軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.悪徳ギルドマスター、悪行の限りを尽くす

ある朝、俺はギルドホールの、受付にいた。

受付事務を行っている、30代の女性職員を前に俺は言う。

「何をやっている、この馬鹿者が」

俺が言うと、職員は肩をすぼめる。

「なぜそんな大事なことを黙っていた?」

「すみません、ギルマス……」

「明日からもう来なくて良いぞ」

「申し訳ありませんっ……!」

「謝る暇があるならさっさと出て行け」

職員は頭を下げて、受付からいなくなる。

「あ、アクト様……?」

するとちょうど、出勤してきた俺の弟子ユイが、おそるおそる尋ねてくる。

「どうした?」

「あの方が、何かしたのでしょうか?」

「ああ、彼女の息子が高熱を出したそうだ」

ユイは目を丸くして言う。

「は? ね、熱、ですか?」

「ああ。今朝子供を預けている祖母から念話で連絡が来たそうだ」

俺は職員全員に、念話の魔法道具を持たせている。

仕事がスムーズに回るようにという意味合いもあるが、家族に何かあったとき、すぐ駆けつけられるように、職員+その家族に1台渡してあるのだ。

すると先ほどの女性職員が、荷物を持って、俺の元へやってくる。

「ありがとうございます、ギルマス!」

「さっさと帰れ。数日はこなくていいぞ。きっちり風邪を治してから出てこい。いいな?」

「はい! 感謝してます、ギルマス!」

ダッ……! と女性職員は駆け足で帰っていった。

「さすがギルマスです! 息子のためにお母さんを帰らせてあげるなんて、お優しい!」

ユイが妙に目をキラキラさせながら、妙なことを言う。

「勘違いするな。風邪を職場に持ち運ばれても困るから、帰らせただけだ」

午後、 俺(ギルマス) の部屋に、男冒険者を呼び出していた。

俺は机越しに、彼に言う。

「今日からもう、来なくて良いぞ」

「そ、そんな! おれ、まだこのギルドにいたいです!」

「黙れ。これはギルマス命令だ。さっさと出て行け」

彼は沈んだ表情になると、肩をふるわせて、涙を流し出す。

「ぐす……今まで……大変お世話に……なりました」

大粒の涙を流しながら、目元を拭い、彼が出て行く。

「あの……アクト様。さっきの人はどうしたのでしょうか?」

お茶を煎れさせていたユイが、給湯室から戻ってきて、お盆を持って近づいてくる。

「数日休みをくれと言ってきたのだ」

「休みを……? たったそれだけのことで、ギルドを追放したのですか?」

少々厳しすぎるのではないか、とユイが言う。

「実家の母親が倒れ、治療院に入院することになったそうだ」

「え? た、大変じゃないですか!」

「ああ。だから実家近くの商業ギルドで働けるよう、新しい仕事を用意した。冒険者より休みも取りやすく労働時間も今よりキツくない。そっちのほうが親の世話をしやすいだろうと合理的な判断を下したのだ」

