軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談167話、元勇者と伯爵

「……何か用か?」

ガラガランダ伯爵は、バァ鉱石をじっくり眺めながら言った。

後ろに執事長が立ち、たっぷり待たせた頃、ようやくにして問うたのだった。

「伯爵閣下に面会したいと来訪者が来ております」

「約束はあったか?」

貴族との面会というのは事前に予約をするものだ。その日の思いつきで会えるような身分ではなく、それでも敢えて来る場合は、国がひっくり返るほどの一大事があった時くらいのものである。

「アポイントメントはございません」

執事長はキッパリ答えた。たとえ伯爵が忘れていても、その日のスケジュールを忘れることはない。老練な男である。

「では追い返せばよかろう。わしは忙しいのだ」

鉱石をじっくり、つぶさに観察し――そこで伯爵は振り返る。

「と、そんな単純な話ではないのだろうな」

その程度で済むなら、わざわざ執事長がここに来て、ガラガランダの判断を仰ぐようなことはしない。重大事の使者か、捨て置けないほど身分の高い者――貴族であれば伯爵以上が来訪したのだろう。

「相手は誰かね?」

「アイキ・ソウヤと名乗っております」

「……」

ガラガランダは視線を上げた。

「ふむ……知らん名前の気がするが、どこかで聞いた気もする。何者だったかな?」

貴族ではないような……しかし聞き覚えがあるような――

「三年ほど前、魔王と刺し違えた勇者の名前でございます」

恭しく執事長は答えた。勇者と聞いて、ああそういえば、とガラガランダも思い出した。直接会ったことはないが、名前だけは知っている。

「いや、しかし……勇者はすでに死んでいたはずだが?」

刺し違えた、と執事長も言っていたから間違いないはずである。

「はい。ですので偽名か、なりすましでございましょう」

「なりすまし……などできるのかね?」

有名人になりすまそうとする輩は存在するが、もっと他にもあるだろうに。

「かの勇者は一度死んだと発表され、その後復活したことがございましたから。可能性は低いですが皆無ではございません」

とはいえ――執事長は言った。

「おそらく偽名として使ったのだと思われます」

「ふむ……。それで、そのアイキ・ソウヤなる人物は、何用で来たのか?」

「プライベートな招待だと申しておりました」

「わしは誘ってはおらん」

「もちろん承知しております」

執事長の目が光った。

「どこで聞きつけたのか、バァ鉱物がこちらにあることを知っておりました。伯爵閣下の友人を騙り、招待されたとも」

「とんでもない話だ」

ガラガランダは視線を転じる。もちろん友人のリストに、アイキ・ソウヤなる人物はない。そもそも、彼の短い友人リストは片手の指で数えられるほどの人数しかいない。……つまりは忘れている、ということはない。

「しかし、バァ鉱石の話を何故知っているのだ……?」

他言したおぼえはないし、そもそも漏らすような相手もいない。雇った魔術師たちが、仕事の話をベラベラ喋ったとしても、ここまで早く来訪者がくるのは無理があるのだ。

「気になるな……」

「いかがいたしましょう。門前払いにしてもよいのですが」

偽名を名乗って現れた者である。怪し過ぎる。

「いや、会おう。どこでバァ鉱物のことを知ったか気になる」

「はっ、ではそのように」

執事長は一礼すると場を離れた。ガラガランダは自身の髭を撫でつけつつ、鉱物を見やる。

友人を騙り、偽名を名乗りやってきた。そして用件はバァ鉱物。いい予感はしなかったが、それでも好奇心は抑えられなかった。

何より、もし『敵』であれば叩き潰さねばならない。ガラガランダは自身の鉱物コレクションに害する者には一切躊躇いはなかった。

・ ・ ・

執事長が戻ってくるまで、かなり待たされた。だが入ってよいと言われると、ソウヤは内心驚いた。ここまできたら追い返されるかと思ったのだ。

案内されたのは地下。何やら嫌な予感がした。このまま屋敷の地下に引き込んで始末する流れも予想したが、ついた先は鉱物の置かれた倉庫だった。

――伯爵自慢のコレクションってやつか。

そして、ガラガランダ伯爵と面会した。厳めしいお顔。真っ直ぐ伸びた背筋。紳士……の範疇であろう。

「伯爵閣下、アイキ・ソウヤ様をお連れ致しました」

「うむ」

伯爵が頷くと、案内した執事長は下がった。

「さて、勇者の名前を騙る者よ。わしに何のようかな?」

「お初にお目にかかります、伯爵閣下。私は相木ソウヤ。騙ったのではなく、本名です。今は勇者ではないんですよ」

「用件は?」

「門番にも話したのですが、バァ鉱物を見に来たのです。ここに運び込まれたようだったので、遥々エンネア王国からやってきました」

「どこでバァ鉱物のことを?」

伯爵は尋ねた。この屋敷に辿り着いた理由が気になるのだろう。ロッシュヴァーグ工房から盗み出している、つまり真っ当な方法で方法で手に入れたわけではないので、余計に気になっているのだろう。

「なに難しい話ではありません。あのバァ鉱物をロッシュヴァーグ工房に託したのは、私なんですよ」

ソウヤはすっとコレクションの中にあるバァ鉱石を指さした。

「あれも、私が持ち込んだものなんですよ。……後は言わなくてもわかりますね?」

「取り戻しにきたのか」

ガラガランダ伯爵の視線が鋭くなった。ソウヤは笑みを浮かべる。

「そちらの石ころについては、閣下に進呈いたしますよ。返してほしいのは、鉱物と一緒に持って行かれた武器の方です。あれは私の注文した品でしてね。これについては返却いただかないと、少々面倒なことになるんですよ……」