作品タイトル不明
後日談189話、水の守護者
美人なのは間違いない。イメージでいえば北欧のワルキューレを連想させる姿なのだが、どうにも中身のテンションがおかしい。
ソウヤは、自称『水の守護者』を名乗るディーネちゃんさんに、何とも言えない。気分になる。
――異世界人のオレが言うのもなんだけど、世界観なんかバグってるよな。
そもそも水の守護者とは何だろう? そのものズバリ水を守る者なのだろうか? 神竜の守護者ではなかったのか。
「で――」
ミストが槍を軽く振り回す。
「どうするのこれ。一応、ここから先には進ませないってことなんでしょう?」
「であるなら……叩くしかないのでは?」
クラウドドラゴンが気怠げに言った。アクアドラゴンが鼻をならす。
「フン、水属性ドラゴンの頂点たる私の前で、水の守護者と名乗るとは、何と恐れ知らずか」
カモンカモンと手招きするディーネ。見た目はまとも、態度はふざけているのか演技なのかわからないが、とりあえず黙って通してくれそうにないのは確かだ。
「とりあえず、私から行かせてもらう!」
バッとアクアドラゴン――少女形態は、一気にディーネのもとまで跳んだ。
「どちらが『水』に相応しいか、このアクアドラゴンが見せてくれるのだっ!」
ジャンピングキィィッーク!!
問答無用の高速飛び蹴り。足に水をまとい、さながら大波の如し!
「ほいっ!」
ディーネの手に巨大ハンマーが現れると、飛んできたアクアドラゴンを一発で打ち返した。凄まじい勢いで跳ね返された青髪ツインテール少女は壁に激しく激突した。……人間だったら即死だったかもしれない。
「アクアドラゴン!」
「アクアって、なんというか海って印象があるんだけど、何でだろうねぇ」
ディーネは、柄が長く、ハンマー部分が異様にデカい凶器をいとも簡単に振り回す。ジンは腕を組んで言った。
「ラテン語では『水』という意味だから、あれはあれで間違っていないんだが」
「爺さん?」
ソウヤは、緊張感が薄い老魔術師を見やる。いま、アクアドラゴンを簡単に吹っ飛ばされたのだ。そんな暢気にしていられる状況なのか。
「守護者……うーん、守護者」
などとジンが顎髭を撫でつつ考え込んでいる。
「どうしたんだ、爺さん?」
「いや、彼女がここにいる理由の辻褄が合わなくてね。ちょっと困っている」
「ひょっとして、あの守護者のことを知っていたり?」
「ここではない世界で、だが。……私は異世界トラベラーだからね」
だからこそ、わからないこともある、と老魔術師は言う。
「害のある存在ではないはずなんだが、ちょっと考える時間をくれ」
「ああ、どうぞ」
モヤモヤしていると戦いに集中できないし危ない。
「じゃあ、次はオレが行くぜ!」
「ソウヤ!?」
ミストが驚く横で、ソウヤは斬鉄を手に前に出る。クラウドドラゴンは言った。
「たぶん、私とは相性が悪い。任せる」
「おう、任された!」
ソウヤは駆ける。ディーネはハンマーを、野球のバッターのように構えた。
「さあこい、さあこい。打ち返してやんよーっ!」
これには猛烈に嫌な予感がするソウヤである。一見隙だらけに見える守護者だが、ソウヤのような近接型にはあの両手持ち巨大ハンマーが非常に厄介だった。
大ぶりの一撃など、一度避けてしまえば、その隙を狙えるように思える。が、その巨大ハンマーの範囲が広すぎて、避けるスペースがない。
屈もうがスライディングしようがハンマーに当たる。ジャンプならば飛び越えて攻撃どころではないところまで上がらないと、やはりぶん殴られる。
相手の背中側へ抜ければ、とも思ったが、野球ではないから一回転するくらいのスイングをすれば、やはり当たる。
そして先ほどディーネが、アクアドラゴンを素早く打ち返したようにスイングスピードも半端ない。
むしろ、スピードで挑めばアクアドラゴンと同じ末路だ。ここはかえって相手の攻撃範囲手前で止まり、タメを作れない戦い方をするほうが有利。
ソウヤは足を緩める。相手が強振しづらい間合いをとる。しかし――
「おやおや、いつからハンマーが近接専用武器だと錯覚したのかね?」
ディーネはニヤリとする。
「わたしは、水の、守護者だぞっ!!」
目にも止まらないハンマーの強振。そこから放たれたのは水の塊。
魔法!――かは知らないが、そういう魔法的投射攻撃を想像しておくべきだった。凄まじい勢いの大波。眼前のソウヤに避ける余裕なし!
波が弾ける! 吹き飛ば――ない!
「およ?」
ソウヤのいた場所に岩の柱が立っていた。ストーンウォールの魔法。大地竜を受け継ぐソウヤの魔法だ。
ディーネの大波ショットを岩壁が防いだのだ。
「でも、その岩の柱はぁ!」
ハンマーを振り、ディーネは岩壁を破砕する。砕けた岩がバラバラになって飛び散る――そのうちの一つが跳ね返った。
「いらっしゃいませーっ!」
ソウヤが斬鉄で砕けた岩を打ち返したのだ。
「!」
高速の弾丸となった岩はディーネの顔面に飛び、次の瞬間、頭から上が吹っ飛んだ。
「って――!」
ソウヤの体にもいくつか岩の欠片や塊が当たった。打ち返せる範囲は狭いので仕方がない。
「いてて……。うわ、やっちまったか」
人型で頭のなくなった体が残っているというのは、何とも後味の悪いものだ。ソウヤが引きつった表情を浮かべると、ディーネの体がもぞもぞと動いた。
「――いやー、しまったね。策士策に溺れるというやつですなぁ」
体から水が生えてきて、それがディーネの失われた頭を形作った。何事もなかったかのように、すべて元通りになる。
「いやぁ、お兄さん、強いね。脱帽だ」
水の守護者ディーネ。その存在は、人間にあらず。