軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

銅管にまつわる依頼

俺はモングレル。ハルペリアで一番強いシルバー1のギルドマンだぜ。

……うーん、なんかいまいちだよなぁ。ギャップ効果が薄いというか……。

なんて、どうでもいいことを考えつつ、俺は新たなマイホームのためにレゴールの各所を駆けずり回っていた。

役所、商業ギルド。普段は立ち入らない施設に踏み入って色々教えてもらったりなんなりして、地下工事の相場もだいたい理解した。

そしてわかったのは、一度氷室の工事を頼んだ経験のある“アルテミス”に聞いてみるということであった。

クランハウスの運営には間違いなく詳しいであろうシーナとナスターシャを頼るのは、まあ自然な流れと言える。経験者に聞くのが一番はええんだ。

「商業ギルドの知り合いに聞いてみたらさ、地下工事の事業者って結構厳しいらしいんだよな。だったら“アルテミス”の施工もやったとこと同じにしようと思ってさ」

俺がそう言うと、向かい側のソファに座ったシーナとナスターシャは顔を見合わせた。

「……正直に言うと、私達の頼んだ人も特別親切だったわけではないわよ」

「え、そうなのか」

「でなければ、自分たちで拡張するなどという手間も払わんさ。モングレル、以前お前に手伝ってもらった工事は実際の所、私達の悩みのタネでもあったのだ」

聞いてみると、“アルテミス”の氷室の地下拡張工事はかなりお得なタイプの事業者に頼んでもらったらしい。元も子もない言い方をすると、格安の業者にやってもらったと。

「どこも忙しいもの。私達だって、別にこういうことの発注に詳しくなかったしね……手探りよ。工事の人だって、イゾッタさんに調べてもらったようなものだし……」

「それもそうか……んじゃあ、やっぱり商業ギルドのツテでやってもらうとすっかな」

あわよくば安く済むんじゃないかという思いもあったが、そういうことならば仕方がない。まあ金に困ってるわけでもないしな。今回ばかりは特に糸目もつけないし、景気良く全方面に支払ってやるとも。

「ライナから聞いたが、風呂も作るとか。……個人の家にしては、随分と……貴族趣味だな」

「予定な、予定。つっても俺は魔法が使えるわけでもないしな。薪ストーブと自作のボイラーでどうにかなりゃいいんだが、これも大金がかかるよな……けど貴族趣味ってのは大袈裟な話だぜ。俺は風呂と氷室をこよなく愛する一般市民だぞ」

「一般市民は個人所有の風呂と氷室がさほど生活に結びついていないのよ」

だとすれば、転生者たる俺の使命はその辺りの三種の神器をなるべく一般層にも手の届くように広めるってとこなんだろうか。……まぁさすがにそれは無理か。電気もないしな。

「ナスターシャ、風呂の湯沸かしの発明ってどこに製作をお願いした?」

「ウルンスト銅金属店だ。レゴールでは一番の銅加工の工房だと聞いたのでな、私はそこに発注した」

「なるほど……どっかで聞いたことあるな。わかった、ありがとな二人とも」

「いいのよ、このくらい」

一人でなんでもかんでもできたら苦労はないのかもしれないが、人間そう万能な生き物ではない。社会でぶち当たる問題や疑問のほとんどは未知ばかりだ。一人で放浪して生きていくのとは全く違う。人を頼れないと、社会で生きていくのは本当に大変だ。まあ、俺としてはその方が楽なんだけどね。一人が楽ってタイプじゃねえんだ俺は……。

何にせよ金物を先に済ませたほうが良いかと思い、俺はまずウルンスト銅金属店を訪れた。

ハルペリアでは鉄の産出がカスみたいにレアだが、代わりに金銀銅、特に銀と銅の産出に秀でている。少ない金属を上手く使おうという精神があるためかこの手の金属加工技術の精密さはなかなかのもので、銀細工などはハルペリアにおいて高価な輸出品にもなっている。

