作品タイトル不明
後日談191話、それは風の如く、稲妻の如く
風の守護者シルフィの横合いからクラウドドラゴンが殴り込む。雷のごとき踏み込みに、シルフィは瞬時に反応。灰色髪の女性戦士姿のドラゴンの真上へ跳躍回避した。
「後ろや上へ飛び退くと思ったか?」
シルフィは前へ飛ぶことで、クラウドドラゴンを飛び越え、その背後に回り込むと素早くターンした。
「お前も風だろう? わかるぜ、同じ属性の匂いってやつだ」
二つの剣を手に踏み込む風の守護者。クラウドドラゴンも地面を豪快に滑りながら方向転換。足に稲妻をまとわせ、瞬時にシルフィの眼前に飛び込んだ。
「!」
「……」
ドラゴンの目、美人の無表情は恐ろしいほど重々しいプレッシャーを放つ。一瞬、威圧されたシルフィだが、次の瞬間にきた電撃の蹴りを、頭一つのところですり抜けた。
攻撃に対して前のめり。前へと躱すシルフィ。
前傾すればその分、早く攻撃が当たる。だから人は反射的に後ろへ下がって被弾のタイミングを遅らせようとする。
しかしシルフィはそうしない。前へ屈んでも攻撃が当たるより早く避けられるからだ。
「風っていうのは、そういうもんだろう!」
「……」
クラウドドラゴンの体は、電撃の蹴りを出した直後、ゆっくりと空中にあった。否、ゆっくりに見えるのは二人の体感の話だ。秒に満たない刹那の一コマ一コマが、スローに感じられているだけで、外から見れば双方とも凄まじく早回しの世界にいた。
クラウドドラゴンは人間サイズのドラゴンの尾を出して、周囲を薙ぎ払った。とっさの形態変化。シルフィは目の前の灰色髪の女がドラゴンであるという事実は知らなかった。
だから鞭のように迫るドラゴンテイルは不意打ちであった。だがそれでもシルフィは左手のサンダーブレードを使い、とっさの防御に成功した。
反応できたのは、ドラゴンとは知らなかったが、目の前の女が『人間ではないもの』ということはわかっていたからである。
弾かれる。シルフィの体が。ドラゴンの尻尾の打撃は岩をも砕く。それだげの威力に剣が折れることもなければ、シルフィの手から離れることもなかった。こちらもまた、人間ではない。
「さすが同属。電撃の剣で痺れもしないか!」
崩されたシルフィの体勢だが、彼女は足が地につかなくても空中で姿勢を立て直すことを造作もなくやる。彼女は風なのだ。
人間ならば不可能な体勢からの右手のソニックブレードを振り下ろす。突風が衝撃波となって、クラウドドラゴンにヒットする。広範囲の一撃だが、とっさに構えた彼女は吹っ飛ぶだけで構えは崩さなかった。
「あなた、やるわね」
「お前もな」
淡々とクラウドドラゴン、不敵な笑みをこぼすシルフィ。対称的な二人。
次の瞬間、またも激突する。シルフィの真空の刃が横薙ぎに迫り、クラウドドラゴンは跳躍回避。そこへ風の守護者は続く電撃の一閃を縦に振り下ろす。回避の仕方によってはそれで詰みのコンビネーション。
だがクラウドドラゴンは、迫る電撃の刃を白刃取りならぬ、拳で挟んで受け止めた。自身の属性ゆえ、電撃無効があるにしろ、稲妻を受け止めるようなものだ。コンマ世界の早業だ。
地につかず、空中で姿勢制御できるのはクラウドドラゴンもまた同じ。拳での白刃取りの姿勢のまま、蹴りが繰り出される。
とっさに剣から手を放し、シルフィはその蹴りを躱す。だが次の瞬間には再びサンダーブレードの柄を握り、対であるソニックブレードの剣先をクラウドドラゴンに向けて衝撃波を放つ。
必中に思える至近距離、ノールックパスのように自然に繰り出される一撃。顔面への強打――しかしクラウドドラゴンは短く強くフッと息を吐いた。
風のブレス。溜めがないため、ドラゴンブレスとしては威力は驚くほど小さい。だが目の前の衝撃波を相殺するには充分だった。
まばたきの間に繰り出される超高速戦闘。一度離れ、そして二人は駆け出す。交差するは稲妻の如し。見えるのに目で追い切れない攻防であった。
・ ・ ・
その戦いは、あまりに目まぐるしい。見守っていたソウヤは、思い出したように呼吸した。
速すぎて、何とか目で追ったが、こちらが動く余裕がなかった。そしてクラウドドラゴンとシルフィの戦いは、風のようにどんどん流れて小さくなっていく。
息を呑んでいたミストも我にかえった。
「えっと……行っちゃったけど、追ったほうがいいのかしら?」
「追うのは構わないが、おそらく追いつけないと思うよ」
ジンがやんわりとした口調で言った。ソウヤとミストと違い、まったく動じたところもなく、落ち着いている。
「あの実力であれば、クラウドドラゴンも死ぬこともあるまい。我々は先に進むとしよう」
「大丈夫なのか?」
ソウヤは首をかしげ、歩き出す老魔術師を追った。
「戦いは互角に見えたが」
一つのミスでやられかねない高密度の戦闘だった。
「あれが互角に見えたのなら、まあ大丈夫だろう」
ジンはきっぱりと告げた。
「本物ではない守護者と、ドラゴンの自力。どちらが余裕があるかと言えば、ドラゴンのほうだ。それに加え、彼女はクラウドドラゴン。四大竜といわれる上級ドラゴンだ。守護者にも後れはとらない」
「爺さんみたいに、断言できればいいんだが」
ソウヤは苦笑する。
「世の中に完璧なものなんてない。小さな綻びが死を招くこともある」
「確かに、完全なものなんてないし、何が起こるかわからないのが世の中だ。次の瞬間、地割れが起きて、私が真っ逆さまに落ちるということもあるわけだ」
「……何の話をしているんだ?」
ソウヤはそこで、気配に気づき、正面を見やる。ミストがニヤリとした。
「またまた彼女のお仲間の登場ね」
銀髪の守護者。白銀の鎧のアクセントカラーは緑。銀髪を後ろに束ね、前髪はパッツン、そして眼鏡をかけている。冷静そうな雰囲気に反して、持っている武器は、水の守護者の巨大ハンマーに負けないほど大型の重量級戦斧。
「大地の守護者ノーマ。それが彼女の名前だ」
ジンは言った。
「そうそう、四姉妹の次女だ」