俺はユイからティーカップを受け取り、ひとくちすすって言う。

「だが自分はまだこのギルドに残りたいと言ってきた。親は高齢で、いつ退院するかわからないのだ。地元で就職した方がよいとなぜわからないのだ。まったく……」

「ギルマスー!」

窓の外から、さっきの彼の声が聞こえてきた。

窓から外をちらっと見ると、彼は笑顔で、こちらに手を振っている。

「ありがとうございますー! おれ、あなたに一生感謝しますー! 親が元気になったら、絶対またもどってきますからー!」

何度も彼は頭を下げると、走って去って行った。

「追放されたというのに、あいつは何を感謝してるんだかな」

ユイは感心したように何度もうなずく。

「さすがギルマスです! 部下の人生を、本当によく考えていらっしゃるのですね! 尊敬です!」

「勘違いするな。部下に命令通りスムーズに動いてもらわないと、俺が困るだけだ」

俺はお茶を啜りながら、書類に目を通す。

「おまえも、弟子としての仕事を辞めたくなったらすぐに申し出ろ。そもそもまだ子供、脳天気に遊んでいれば良い年頃なんだからな」

「いいえ! わたし、早く仕事を覚えて、尊敬するアクト様のお役に立てるようになりたいんです!」

「そうか。期待しているぞ」

夕方、俺の部屋に、アポなしで来客があった。

「ギルマスぅ~……わたし、もう無理です……仕事辛いですぅ~……やめたいですぅ~……」

俺の机の上に、上半身をもたれかけ、女が涙を流している。

「駄目だ。そんなこと俺が許さない」

「ふぇええー……もう限界ですよぉう……やめたいよぉ~……この仕事、わたしには、荷が重いんですよぉ~……」

「駄目だ。辞めるにはまだ早い。おまえは頑張れるはずだ」

「ふぇー……」

すると先ほど、書類を持って俺の部屋へとやってきていた、ユイがおそるおそる尋ねてくる。

「あの……アクト様。彼女は、このギルドを辞めたがっているのですか?」

「違う。こいつはかつてうちを出て行き、【魔道具師ギルド】のギルドマスターになった女だ」

目の前の彼女を指さし、俺は言う。

「ギルドマスター……ってえええ!? こ、こんなにお若いのに!?」

彼女は【 妖小人(ハーフリング) 】。

エルフ同様長命な種族なので、見た目は10代前半だが、実年齢は結構いっている。

「えへへっ♡ 若い? そう? 若いかなぁ~? うえへへへへっ♡」

泣き顔から一転、彼女は上機嫌に声を弾ませる。

「ワタシ、【リア】っていうんだぁ~。よろしくね~」

リアは起き上がると、ユイの手を握ってぶんぶんと振る。

「は、はぁ……。あの、リアさんはギルドマスターなのに、仕事辞めたいのですか?」

「そう! 辞めたい! だってもー! 人の上に立って仕事するとか無理! 無理無理無理!」

リアは俺の手を掴んで、上目遣いで言う。

「ギルマスぅ~……ワタシもう無理です。ここでまた、あなたの下で働かせてください? ね? ね?」

「駄目だ」

はぁ、と俺はため息をついて言う。

「貴様、ギルマスになってもう3年だろ。いい加減腹をくくれ」

「3年でもがんばったほーでしょぉ~……もう無理だって、限界だってぇ……」

「何が限界なものか。貴様が就任してから、営業成績は年々上昇しているではないか」

「それは……たまたま上手くいってるだけですよぉ~う……」

「偶然で3年も営業成績が伸ばせるものか。魔道具師ギルドマスターとしての才能がある何よりの証拠ではないか」

まだ納得がいってないのか、リアはブツブツと文句を言っている。

「おまえには、魔道具師としても、ギルドマスターとしても大成する才能が秘められている。それを見いだし、育てた俺の目を、おまえは疑うのか?」

リアはしばし黙考した後、深くため息をつく。

「わかりましたよぅ~……。そうですよね、ここでやめたらギルマスに迷惑かけちゃいますし……それは、嫌だしなぁ……」

はぁ~……と深々とため息をつく。

「こんなとこで油売ってる暇があれば、少しでもよい道具を作れ」

「へーい……。また新作できましたら、真っ先にここへ持ってきますねぇ」

「期待している。おまえの道具は出来が良いからな」

「うえへへ~♡ 大好きなギルマスにほめてもらえたー! よぉし、がんばるぞー!」

リアはスキップしながら部屋を出て行った。

俺はユイから書類を受け取り、仕事を再開する。

「まったく、どいつもこいつも理解不能だ。よりよい職場に再就職したというのに、なぜ俺のところへ帰ってこようとする?」

ユイは目を丸くすると、笑顔で言う。

「アクト様の作ったギルドが最高だからですよ!」

最高のギルドか。

俺はただ、俺の理想を体現するためのギルドを創っているだけに過ぎないんだがな。