軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話、お断りさせていただきます

「はあ!? いないって、どういうことよ!」

ソフィアの甲高い声が木霊した。

エンネア王国の王都にあるエアル魔法学校。王国有数の魔法教育機関であり、ソウヤが勇者時代に、魔王討伐に同行した魔術師にこの学校の卒業生がいた。

広大な敷地を有するらしい、というのはソウヤが聞いた話だが、その施設を囲む壁は、王都にあって城のようでもあった。

その高い壁のおかげで、敷地内の様子は見えない。その正面入り口である門で、ソフィアは門番と、学校の教師だろう魔術師とやりとりをしていた。

「ガルメル・イリューシャがいない?」

「ええ、気の毒な話ですが、イリューシャ先生は魔術実験中の事故で亡くなられまして……」

「そんなの、わたし聞いていない!」

ソフィアが声を荒げた。

「嘘よ……。ガルメルが、死んだなんて……」

現実を受け止められないのか、うつむき、何度も首を振るソフィア。

学校前の道を挟んで、様子を見ていたソウヤたちは顔を見合わせた。

「なんか雲行きが怪しいな」

「穏やかじゃないわね」

ミストも腕を組んで、門の前のやりとりを注視する。

「――わたしは、ガルメルから魔法を教わるって約束したのよ!」

「ですから、イリューシャ先生はもういませんし、正規の手続きもなしに、あなたを転入させるわけには」

「わたしを誰だと思っているの? ソフィア・グラスニカ、王国でも高名な魔術師であるグラスニカ家の人間よ!」

ヒートアップする声。――へぇ、ソフィアって、有名魔術師の家の娘だったのか。

「でしたら、正式な書面を回していただければ。……グラスニカ家からでしたら、すぐ通るでしょうし――」

「だから、家には――!」

言いかけて、口をつぐむソフィア。向き合っていた魔術師の表情が曇った。

「何か、不都合でも?」

疑いの目。言葉が出ないソフィアに、これ以上は無駄だろうと判断したか、魔術師は一礼した。

「それでは、これにて」

「! ……待って、まだ話は――」

しかしソフィアの声は届かない。魔術師は振り返らず、門番は入り口の門を閉めた。ソフィアはひとり、取り残される。

――あー、あー、これは……。

何とも言えないソウヤが隣を見れば、腕を組んだミストが哀れなものを見る目を向けていた。セイジは気まずそうに視線を逸らしている。

どうしたものか。ソウヤがソフィアの背中へと向き直れば、彼女はガックリと肩を落とし、そして膝から崩れた。

よほどショックだったのだろう。関係についてはわからないが、知り合いを亡くしたようだし。

「どう思う、ソウヤ」

ミストが、呆れも混じった調子で言った。

「どうもアテが外れたようよ。あの娘、報酬を払えないと思うわ」

「だろうね」

ソウヤは特に気にすることなく答えた。

「どの道、王都に寄るつもりだったから、別に報酬なくても構わないんだけどな」

旅は道連れ世は情け。同行者がひとり増えるくらいは気にしないが、問題はむしろここからだと、ソウヤは思った。

「彼女、どうなると思う?」

「さあ、ワタシが知るわけないでしょ。でも、有名な家の娘なんでしょ? 実家を頼れば何とかなるんじゃないの」

「その実家ってどこよ? オレら、王国東端のバロールから彼女を乗せたんだぞ」

浮遊バイクなら一日半もかからないが、徒歩旅だと軽く半月コースである。

「え、そこまでワタシたちが面倒を見ないといけないの?」

「明らかに困ってるだろう、彼女」

ソウヤの悪い癖が出てくる。勇者伝統芸、困っている人は見捨てない。

「義理はないとはいえ、運んであげた手前、放置できるほどオレ、神経図太くないのよ」

「はいはい、そこがあなたのいいところであり、悪いところでもあるのよね」

まんざらでもない調子のミストは、腰に手を当てた。

「いいわね、セイジ?」

「僕は構いませんよ」

セイジは頷いた。

「ソウヤさんの、そういうお人好しなところ、僕は好きですよ」

「それはどうも」

ソウヤは、大げさに会釈すると、今だ座り込んでいるソフィアの元へ歩き出した。

「まずは、あらかた事情を聞こうじゃないか」

その上で、出来ることがないか探っていこう。

・ ・ ・

王都の酒場兼食事処。遅いランチタイムに、幾分か空きがあって、ソウヤたちはテーブル席につくことができた。

夜ではないので、周囲の喧噪は控えめ。酒を飲んでいる者もいるが、あくまで水分補給だ。午後の仕事を前に深酒するような人はそういない。

すっかり消沈したソフィアから話を聞く。これまで頑なに自分のことを話したがらなかった彼女も、素直に話してくれた。

まずは彼女の素性。ソフィア・グラスニカ、18歳。エンネア王国のエリート魔術師にして、グラスニカ伯爵家のご令嬢。――何気に貴族の子でした。

魔術師の家に生まれ、さぞ優秀な魔法の才能があるかと思いきや、現在彼女は落ちこぼれとして、絶賛、家族からも冷遇されているのだという。

「……魔法が使えないのよ」

拗ねたように、ソフィアは白状した。

何でも魔力はあるのに、魔法を使うことができない。

故に、魔術師として活躍するどころか、実家にほぼ軟禁状態だったという。出来損ない魔術師は、家の恥ということで、貴族令嬢でありながら婚約の話すらない。

このままでは飼い殺しも同然だった。

「わたし、魔術師になりたいの!」

幼い頃からの強い憧れ。

「そのための練習もいっぱいした! 勉強もした! でも駄目だったっ!」

くしゃっと顔が歪む。しかし泣く寸前で彼女は、その涙を拭った。

「だから、皆を見返すために、家を飛び出したのよ! それで、ガルメル・イリューシャはグラスニカ家の親族でもあって、わたしに魔法を教えてくれるって言っていたから、彼がいる王都の魔法学校へ行ったのだけど……」

「ガルメル・イリューシャは、亡くなったと」

その辺りは、ソウヤたちも聞いていた。頼りの相手がいなくなり、ソフィアは完全にアテが外れた。飛び出してきたはいいものの、今さらむざむざと帰るわけにもいかない。他に頼るものもなく、完全に途方に暮れている、というのが彼女の状況だった。

「ふうん……」

ミストが、ぶどう酒をグビグビとやる。

「大体わかったわ。要するに、あなたは魔法使いになりたい。別に魔法学校に入らないといけないってことはないわけね」

黒髪美少女は胸を張った。

「いいわ。ワタシがあなたを魔法使いにしてあげるわ!」