軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タレはタレの味しかしない

俺は塩派だ。

何故なら、通は塩だからだ。素材の味を楽しめるからだ。最終的にたどり着く境地は塩だからだ。

しかし時折、屋台なんかで鶏肉の塩串焼きを食べていると思うのだ。

……ごめん、やっぱタレないとつれぇわ。

まず、タレとは何か。

まぁ日本で使うタレはメインとなる材料は決まっているんだが、焼鳥のタレを例に挙げてみよう。

焼鳥のタレに必要な材料は醤油、みりん、酒、砂糖の4つってところだ。みりん、砂糖、酒の配合は結構変わるもんだが、この中で最も欠かせない要素と言えば醤油だろう。醤油がなければタレの味は出せないと断言しても良い。

うん。醤油な。うん。

次に醤油のレシピだ。

主原料は大豆、小麦、塩。

お? なんか行けそうじゃんって思うじゃん。俺も思う。大豆まんまな奴は無いけど、似たような味の豆はこの世界にもあるからな。

でも隠し味的な原料として足りないものがある。

それが麹菌だ。

……こうじ……?

まあ、つまり天然酵母とかと同じ……発酵に必要な微生物たちのことなんだが……。

こいつは日本とか湿度の高い東アジアとか東南アジアにしか存在しない。

……はい終了!

醤油作れません! 自動的にタレも作れません! この話はやめよう! ハイハイやめやめ!

いやマジなんなんだろうな醤油って。日本食っぽいもの作ろうと思ったら兎にも角にも醤油が立ちはだかってくるんだよなこれ。

別に俺も日本食至上主義者じゃねえけどさ。この世界に来て熱狂的に米とか味噌とか探そうともしない程度には適応できる人間だけどさ。

シンプルに前世が日本人だったせいで作りたい料理のレパートリーが日本食に偏ってるんよ。醤油と味噌ないと汁物さえまともに作れねーのよ。わかるかこのもどかしさ。塩を崇める宗教に熱狂するしかなかったんだよ俺は。

ちなみに味噌も麹菌ないと作れないから俺は味噌汁も飲めません。クソである。いや味噌の話しながらクソの話するのはよくないな。お排泄物ですわマジで。

なんで麹とか醤油とかがもっと普遍的に存在してないんだ。

岩掘って岩塩が出るくらいなら砂漠を掘ったら醤油が湧き出して来ても良くねえか? パイクホッパーの腹を思い切り殴ったら口から吐き出すあのくっせぇゲロみたいなやつが実は醤油でしたってことになんねえか?

