軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第86話、深まるのは謎ばかり

アイテムボックスから出された青年は、それまでの無表情を崩し、かすかに驚いた表情を見せた。

ソウヤの収納の一言で、突然アイテムボックスに引きずり込まれ、また唐突に出されては、驚かないほうがどうかしている。

「さて、特殊な獣人を追っているという自称冒険者たちが、向こうへ行った」

ソウヤは、街道の西を指さした。

「人間に化けることができる特殊な個体とか、言っていたな。……それってあんたのことでいいのかい?」

「それを知ってどうする?」

青年は、ソウヤを睨んだ。

「連中に俺を突き出すか?」

「突き出すなら、とっくにあんたは、連中とご対面している」

ソウヤは腕を組んだ。

「あいつらは何者か、心当たりはあるか? 冒険者だと自称しているが、オレはどうも違うと思う」

「……」

「そう、平然と人を殺す……暗殺者の目だ。どうもあいつらの話を鵜呑みにできなくてね。あんたからも話を聞きたい」

「暗殺者だと察することができるのに、敢えて首を突っ込むつもりか?」

青年は、かすかに怒りを発した。関わるな、と再三言ってきたのに、ソウヤがなおも関わろうとするからだろうか。

「お節介な性分でね」

ソウヤはきっぱりと告げた。

「何日か前に、同業者からここらで獣人が出るって噂を聞いた。もし交通の妨げになるなら、退治してやろうとも考えていたんだが……どうも訳ありっぽいからな」

「言ったはずだ。知らないほうがいいと」

青年は穴から飛び出した。ソウヤは嘆息する。

「そうは言っても、もう関わっちまったからなぁ。あんたがオレらを関わらせないようにって警告するほどヤバイ話なら、さっきの連中、目撃者のオレらにも手を出してくる可能性はないか?」

口封じ。目撃者の処理とか。

「ただの目撃者なら手は出さないだろう」

青年は首を横に振った。

「だが、俺に手を貸したり、深く関わったら、消されるだろうな」

「……なるほど。最後通牒ってやつか」

引き返せるラインはここまで。これ以上は厄介事が確定。彼が頑なに、こちらを関わらせないのは、好意だと受け止めよう。

「そうか。これ以上は迷惑なだけか。わかった。あんたが意味なく通行人を襲うような奴でなければ、オレらはこれ以上は関わらない」

「それが賢明だ」

青年はそう言うと、一気に街道を駆けた。まるで風のようなスピード。魔法でも使っているのか。あっという間に去って行く。

自称冒険者たちを追ったようで、彼も王都方面へ向かった。

「……よかったの、ソウヤ?」

ずっと見守っていたミストが聞いてくる。もし青年が、話に聞いた通り獣人化した時に備えていたのだ。

幸い、彼は、こちらに一切敵意を向けなかったが。

一方、セイジは、ソウヤとは別に埋葬用の穴を掘っていた。ソウヤも穴掘りを再開する。

「さすがに嫌がっている相手に食い下がるのはな」

気にはなる。だが全ての事象に関わることなど不可能だ。

「そんな悪い奴には見えないんだけどな。街道の獣人の話、もうちょっと詳しく調べたほうがよさそうだ」

街道を通る一般人に犠牲が出ているようなら討伐すべきかもしれない。だが、そんなのべつ幕なしに襲いかかるような奴なら、先ほど戦闘になっていたはずだ。安易に決めつけるのは避けるべき事案と、ソウヤは判断した。

「いいの? あいつには、関わるなって言われたでしょ」

「でも噂にはなってる。その内容くらいを知るのは、むしろ自然だと思うがね」

商人なら危険を回避するためにも、この手の情報には敏感になる。討伐案件になっているなら、その内容は冒険者ギルドなどに告知されてる可能性もある。不特定多数が目にするそれを眺めることは、何の問題もない。

「あ、そうそう、忘れてた」

ソウヤはアイテムボックスから、浮遊バイクとソフィアを出した。得体の知れない敵性存在の可能性があったから、安全確保のためにソフィアもボックスに収納しておいたのだ。

「……って! いったい何があったのよっ!?」

突然、ソウヤに肩を掴まれてアイテムボックス行きだったソフィアには、何が起きたかわかっていなかった。時間経過無視のほうに収納したので、彼女にとってはほんの一瞬の出来事だったはずだ。

「大丈夫か? ぼーっとして」

ソウヤは、さも知らないふりをして、スコップを地面に刺した。

「え……? は?」

混乱するソフィアは、ミストやセイジを見た。

「どういうこと?」

「さあ?」

「何もなかったですよ」

ミストは肩をすくめ、セイジは遺体を埋めている最中。ふたりは慣れたもので、ソウヤが知らんふりを決めた時点で、アイテムボックスのことは伏せたのだ。

ソフィアは周囲を見渡し、釈然としない顔になる。

「ねえ、あの男はどこ?」

「あいつなら、もう行ったよ」

ソウヤは、怪訝なものを見る目になる。

「大丈夫か?」

「え、ええ、大丈夫よ! わたしは、何ともないわ!」

調子がおかしいと思われるのが嫌だったか、頭を振るソフィア。

その後、埋葬作業を終えて、略式ながら死者の冥福を祈ると、ソウヤたちは浮遊バイクに乗って移動を再開した。

――本当、何だったんだろうな、あいつ。

・ ・ ・

バイクで進めば、例の青年や、それを追跡している自称冒険者に追いつく可能性があると思っていたが、そんなこともなく王都まで到着した。

速度差を考えたら遭遇してもおかしくない。

――あの青年、追っ手を始末したのかな……?

あの冒険者を名乗った連中も気の毒ではあるが、どうにも信用できないところがあって、さほど同情していないソウヤだった。

――まあ、いいや。王都のギルドでその辺り探ってみればいいさ。

気を取り直して、もうひとつの用を済ませてしまおう。

「それで、ソフィア。王都に着いたが、どこに行けばいい?」

「魔法学校よ」

彼女は長い赤い髪を手で払った。

「知り合いの教師がいるのよ。彼に、会いにいくの」