軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タケノコと蔓状のアレ

「今日もまた酒盛りやってんなぁ」

ライナと一緒に小舟を漕いで管理棟へ向かっていくと、今日も今日とて爺さんたちが集まって何か飲み食いしているようだった。

あの人らいつも何かしら遊んでいるように見えるんだが……こんな辺鄙なところでっていうのがちょっと俺の中では憧れから遠ざかるポイントだ。いや、他人の日々の過ごし方にケチをつけるもんじゃねえわ。

「舟の貸し出しの仕事、じっと待ってなきゃいけないから暇そうっスね。……あ、水鳥の肉の交換、貰えるならお酒もアリっスね」

「いやー、人からどこのものともわからん酒を貰うのは俺はちょっとなぁ」

「お酒ならどこのも変わんなくないスか?」

「……そりゃ危ないぜライナ。最近流行りの蒸留酒なんかはちゃんとしたやり方で作ってるから安全に飲めるけどな、一歩作り方を間違えると毒が出てくることだってあるんだぜ?」

「マジっスか。ヤバ……」

低品質な酒は普通にヤバいアルコール成分が入ってたりするからな。メチルアルコールとかそこらへんのやつ。失明どころか死んでもおかしくない。

ライナは酒飲みだからなぁ。万が一やり方を聞きかじったりなんかして、自分で蒸留の真似事をしたら大変だ。やらんとは思うけど、釘は刺しておかないとな。

「おー、“アルテミス”の人らの舟が来た」

「リードダックかい? おーおー、そんなに獲ってきたのか! 良いねぇ」

桟橋の方まで近付くと、爺さんたちが見るからにご機嫌になった。

「どもども。いや、弓使いの皆が優秀で助かりますよ。こっちのライナも結構獲ったりしましてね」

「っス。楽しかったっス」

「ほうほう、こりゃ将来はゴールド3になっちまうね。ヘッヘッヘ」

水鳥撃ってゴールド3になれたら弓使いも苦労はしないだろうが、そんな適当な煽てられ方をするだけでも嬉しいのか、ライナは気恥ずかしそうに頭を掻いていた。

「新鮮な鳥肉はありがたい。俺等もリードダックを獲ろうとたまーに弓を持ったりするんだが、全然でなぁ」

「矢がすぐ失くなったり駄目になったりで、あんまり良くねえのよな」

「そういや前に自警団を抜けたグリオさんは弓のなんかのスキル持って無かったか?」

「あーあれは確かなぁ……」

世間話から俺達にとってかなりどうでもいい話になりそうだったので、ちょっと大きめにハハハと笑いを挟み込み、話の流れをちょい強引めに手繰り寄せた。

「“アルテミス”の狩人たちは皆いい場所狙って撃ってるんで肉も美味しいですよ。貰ってください」

「おお、そうだそうだ。いや助かる。かわりといっちゃなんだが、あれだ。水に晒しといたタケノコと老魔女の杖があるぞ。もう食えるやつだから、もらってくれ」

「えっ! タケノコ良いんですか!?」

「おー、持ってって持ってって。この時期結構採れるもんよ。うめぇよぉ」

タケノコありがてぇ……野菜欲しいなーとは思っていたが、まさかタケノコとは。

適当に煮ても焼いても美味いから助かるわ。

老魔女の杖は……まぁ、めっちゃデカいぜんまいというか……そんな感じの野草だ。頑張って下処理すれば食えるタイプのやつ。こっちはまぁそうでもねえけど一応貰っておくか……。

「ほいじゃあこっちの袋に入れといてやるからよ、舟に乗せとくからな。ヘッヘッヘ」

「うおおお、老魔女の杖がめっちゃある……」

「お嬢ちゃんはどうだい、何か大物仕留めたかい?」

「いやー、リードダックばっかりっスね。前来た時はフレッチダックもいたんスけどね、昨日と今日は全然姿を見れてないっス」

「あー、フレッチダックはもうちょい時期が後かねぇ。いるにはいるんだが」

「へえ、そうなんですか。それは知らなかったな……」

ザヒア湖の生物分布にまた少し詳しくなってしまった。俺がこの情報を活かせる時はそんなにないだろうが……。

生物といえば、そうだ。聞きたいことがあった。

「そういえば冬の間、こっちにマーマンが居たって話を聞いたんですけど」

「っス。ギルドでも言ってたっス」

「あー、マーマンね!」

「いたいた! ちょっとした騒ぎになってたな!」

マーマンの話をすると、爺さんたちはちょっと盛り上がった。校庭に犬が迷い込んできたくらいのテンションである。

「うちの自警団が見つけたんよ。水の中を泳ぐ、青白いゴブリンみてぇな魔物がいてな。ありゃ珍しかった」

「居たことは居たんですね。……今は?」

「今どころか、冬のその時見たっきりだよ。知らんけど凍死でもしてるんじゃねえの? ハッハッハ!」

ハッハッハって。適当だなぁオイ。まぁでも仮に一匹いたとしてもそう長生きもできない……か?