ああタレを舐めたい。醤油が欲しい。

釣りの準備は着実に整っているのに釣った後のレシピが貧弱過ぎる。刺し身食いたい刺し身。

だが無いものねだりしていても醤油の雨は降ってこない。

無いなら無いなりに頑張るのが工夫できる優秀なギルドマンだ。

というわけで、俺は市場で調味料を探すことにした。

「珍料理……大発見!」

「なんスかそれ」

「これから俺達は市場に流れてきた各地の交易品を探して回り……美味そうな調味料を見つけ出す!」

俺とライナとウルリカは市場にやってきた。

バッタモンに溢れた黒靄市場ではない。ちゃんとした賑わっている方の市場である。

「……釣りに必要な物買いに行くぞって言うから来てみたら、調味料スか」

「私は結構楽しみだなー。最近よその商品が沢山出てきてるんでしょー?」

「既にあるやつで良いと思うんスけどねぇ……」

「良くない! それは良くない考え方だぞライナ! 食の豊かさは挑戦から! お前はまだ若いんだからもっと自分から色々なものを食っていかなきゃいけないんだぞ!」

「私もう大人スけど……」

だまらっしゃい、ライナが大人なんざ百年早いわ。いや百年は言いすぎたな、2、3年は早い。

「とにかく調味料らしいものを片っ端から試していく! そして良い感じの奴は買う!」

「……モングレル先輩、どうしてそんな調味料を? まぁ魚とかに使うってのはわかるんスけど」

「魚料理に使うものがほしいってのもある。が……まぁ単純に俺の故郷の味をできる限り再現したいってのがメインだな」

「あ……モングレルさんの故郷……」

醤油や味噌がなくても代用品はいくらでもある。

日本で生み出された代用醤油だとか、魚醤だとか、ガルムだとかな。異世界各地から集まったそういう調味料からそれっぽいのを集めておけばいざという時に使えるだろ。

何より調味料は保存が効く。買っておいて損になることはあるめぇよ。

「……わかった! 私、頑張ってモングレルさんが必要とする調味料を見つけ出すから!」

「おお気合入ってるなウルリカ。頼むぞ。お前たちの味の好みも参考にしたいからな」

「……まぁそういうことなら、私も頑張るっス」

そういうことで俺達は市場の散策を開始した。

見慣れない果物や乾き物など目移りする商品が増えたが、それらをひとつまみしたい欲求をグッと堪えて目当てのものを探していく。

しかし多いのは粉系だ。

ハーブやスパイス、香辛料の類が目立つ感じ。液体系の調味料は輸送に難があるせいか滅多に見かけない。

たまに見かける液体調味料は一滴味見させてもらうと、大体がしょっつるというか……魚醤というか……旨味はあるけど生臭い感じのものばかり。

正直俺はあまりこういう魚醤とかナンプラーみたいなものに詳しくない。

火にかけて酒とか砂糖とか色々混ぜてどういう味になっていくのかは見当もつかねーわ。

ライナやウルリカも味見してみたが、絶賛するほどではないようだった。特にキツめの匂いが慣れないらしい。

「モングレル先輩、スパイスばっか買ってるっスね」

「でもそれ、モングレルさんの目的のものでは無いんでしょ……?」

「まぁなぁ。けど使えそうだと思って買っちまった」

荷物に追加されていくのは粉や乾燥スパイスばかりだ。

香りの強いものなのでカレーとはいかないまでも、肉にかけたら良い感じになってくれるだろう。

……探し回っているうちに、もうこれで妥協して良いんじゃないかという思いが頭をよぎる。

もう俺の求める調味料にはたどり着けないのではないか……?

スタッフの誰もが諦めかけていた……その時!

「おお、こ、これは……!」

「! 見つけたの? モングレルさん!」

「干した海藻だ!」

それは昆布……とは違った形をしていたが、大きなヤツデの葉みたいな形をした海藻に違いなかった。

表面は塩を吹いたようにうっすらと白く染まっている。爪の裏で叩いてみると、肉厚で硬そうな感触が返ってきた。

「連合国から来た海藻の保存食だよ。水で戻して焼いて食うんだとよ。俺は食ったことはないがねえ」

「水で戻して、焼く?」

「肉と似たような味がするらしい。本当かどうかは知らんがね」

肉と似た味? 全く想像できねえけどつまり十分な旨味は出るってことか。

いやとにかく、海藻なら問題ねえ。昆布出汁として使えるはずだ! ……多分!

「面白そうだ、これ売ってくれ」

「あいよ、結んでまとめてあるから十枚ずつで買ってもらうが良いかい」

「じゃあ三十枚くれ」

「お、そいつは助かる。値段は一枚分おまけしてやるよ」

「助かるぜー」

こうして俺は故郷の味に少し近づけるであろう食材を手に入れたのだった。

「モングレル先輩の目当てのものっスか」

「ああ。故郷でも似たようなものを食ってたから、まぁ食えるだろう」

「良かったねぇ、モングレルさん」

「二人共ありがとうな。ああ、お前たちも何か買うものあるか? 大きな買い物するなら荷物持ちくらいにはなってやれるぞ」

「マジっスか。じゃあちょっとクランハウスで使う物をお願いしたいっス」

「あ、私もー!」

こうして俺はいくつかのスパイスと昆布っぽい何かを手に入れた。

醤油の代用品は見つからなかったが……まぁこの世界の何か適当なソースでも我慢できなくはない。

しばらくは新素材を使った創作料理に没頭できるだろう。