが、個人で手伝う分には文句付けられる筋合いもほとんどないしな。

問題は報酬でモメても仲介してくれないことだが、レゴール内でやる分には大丈夫だろう。払い渋るならこちらとしても出るとこ出るしな。陰湿な意味で。

「さて……これでまた買い物資金が溜まってきた」

この前のスパイスや昆布的な何かのせいで金がカツカツだったが、どうにかここで持ち直してきた。

まだ俺には魔法の教科書やら新しい装備やら、買うものがあるんだ。

もうしばらく金稼ぎに奔走するのも悪くはないだろう。