軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地元のちょっとした有名税

シルバーランクになってからというもの、マジで一日に十回くらいは“あれ? お前シルバーになったの?”って言われる。

その度に俺の回答のテンプレートは洗練されていって、最終的に一周回って面倒になってきた。

なので“はあ? シルバー? ……うわっ本当だ!?”とか言って自分の認識票見ながら驚くという無駄すぎる小芝居をするようになった今日このごろ。

マイホームのごたごたも少しだけ落ち着いて、そろそろちゃんと仕事やってるところを見せないと駄目だな……という気分になったので、俺は真っ当な理由でギルドにやって来た。

「うーん……シルバーランクの任務ってソロ向け少ねえなあ……」

昔からなんとなーく眺めることの多い掲示板だが、改めて自分がシルバーになってみると、また違った見え方になる。

ブロンズ以下は完全に根無し草の人間も多いから、ソロでもできるような仕事が多かった。だがシルバーになると“当然何かしらのパーティーに所属してるよね?”とでも言いたげなくらい、ソロ用のものが少ない。

あるのは本当に討伐くらいのもんで、街中でやるような警備の仕事なんかもだいたいが三人で交代でよろしくみたいなものばかりだ。

緊急で入ってくるような討伐案件でない限り、シルバーになったところで安定した収入になるかは怪しいところだな。

もちろん護衛任務なんかだったら一人でも受けられる仕事もあるが……今はタイミング的に、あんまり街から離れるのもなぁ。

「やあモングレル。本当にシルバーに昇格したんだね」

「おお、サリーか。したぜ、ぬるりと」

ガヤガヤと大勢がギルドに帰還してきたと思ったら、“若木の杖”が任務を終えてまとめてやってきたようである。

「本当だ、ずっとブロンズ3のままだと思ってたのに! なんかこう……違和感あるなぁ、モングレルさんの認識票!」

「うっわ、クロバル失礼すぎない? アタシは全然そんなこと思ってないからね、モングレルさん。おめでと!」

「おいバレンシアも言ってただろ! ふざけんなよ!」

……俺が家を貰って、ライナと婚約して、シルバーに上がって。

色々あった中で、何故か一番驚かれているのがシルバー昇格の一報であった。一番しょぼいのにな。なんでかこれが一番みんなの話題になっている気がする。

別に今はもうライナと結婚するぜって話も隠しちゃいないんだが……。

「モングレル! ライナと結婚するんですよね!? 本当にライナを食べさせてあげられるんですか!?」

と思ったが、無駄に半分キレ気味になってるモモだけは食いついてくれた。

モモと話していると年中こちらを威嚇してくる小動物と付き合っている気分になる。

「そりゃまぁ飯食っていく分にはやっていけるさ……今の俺だって、そこそこ稼ぎは悪くないんだからな。シルバーになって一緒に任務にも行けるようになるし、まぁそれでもっと安定するだろ? 趣味の買い物に使う金は減らさなきゃなんねえけどな」

「むむむ……ライナの稼ぎをあてにしてないので良しとしましょう!」

なんか許された。いやまぁ共稼ぎにはなるだろうけどな。さすがに嫁さんの稼ぎをあてにした生活はしねえって……。

いや鳥肉はあてにするかもしれない。俺鳥獲るの下手くそだから。

釣りで魚とかエビとかカニとかも……。

「そういえばモングレル、認識票に使われている星型の極輝鉛の製法について、これじゃないかっていうのを最近思いついてね。多分製法を外に漏らすと王都の人から訴えられるからあまり大きい声じゃいえないんだけど……」

「こんな邪魔になるところで立ち話もなんだからテーブルいこうぜ。そしてサリーはその話はやめてくれ。絶対に触れなくてもいい厄ネタだろそれ」

雑談みたいなノリで漏洩したら不味い情報を吐きかけてくるの、マジで今の俺にとって一番困るから本当にやめていただきたい。

昼過ぎの酒場は人もそれなりの数で、テーブル席は結構余裕がある。

“若木の杖”のメンバーは思い思いの席について、酒ではなくお茶を飲んでいた。

せっかくなんで俺も一緒にお茶を頼んで優雅な午後のティータイムを過ごさせてもらっている。

「へえ、モングレルは家の改築もやるのか。すげぇなー、レゴールに家とか憧れるよ。今は王都よりレゴールの方が土地高いんじゃないか?」

「さ、さすがに王都のほうが高いと思いますけど……全然、違いますし……」

「クランハウスも快適ですけど、自分の家っていうのもちょっと憧れますね!」

「男連れ込み放題だしねー。あ、新婚さんか。テヘッ」

自分の話題中心で話が進むこの感じ、この世界に来てからあまり味わったことがないけど、別に望んでたものでもなかったな……。

普通にちょっと居心地が悪いぜ!