「それにほら、あれよ。ザヒア湖の底にはフルールクラムがいるからなぁ。マーマンってのが湖に居たとしても、どっかしらでフルールクラムに食われてるよ」

「魔物っスか? 聞いたことないっスね」

「ライナは知らないか。貝の魔物だよ。……つか、フルールクラムなんているんすね、ここ……結構危ねえなぁ……」

「浅瀬にはいねえから大丈夫だ。ふかーいとこの底に定着してっから。普段は全然危なくねえよ」

フルールクラムは貝の魔物である。

花の蕾のような殻が開くと、そこから雄しべのような何本もある蔓をバッと出して獲物を絡め取り、内部へ引きずり込んで食らうという。

サイズは人間の子供ほどもある。が、逆にいえばそのくらいしかないので人間を一口に飲み込めるなんてことはない。力もさほど強くないらしいので、どうにか脱出することもできるはずだ。だがマーマンくらいの小柄なサイズになると、そのままパクッと食われるかもしれないな。

「モモちゃんそんな湖で泳いでたんスか……」

「……水中深くに沈むような装備はなかったが、後で教えといてやるか」

「それが良いっス。モモちゃんとか私だったらフルールクラムってやつに食べられちゃうかもしれないっス」

いやさすがにライナとかモモくらいあれば大丈夫だとは思うが……。多分な。多分。

野菜、というより灰汁の強めな山菜をたっぷりと舟に積み込んで、拠点へと帰っていく。老魔女の杖は微妙だがタケノコが手に入ったのはありがたい。これなら水鳥を交換した価値があるってもんだろう。シーナ達も喜ぶはずだ。

「でもモングレル先輩」

「ん?」

「マーマンが仮にフルールクラムに食べられちゃったとしても、そもそもマーマンはどこから来たんスかねぇ」

「んー……どこだろうなぁ。水辺の魔物は俺も詳しくねえからなぁ……前に来た時のハイテイルだって、なんでここにいるんだって感じだったし」

「確かに。めっちゃ場違いな大物だったっスね」

ザヒア湖も広いから、地下水脈でどっかしらとつながっている可能性はあるが……そうなるともうお手上げだな。俺等にはさっぱりわからん。

だが、理由をどうにか他で作るとするなら……。

「人がマーマンを運び込んできた、なんてこともひょっとするとあり得るかもしれないな」

「人っスか。マーマンなんて運んでどうするんスかね……魔物を生きたまま運ぶのは犯罪っスよ……」

「サングレールの悪い奴らがマーマンをザヒア湖に放流して、みたいな。無理やりの予想だけどな」

「……うーん……だったらもうちょい凶悪な魔物の方が効果あると思うっス」

そりゃそうだわ。わざわざマーマンなんて選ぶ必要はない。俺もわかっちゃいたけどな。

「……それよりモングレル先輩。向こうに戻ったらまた舟出して、釣りとか鳥撃ちとかやってみないっスか」

「お、舟の上でか?」

「っス。そういうのも面白いと思うんスよね」

「このボロい舟に乗り続けて釣りをするのはちと怖いんだが……そうだな、いっちょやってみるか。ライナも乗るんだな?」

「うっス。昨日買った猫の耳を着けてやってみるっス!」

いや、仮に猫耳ヘアバンドに効果があるとしても多分水上では役に立たないと思うが……まぁまぁ、着けたきゃ着けると良い。猫耳は雑に装着しても許されるアクセサリーだからな……。

「モングレル先輩も犬耳つけないスか」

「いや、俺の犬耳はモモの発明品と合体してもう駄目になった」

「マジっスか……モングレル先輩もつけとかないと効果が落ちるかもしれないのに……」

「安心しろ。多分効果はそんな変わんねえから」

「そうっスかねぇ……」

ライナはちょっと微妙そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

「……ま、モングレル先輩と一緒に釣りとか狩りができれば問題ないっス」

「魚釣りと鳥撃ちの同時狩猟か。欲張りで面白そうだぜ」

魚がいそうなポイントと鳥がいるポイントが近い可能性はあるから、まぁ理論上そこまででたらめなやり方でもない……はずだ。うん。