生活雑貨においては鉄は言うまでもなく優秀な素材だが、銅だって決して引けを取らない。逆に銅製だからこそというものは多いくらいだ。フライパンとか、鍋とかね。

そんな銅の身近な使い道の一つとして、銅管がある。

「いらっしゃい。……お、ギルドマンの人か。うちは銅製の防具の修理もやってるよ」

ウルンスト銅金属店は、ジョスランさんの鍛冶屋の近くにある店だった。

店の入口近くでは店番中らしいおばさんがお茶をすすりながら休憩しているところだった。やけに眼光の鋭いおばさんである。

店先で何かを売ってるというわけでもないからあまり縁がなかったが、これからはそこそこ訪れることになるかもしれない。

「どうもどうも。いや、ギルドマン的な要件じゃなくてですね。ちょっと家の色んなとこをいじるもんだから、銅管で作ってほしいもんがあるんですよ」

「家の話か。そりゃあ大きな仕事になりそうだね」

おばさんの目がギラリとシリアスに光った。いや、別にそんな大した用でもないんだけどな……。

「あー、言って伝わるか自信ないんすけど、下水用の配管にこう、グネグネッと曲がった管を使いたいんですよね。それを幾つかほしくて」

「ああ、最近よく注文来るやつね。それなら人気が出てるもんだから、すぐできるよ」

えっ、人気出てるの。

……ひょっとしてアレか。前に俺がケイオス卿としてレゴール伯爵の前に現れた時言ったやつ……S字トラップの話で需要が生まれたのか。

「貴族街だけで流行ってたらしいんだけど、近頃は他の場所でもやるようになったらしくてね。地下に流すものは全部これになっちゃいそうな勢いさ。……あとうちらには関係ないけど、施工する時にあの形してると、結構ごまかしが利くって話でね。そういう点でもありがたいんだってさ」

「へー……? いや工事については俺も詳しくわかんないですけど。あるなら嬉しいなぁ」

「まいど! 鉄はすぐ錆びて駄目になるからね、水回りを銅にするのは正解だよ。最後に信じられるのは銅だけさ」

なんかすげぇ鉄アンチなおばさんである。

まぁ確かにステンレスじゃない鉄メッチャ錆びるなって俺もこの世界に来てすげぇ思うようにはなったから、わからんでもないけどな……。

「それともう一個、ボイラーってわかるかな……そいつを作ってもらえるなら」

「ああ……風呂屋とか、お金持ちが湯沸かしで使うやつだろう。なんだい、風呂屋でもやってんのかい」

「俺は金持ちってわけじゃないんだけど、せっかくだし家に風呂を作りたくてね」

「言ってることは金持ちだよあんた。……ボイラーってのはあれだよね、こう、管をぐるぐるさせてるやつだよね」

「そうそう。その中に水を通して、熱源で温めて。個人用なんで大掛かりじゃなくていいんですけどね、太さは……まぁこのくらいかなぁ。このくらいのをこんくらいでグルグル……」

「あー詳しい加工の話になるととーちゃんに聞かないとだ。おいとーちゃん! お客! 来な!」

「ほーい……」

ややあって、工房の奥から気弱そうな顔のおじさんがやってきた。

おばさんとは正反対の印象のある人だ。顔だけでなんとなく家庭内の力関係が見えてしまう。

「ああー……ボイラーかぁ。小型のねぇ。小型のは逆に難しそうだけど……長さも必要だし……あーでもあれだね、倉庫の棚の天板のとこに這わせてる管、古いけどあれ使えば作れそうだね」

「不良在庫のあれかい? あったねえそんなの」

「……それでも多分、曲げ加工が難しいなぁ。君、このボイラー自分で作るんでしょ」

「ええまあ……俺も発明齧ってるんで、設計は俺が。あと知り合いの魔法使いにも協力してもらうんで」

おじさんは気弱そうな目をヘニャリと細めた。威圧感が無い。

「大きさがね、小さくするのは難しくて多分……このくらいの径になっちゃうんだけど」

「あー、全然平気ですよ」

おじさんの手で示されたざっくりしたサイズは、俺の示したものより二十センチほど径が大きかった。

加工する人にとっては多分かなりオーバーしてるんだろうが、まだなんも作ってない段階なんでね。ここで出来上がった銅管のコイルを元に設計していくだけの話さ。逆に熱源に触れる面積が広くて効率がいいかもしれない。

「だったら大丈夫だ。作れるよ。そうだね、不良在庫の処分も兼ねてるし費用としては……」

「馬鹿、戻りな」

「イテッ」

値下げを提案しようとしたおじさんは奥さんに叩かれて工房に戻されてしまった。

かわいそう。

「まぁ費用は銅の目方、手間賃含めこんなとこよ。……繋ぐ部分はうちらじゃやってないから、他の人んとこに頼むんだね」

「あっはい」

提示されたジェリーもまぁ決して安くはないが……ふっかけられているというほどでもない。むしろ難しそうな曲げ加工をやってもらってこの額なら良心的なんじゃないだろうか。そう思える金額だった。

「今は持ち合わせがないんで、金はまた後日支払います」

「はいよ。支払いでき次第作り始めますんで、よろしくお願いしますよ。お名前は?」

「モングレルです。シルバー1のギルドマンやってますんで、依頼の際はギルドにどうぞ」

「ふーん、モングレルさんね。はいよ。じゃあ旦那が浮気した時は討伐依頼出させてもらうから、そん時はよろしく頼むよ。アッハッハ!」

「ははは……はは」

冗談めかすように笑っているおばさんであったが、その目は眼光の鋭さ故に笑っていないように見えるのだった……。