「今はもうその改築のことで頭一杯だよ本当。なにせ自分ち用に風呂と氷室の設置を考えてるからな……」

「へえ、それはすごいね。風呂はナスターシャの開発したものかな?」

「魔法使い用のやつだろあれは。普通に薪で沸かすやつにするよ」

太陽光を利用できたらなーなんて考えもあったが、複雑な機構の金属工作はちょっと自信がない。原始的なボイラーですらやりすぎかもしれないとビビッてるところだ。

最悪の場合ただのロケットストーブか、焼き石で力技なんてことになるかもしれないな。最悪と言ってるが、普通にあり得るから困る。

「どうやってお湯を温めるんです? ……ヴァンダールさんだったらどういう構造にしますか?」

「うーん……まあ、熱をより水に触れさせることが重要なので、浴場にあるようなものとそう大きくは違わないのではないでしょうか。クランハウスの湯沸かし器の内部構造と近いでしょうね」

「俺が考えてるのは、銅管をこう、ぐるぐるっと巻いてあるやつだな。もう店に注文は出してるんだぜ」

「早いですね!?」

「本当に風呂が好きなんだねえ、モングレルは」

「入れるもんなら毎日入りたいくらいだぜ俺は」

まぁ現実的には厳しいだろうから何日かに一回とかになるだろうが……。

間伐材くらいならバロアの森からちょくちょく頑張って運ぶぜ俺は……。

「モングレルさん、俺今副業でさ、彫金で表札とか作ったりしてるんだよね。銅板とかを鏨で掘ってさ。これが結構良い金になるんだよ」

「表札か……そういや考えてなかったなぁ。銅ってのもおしゃれだな」

「モングレルはブロンズのイメージがあるからクロバルさんの作る表札は良いと思いますよ!」

「出来はどんなもんよ」

「文字の見本としたら、えーっと手持ちだと小さいやつになっちゃうけどこういう字体。タリスマンだけどこんな感じ。結構良いでしょ!」

「おー……すげぇな。これがでかくなったやつってことか……」

個人宅の表札には、家人の代表者の名前が刻まれることが多い。大体は男だな。仲の良いところだと夫婦揃って名前があったりするし、子供もついでにってところもある。そこは人それぞれだ。

俺の場合はどうしようかね。まぁモングレルだけでも良いけど、ライナが望むならライナも彫ってもらえば良いだろう。

「見てると結構欲しくなっちゃったな……具体的に決まったらクロバルに頼んで良いか?」

「おっしゃ、いいよいいよ! 是非任せてくれ! お洒落なの作るからさ!」

「ク、クロバルさん、今モングレルさんたちも色々と入り用なんですから、料金は考えないといけませんよ」

「わかってるって。趣味みたいなもんだし、そんな取らないってば」

「タリスマンでは稼いでましたよね!」

「それは銀だから!」

話で盛り上がっていると、また入口から大勢がゾロゾロとやってきた。

今度は任務を終えた“収穫の剣”の帰還らしい。今回は討伐ではなかったのか、ディックバルトもいる。ディックバルトが帰ってくる時はだいたい護衛の帰りだ。

「ようやく戻ってきたぜェ~レゴール! エレナ、報告報告! これ依頼人からのな!」

「はいはい……お疲れ様でした。任務は……うん、無事問題なく遂行できたみたいですね」

「飲むぞ飲むぞー」

「エール六つ! それと炒り豆と……ディアステーキ!」

「まだディア肉安いぜ。森の事件から結構経ってるのにな……」

「秋になって討伐も増えたからじゃね?」

「あ、そっか。俺等もそろそろ討伐するか」

大手パーティーが二つも入ってくると、酒場は途端に賑やかになる。

まぁ“収穫の剣”は単体でもうるっせぇけどな……。

「ようモングレルゥ~! 今度は“若木の杖”の可愛い子たちと一緒に飲んでるのかよ~!」

「ただのお茶だよお茶。クロバルに金物で作ってもらおうかどうかって話をしてたんだよ」

「あ、なんだお茶か……お茶じゃなんかこう、いかがわしくねェなァ……」

「――今えっちな話をしたか……?」

「してないです」

「――そうか……――」

酒だったらいかがわしくなるってもんでもなくない……?

