軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談168話、お互い関心がない

「武器?」

「剣です」

「剣?」

「剣です」

ソウヤは淡々と繰り返した。ガラガランダ伯爵はピクリと眉を動かす。

元勇者を自称する青年には怒りもなければ、非難する様子もなかった。ただ事実を述べ、それが自然であるかのように伯爵に思わせた。

この男は、貴族を相手にしてもまるで怯んでいない。こういう手合いは、普段から高貴な身分のものと接し慣れているのだ。

そこらの素人が勇者を騙るのとは違う。絶大なる自信と、それに裏打ちされた芯が存在しているのだ。

本当に勇者なのではないか。ガラガランダは、ソウヤに対してそのような疑いをいだいた。

「武器については、わしは関心がない。ここにバァ鉱物を持ち込んだ者が、一緒に運んできたが……まあ、よいだろう」

ついてくるがいいとガラガランダは手招きした。

「本当に武器だけでよいのか?」

実は鉱物の方も取り返そうとしているのではないか? 何せバァ鉱物は、この世界に存在する鉱物のなかで幻といわれるほどの超希少なものだから。それを売れば、それこそ屋敷など軽く手に入れられるほどの額となろう。

「正直、私も鉱物の方には関心がないのです、伯爵」

ソウヤは皮肉げに返した。

「私が振り回す武器が、これでしか耐えられないというので、バァ金属に頼っただけです」

その言葉に、ガラガランダはムッとした。鉱物に関心を持たない人間には心底冷たい伯爵である。

「お主は、この鉱物で武器を作らせながら、その価値がわかっておらん」

「伯爵、価値なんてものは人それぞれなんですよ」

ソウヤは淡々と言った。

「あなたが鉱物を大好きな気持ちをわかる人間もいればわからない人間もいます。そしてあなただって、私がいかにその武器が必要かご存じないし興味はない。人の命がかかっている、それでも所詮他人のことなどどうでもいい。……そう考えるのなら、価値とはいったい何なのでしょうね」

「お主と哲学を語る気はない」

人に関心が薄いガラガランダは目的の場所で足を止めた。魔術師たちがバァ鉱物と共に運び込んだ白き大剣……のようなものが台の上に載せられている。

「黒い鉱石も磨けば白くなる。……これはこれで興味深くはあるがね」

ガラガランダはソウヤを見た。

「これはお主の武器と言ったが……振り回せるのかね?」

「手にとっても?」

「構わん」

それでもしソウヤがガラガランダを攻撃してきたとしても、彼は動じない。

「少し離れて。危ないですよ」

ソウヤは一言注意をし、その剣らしきものを取った。ほぅ、とガラガランダは感心した。

なるほど、これは大剣だ。青年の鍛えられているがそこまで太くない腕は、見るからに重そうな金属の塊を支え、あまつさえ振り回した。

ブン、ブンと風が吹く。素振りの風圧でさえ、ややも強い風となる。ピンと伸びた背筋。躍動する筋肉。そして猛禽のように鋭いソウヤの眼光。

「実に見事なものだ」

伯爵が鉱物以外で美しいと思ったのは、亡き妻以外にはこれが初めてだったかもしれない。

「お主専用の武器というのも納得だ。その剣を実に上手く使いこなしている」

ガラガランダは剣については若い頃に学んだ程度で、今では錆びついてしまっている。ほとんど素人に毛が生えた程度なのだが、それでもバァ金属の剣とソウヤが、長年連れ添った相棒と呼ぶにふさわしいフィット感を感じるのであった。

「どうも、伯爵。私が前に使っていた斬鉄という鉄の塊があるのですが、あれに近い感じです。作り手が使い手に寄り添って作ったのがわかるいい品です」

ソウヤは剣を後ろに下げると、ガラガランダに向き直った。

「では、こちらの物は私のものなので、受け取らせていただきます。……よろしいですね?」

「よろしいもなにも、お主のものであろう。持っていくがよい」

ガラガランダは躊躇いもなく言った。ソウヤはそれが彼の本心であることを察した。

「それでは、私はこれにて。お邪魔しました」

「足労だったな」

・ ・ ・

伯爵のコレクションルームを出たところで、執事長が警備の兵と控えていた。何かあればすぐに駆けつけられるように。

執事長は一礼した。

「お出口までご案内申し上げます」

屋敷内を適当にぶらつかれても困るということなのだろう。ソウヤは解散する兵たちをよそに、執事長についていく。

「質問してもいいですか?」

「何なりと」

「伯爵閣下は、武器に関心がないと仰せでした」

「はい。あの方の関心には武器はありません。すべては鉱物、鉱石でありますから」

「なら、どうして剣を持っていったんです?」

バァ金属の武器だから持ち去ったのかと思ったが、ソウヤがバァ鉱物に関心を持たないように、ガラガランダもバァ金属の剣に執着していなかった。

「あれは入手担当が勝手にやったことでございましょう。聞けば実際の交渉人は、ずいぶんと荒っぽい方のようで……。細かなことは存じ上げませんが、あなた様が赴かれたというとは、御迷惑をかけられたのでは……?」

「まあ、余計な回り道をしましたがね」

ソウヤは皮肉った。

「ずいぶんと荒っぽいやり方で持っていかれました。我が友人が怪我をし、工房も破壊された。……慰謝料を分捕りたいので、その交渉人とやらがどこにいるか教えてもらっても?」

「それは災難でしたな。……しかし困りました。その交渉人は、難癖をつけて追加の報酬を要求してきたとかで、処分してしまったと報告を受けています」

「……それは、困りましたね」

依頼していただろう伯爵側から殺されるとか、ひどい悪徳交渉人もいたものだ。一瞬、伯爵の口封じかとも思ったが、もし彼がそういう気質であれば、ソウヤに対してもとっくに手を出していただろう。

そしてその時は、屋敷が怒れるドラゴンによって踏み潰されていただろう。

ロッシュヴァーグの借りを請求して、必要なら荒事で始末をつけようと思っていたソウヤであるが、これでは振り上げた拳の落としどころがない。

「ご足労をおかけしたお詫びではありませんが、慰謝料についてはガラガランダ伯爵家のほうで立て替えさせていただきます」

執事長はそう言うのであった。