軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話、生卵は危ない

アイテムボックスハウスに、ソフィア用の部屋を作った後、ソウヤはキッチンへ向かった。

ご飯を作るのは基本はソウヤの仕事。セイジがよく手伝ってくれて、彼は少しずつ料理のほうも学習している。

向上心がある彼は、比喩ではなく、そのうち何でもできる人間になってしまうのではないだろうか? それはそれで頼もしい。

「で、セイジ君、腹下しに効くポーションはあるかね?」

「……腹痛ですか?」

セイジが反射的に聞いた。いや、とソウヤは首を横に振る。

「実は、醤油を手に入れてから、どうしても食べたい料理があるんだよ」

「新しい料理ですか。……ポーションを料理に混ぜるんですか?」

「そんなことしねーよ! そうじゃなくて、卵を使うんだ。ご飯に卵をかけて、醤油で味付けする……それが最高に美味いんだよ!」

「卵をかけるご飯?」

「そ、卵かけご飯。あったかいご飯に生卵をかけて――」

「生卵? 正気ですか!?」

セイジが、信じられないという顔になる。

「お腹を壊します! 下手したら死にますよ!?」

「あぁ、わかってる。生卵をそのまま食べる危険性はな……」

日本では、サルモネラ菌やその他の危険物を排除した安全な卵が当たり前のように店に並んでいるが、世界に目を向ければ、そこまで安全性は徹底されていない。

さらに未発達な異世界では、言うに及ばず。

「だから、ポーションをだな――」

「卵を生で食べるのはやめませんか、ソウヤさん……」

「そうは言ってもな……」

――オレは食べたいんだよ、卵かけご飯が!

・ ・ ・

卵かけご飯を食べた。懐かしい味に感動した。

深夜、腹が痛くなった。セイジから、一応もらった腹痛止めの薬のおかげか、致命傷にならなかった。

――高い金を出して、とれ立て新鮮なやつを買ったんだが。

さらにアイテムボックス内の時間経過無視エリアで保存したにも拘わらず、である。

――卵かけご飯が、というか生卵を食べるのが命懸けとはね……。

なお、ソウヤ以外は、ミストが卵かけご飯にトライした。彼女は「美味い」を連呼し、非常に気に入ってくれた。

しかし、ソフィアとセイジは食べなかった。とても賢い選択だったと言える。

ちなみに、ミストは腹痛に悩まされることなく、朝ご飯にも卵かけご飯を所望した。

「焼き肉も一緒にしてもいいかも!」

などと、自分の好みを加えたものを提案しながら。

さすがドラゴン、鉄の胃袋。元々、ドラゴンは卵も平気で食べてしまう種族らしいから、耐性があるのかもしれない。

それはともかく、溶き卵を使う親子丼とかなら、いけるかもしれない。

さて、ベッド付きの個室で一日過ごしたソフィアは、さぞ元気だろうと思いきや、朝から何やらお疲れモード。

「……何かあった?」

具合でも悪いのかと聞いてみれば、赤毛の貴族娘は口をへの字に曲げた。

「昨晩は、師匠に枕みたいに抱きつかれたの」

「……お楽しみでしたか」

美少女同士がベッドで組んず解れつ。そんな想像がよぎったソウヤだったが、ソフィアは察することなく、口を尖らせる。

「楽しいわけないでしょ。寝にくいったらありゃしない!」

――あ、これマジな顔だ。

想像のような厭らしいことは、欠片もなかっただろうことは察した。

「あら、単なるお肌の触れ合いよ」

しかし、ミストは非常に元気そうだった。お肌も心なしか、艶っているような。

「大変、美味しい魔力だったわ」

ミストの言葉に、ヒラヒラと面倒くさそうに振るソフィア。

「それより、魔法、教えてもらえるんでしょうね、師匠?」

――さっきもだけど、師匠呼びなんだな、ミストのことは。

「ええ、もちろん。ワタシは新鮮な魔力を得て、機嫌がいいからね。……ソウヤももっと積極的にスキンシップしてくれてもいいのにね」

皮肉げにわざとらしい視線を向ける。――冗談じゃないぞ。

「男と女だぞ。やばいだろ、そういうの」

そもそも、その正体はドラゴンだ。どうなんだそれは、と思う。

「なあ、セイジ?」

「へあ? あ、ええ……そうですね」

何故か赤面しつつ、顔をそらすセイジ少年。さては、肌色のあれこれを想像していたに違いない。

「意外とムッツリだな、お前」

「はぁ!? どうしてそうなるんですか! 何も言ってませんよ、僕」

――そういうムキになるところは、青いなぁ、少年。

ソウヤは、完全に自分のことを棚上げにした。セイジにとっては、ひどいとばっちりである。

・ ・ ・

さて、本日の業務。ソウヤとセイジは浮遊バイクに乗って、エイブルの町へと移動。一方、ミストはソフィアに魔法教育。場所はアイテムボックス内。そこなら派手な魔法を使おうとも目立つことはない。

天候は曇り。雨が降らなければ問題ないと、ソウヤは浮遊バイクで街道を行く。道中、狼が出たがバイクで街道を直進すれば、狼のほうから逃げていった。

そしてエイブルの町に到着。コメット号が通過するところで、何人かの住民が手を振ってくれた。すっかり馴染んでいる銀の翼商会。

まずは、モンスター肉を卸している丸焼き亭へ。営業前の午前中に訪問である。

「あらぁ、ソウヤさん、お疲れ様」

丸焼き亭の主人、おネエさん店長のアニータが出迎える。

「どうも、アニータさん。今週分、お届けにあがりました」

「いつもありがとうね。銀の翼商会さんは景気はどう?」

「まあ、ボチボチですね。ちょっと予想外の出費はありましたが、いいモノを手に入れられました」

「へえ、それって私たちにも関係あるものかしら?」

興味津々といった様子でアニータは手を叩いた。

「もしかして、貴重なお肉だったり?」

「残念、魚ならありますよ。港町に行ったのでね」

ソウヤは荷物から、液体の入った瓶を出した。

「新作のステーキタレです」

「新作っ!?」

アニータがビックリして目を見開いた。銀の翼商会から買ったステーキタレを使うようになってから、肉の安定供給もさることながら売り上げが跳ね上がっている。当然、アニータが新作タレを逃すはずがないのだ。