まぁチャックの感性だとそうなるのか……。

「あ! そういやよォ~モングレルよォ~! シルバーに上がったらしいじゃねえかよォ~! ぁあ~!? 今更感強いなァ~!」

「ああ俺はついこの前シルバーになったんだ色々と金が入り用になってなけど今まで通り俺は真面目にやっていくから今後ともよろしく頼むぜ」

「なんか一息で返してきたァ!? 怖えよ何!? ていうかおめでとう」

「ありがとう」

やっぱりここでも俺のランクアップが一番に取り沙汰される。

そんなに大事件かよ……? いや控えめに言っても普通に控えめなニュースだろこれ。

そりゃ公園前派出所で勤務してるおまわりさんが本庁で働くようになるようなレベルだったら俺も大騒ぎするけどさ……。

「……それと、ついにライナと結婚したんだってなァ?」

「あ、やっぱそれも聞いてるよな。まぁ婚約はしたから、近々って感じだよ。ギルドでパーティやるからそんときはよろしく頼むぜ」

「……っカァ~……あのモングレルがなぁ~……って言うべきか、ライナがな~って言うべきかわかんねェなァ~」

何その反応。

「こいつちゃんと結婚とかするんだな……」

「本当は男にしか興味ないんじゃないかと思ってたぜ……」

「――結婚したのか。モングレル……」

「ライナちゃん良かったよホント。モングレル、あんたしっかり稼ぎなさいよ! それと婚約した時の言葉とか教えなさいよ!」

「そ、それ私も聞きたいです!」

「アタシもー」

そろそろ勘弁してくれねえか……話題の中心になりすぎて普段と違うコミュニケーション筋を使ってる感じがしてキツいよ俺……。

……まぁ全てに真面目に受け答えする必要なんてないか。馬鹿真面目に応対するよりは、余裕をもって対応しておこう。どうせ内情は後々全部ライナから漏れるだろうしな……!

「……ま、色々と言ったりはしたけどな……内容は二人だけの秘密ってやつだよ」

「キャー!」

うっさ。しかもうるさいのがアレクトラっていうね。もっと若い子がやるべき反応だろそれは。

「……なんかモングレルが既に既婚者の余裕ってぇの? 出しててムカつくなァ……」

「俺なんか女の子と付き合ったこともないのに……」

「別にライナちゃんが羨ましいってわけではないが……なんかムカつくな……」

「……そういやさっき屋台で買ってきたジャーキー裂き揚げ、結構あるな」

「おぉ何本くらい? いち、に……三十本はあるなァ」

「じゃあいけるか」

チャックたちがヒソヒソと何かを話している。屋台飯を買ったらしいが、あれか。ここに来るまでに俺が密かに気になってたジャーキー揚げじゃん。それどんな味なのか気になってるんだよな……。

「それじゃあこの揚げジャーキーを賭けて……第十五回揚げジャーキー猥談バトルの始まりだァァアアアアアアアアアアッ!」

「イヤッホォオオオオオオウ!」

「やるぞやるぞやるぞやるぞぉおおおおお!」

「スカしたモングレルも強制参加だぁあああああ!」

「新婚夫婦の赤裸々な夜の事情を語ってもらうぜぇええええええ!」

「えんがるるあ!!」

「おいもはや俺の参加は強制かよ!?」

どうやら俺がちょっと余裕にしている態度が気に入らなかったらしい。突如としてこいつらお得意の猥談バトルが始まってしまった……!

いやまぁ今は別にライナとかもいないから別にいいけどな……さすがに居たら生々しさが出るかも知れないからちょっと……ね……うん……。

「モングレルはまたスケベな話で稼ぐんですか!」

「今の一連の流れをしっかり見てて俺を悪者扱いできるのか?」

「――ギルドマンたる者、常在戦場――モモよ、良く見ておけ。このモングレルの姿こそ、ギルドマンのあるべき姿だ――」

「……サリー団長、モモさんにあまり良くない教育を施されそうになっていますよ」

「揚げジャーキーって美味しいのかな」

「興味なさそうでウケる」

そんな感じで、まぁほぼ避けようのない流れと勢いでバトルが開始されてしまった。

あーあー、テーブルをガタガタと移動させてまた大掛かりな……そして壁際には“収穫の剣”のみんなの荷物が固めて積み重ねて置かれ、“クッションはこれでいいか?”“大丈夫だろ”みたいな会話が交わされている。番組収録用の大道具もセッティング完了のようである。

……まあ、ライナがいなければ気まずい思いをしなくていいし構わないか……。

「はー弓の指導やっと終わったっス。あ、モングレル先輩おっスおっス」

「ライナ……! すげぇタイミングで来たな……!」

「え、なんスかなんスか」

「――予選第一試合……始めッ!」

「あ、完全に理解したっス」

こうして、なんとなく久しぶりな感じがする猥談バトルが幕を開けたのであった……!