軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談161話、あれも慣れ、これも慣れ

ロッシュヴァーグにバァ金属をインゴットを解説書付きで渡した時の顔を、ソウヤは忘れることはできない。

言っては悪いが、人は本当に驚くととんでもない間抜け顔になることもあるという例である。

『こんなに沢山!?』

『古い地下遺跡で見つけた』

『この取り扱いの解説書は?』

『古代文明研究家が翻訳した』

嘘ばかり並べたが、本当のことを言えるはずもない。浮遊島のことさえ伏せているのに、伝説のクレイマンの話をできるわけもなかった。

ロッシュヴァーグとしてはソウヤの嘘を疑っている様子はなかったが、ただただ驚きに思考が追いついていないようだった。

『任せてもいいな?』

『あ、ああ……。最適な取り扱い方の方法も書いてあるからなぁ……。しかしソウヤよ、この量は――』

『あんたがこの金属に慣れるようにお試しできる量はあるはずだ。コツをつかんだら、本番をやってくれたらいい』

いきなり使ったことのない素材を渡されても困るだろう。伝説のクレイマン王ことジンが『最適』の方法を記したとはいえ、職人としては自分で確かめたい、他人の記録を鵜呑みにしたくないというのが本音だろう。

自分の仕事に拘りがあればこそ、しっくりくるまで、あるいは納得できるまで手に馴染ませたいに違いない。

これで金儲けしか頭になければ、お試し資材を売って金に替えるだろうが、ロッシュヴァーグはそういうことはしないのはわかっている。売ってくれても構わないが、それで市場がどうなっても知らない。

ロッシュヴァーグがバァ金属に慣れ、武器を作るまでしばし日にちもかかる。ソウヤはその間、受け継いだアースドラゴンの力を自らのものにすべく、大地と一体になる感覚を慣らしていた。

「最近、ソウヤが動かない件について」

ミストが言えば、ファイアドレイクであるフラムが、精神統一中のソウヤの周りをぐるぐると――

「おとーたん」

「はーい、邪魔しちゃダメよ」

ミストは、すっとフラムを抱え上げると部屋を後にした。

「フォルスが心配と言っていたけれど、まあ……」

ソウヤの精神がここではないどこかへ消えてしまいそうになった云々とよくわからないことを言っていたのを覚えているミストである。アースドラゴンが死亡し、その力を引き継いだことで、ソウヤの中で何かが変わりつつあるのを感じている。

「んー?」

「何でもないわよ、フラム」

何事も慣れである。ソウヤが深淵だか何だかを見たとか半信半疑ではあるが、そのうち綺麗に収まるだろうと信じている。彼は元勇者であり、様々な困難も克服してきた。実際、力のもとであるアースドラゴンはあれで元気に長生きをした。ソウヤがそれを扱いこなせないわけがないのだ。

『……深淵はな、怖いぞ』

影竜の言葉が、ふと脳裏を過る。

『吸い込まれる感覚がしたかと思えば、方向感覚がなくなる。何を言っているかお前には理解できないかもしれないが……とにかく恐ろしいものなんだ』

『ワタシの霧とどちらが怖い?』

『感覚がなくなるという点で、深淵だろう』

影竜は即答したのだった。

『どこまでが自分で、その自分の形すらわからなくなるのは……怖いぞ」

・ ・ ・

砂粒の宇宙。その中にあるのは無限。

ソウヤは意識を広げ、それを溶け込ませる。境界線を超えて、否、混じり、一体となる感覚。

最初はそれが怖いことのように感じた。ただ一度目より二度目、二度目より三度目と不安や恐れの感情は薄れていった。

これが慣れというものだ。人は初めてを恐れるが、それほど恐れるものではないことがわかってくる。

だが危険があるのもまた事実だ。その危険が何かわかれば、避けることができる。わからないが怖い理由は、その危険が何かわからないことにあるのだろう。

広がった自分の意識を、ソウヤは体へと戻す。つかみかけた何かについて、相変わらずはっきりしないがわかりかけている気がする。

一歩ずつ前進しているという感覚はあった。

浮遊島の屋外へ出る。地面を踏みしめる。空にあって、かつては地上であったこの島。ソウヤはしゃがむと、その砂を手ですくった。

この無数の砂の中にあるもの、それを覗き込む。そしてソウヤは砂の中の無限に触れ、形を変えた。砂は固まり、黒い鉱物へ変わる。

バァ金属、いやその前身であるバァ鉱物というべきか。

「あ……」

わかりかけていたこと、その一部の答えが目の前にあった。砂粒の宇宙に見た力を働きかければ、ただの砂は鉱物となり、あるいは別のものに変えられる。

それでよい、とアースドラゴンの声が聞こえた気がした。大地の声に耳をすまし、大地と一体になる。その果てにある力の一部をソウヤは獲得したのだ。

「何か、掴んだようだね……」

いつの間にかジンが立っていた。

「力を感じた。だから、何事かと見にきたのだが……それも大地竜の力なのかな?」

「そうだ」

ソウヤは、手の中の石ころを老魔術師に見せた。

「調べてくれるかい、爺さん。たぶんこれ、別の鉱物に変わっている」

「変換魔法……に近いものがあるが、それだと俗っぽいかな。君のそれは多分違うんだろうね」

ジンはソウヤから石を受け取った。

「君もアースドラゴンの自覚が出てきたんじゃないか? 彼の力を継承したのだから、そこらのドラゴンと一緒でも困るがね」

「カイザーのご命令には、謹んで従うことにするよ」

「よせよせ、私は命令なんて嫌いだ。君は部下でもないし、友人として付き合っていきたいものだがね」

老魔術師は笑い、ソウヤもまたニヤリと笑った。