作品タイトル不明
後日談149話、地底城の外
「さてさて、どうしたものでしょう」
ルフ・ペルスコットは、可愛らしく首をかたむけた。
それだけで、周りにいるペルスコットの戦闘員たちは緊張する。傍目にはわからないように平静を保っているが内心では、ペルスコット家の当主である彼女に、皆おののいている。
前当主は、人前に現れず、その殺しについては神格化されているところもあった。
だが、今の当主はどんどん人前に現れ、メイド衣装というふざけた格好ながら、失態には容赦がない冷酷女。涼しい顔で敵やしくじった部下を処分していく、ある意味、殺し屋当主らしい当主であった。
なお、戦闘員たちは、彼女が当主代行であり、実際の当主ではないということを知らない。
その真の当主、ガル・ペルスコットは、前当主同様、人前――ペルスコット家の前には現れなかった。
そして当主代行であるルフが困ってしまったのは、当主であるガルが魔王軍残党の地底城に乗り込んだのだが――
「お城がドラゴンたちに制圧されてしまった」
魔王軍残党への攻撃を命じたルフ。残党の拠点捜索の時点で、何故、魔王軍を狙うのかわからないと考える構成員も少なくなかったが、当主命令であれば仕方がない。……事実、魔王軍残党への報復活動については、真の当主であるガルの指示でもあったから、ルフが権限を無視して実行したわけでもない。
ペルスコット家の当主の命令であることに間違いではなかった。が、それが納得できるかは別問題である。
とはいえ、反対する者は、『当主の命令に反抗した』と処分されてしまったが。ルフとしては、ガルの命令に反抗したという理由があるからこそ、容赦なく部下でも殺せたわけだが、そうとはしらない構成員たちは、ルフは命令に従わないことを許さないタイプと、恐れる一因となっていた。
閑話休題。
突然現れた複数のドラゴンは、地底城を攻撃し、魔王軍残党の掃討を開始した。ペルスコット家の戦闘員たちが、刺客を送り込むための陽動をしている最中、ドラゴンたちは大暴れ。
結果、戦闘員たちは城から離れた位置で傍観するしかなくなっていたのである。
「……」
ルフは、普段は笑みを貼り付け、感情を覗かせない鉄面皮な面があるのだが、今はすこぶる機嫌が悪そうというのが、殺ししか興味のない馬鹿たちにもわかった。
こういう感情を覗かせる彼女は珍しい。部下を処分する時も営業スマイルのまま殺すような女性である。
まさか、ドラゴンと戦って城を手に入れろとか命じるのではないか――戦闘員たちは表には出さずとも、戦々恐々としているのである。
果たして、ドラゴンに挑んで死ぬか、命令不服従でルフに殺されるか、どちらがマシなのかと秤にかけるくらいには。
誰もが黙っている。余計なことを言って、当主の怒りを買いたくない。特に普段と違う彼女である。その怒りの導火線が、どこにあるのかわからなかった。
そんな部下たちの緊張をよそに、当のルフの内面は大いに荒れていた。
――ああもう、ガル様は無事? それともやられてしまったの?
当主代行である。当主ではない。彼が死んだら、誰が当主をやるのか? 次期当主候補の一人として、地位を争ったルフであるが、今の代行という立場は気にいっている。
何より、メイド服という服装のアイデンティティーを守ることができる。表向き当主。だが実態は、裏ボスの操り人形。その立場を思えば、このメイド衣装は実に最適で、真実を物語る。
構成員たちが、当主なのにメイドの格好などやめてほしいと思っていても、それを無視して、ルフの内の変態性を満足させる最適なポジションが、この当主代行という立場なのである。
仕える主がいてこそのメイド。当主になるなど、もってのほか。
だから息を吸うように人を殺し、何とも思わないルフが、唯一、生死を気にするのが、現当主ガルの存在であった。
――ドラゴンは、魔王軍と敵対している……。
その情報は、ルフも知っている。魔王軍残党を追う過程で、ドラゴンたちもまた魔族を狩っていることがわかった。
何故、ドラゴンが魔王軍残党を敵視しているかは知らないが、今回の地底城襲撃も、それ絡みであろう。
――ガル様とは、敵対しているわけではないから、まだ希望があるけれど……。
しかしドラゴンは、自分たち以外の存在など、アリのようにしか見ていない。人間がいようがいまいが、関係なく魔族もろとも吹き飛ばす。巻き添えを食らっていないか、それが心配であった。
――ドラゴンたちは地底城を完全破壊しなかった。何故だかはわからないけれどそれならば、ガル様も難を逃れている可能性は高い!
カリュプスという暗殺組織の残党と共に、地底城にいる宿敵を抹殺に向かったガル。果たして、その結果はどうなったのか?
城が制圧され、残党が滅びた今、すぐにでも調べにいきたいのだが、見境のないドラゴンたちのいる場所に乗り込むのは、よいアイデアとは言えなかった。
彼らは、テリトリーにうるさい。地底城を自分たちの住処だと主張されでもしたら、侵入するのは自殺行為。マグマに突っ込むようなものである。
じっと見つめていた城から、すっと目を離し、戦闘員たちを見やる。無意識のうちに彼らは首をすくめたように見えたのは気のせいか。
実際、ドラゴンが居座る城に突撃しろと命じられるのでは、と戦闘員たちは無意識のうちに身構えていた。ペルスコットの戦闘員たちも、ドラゴンに喧嘩を挑む愚かさは知っているのだ。……殺し以外に興味のない馬鹿にでも。
その時だった。
『そこにいる人間ども!』
高圧的な、しかし脳に大音量を直接ぶち当てるような念話が、ルフや戦闘員たちに届いた。
無遠慮かつ一方的な直接交信。ペルスコット家所有の飛空艇『カラスノス号』のクルーたちがドラゴンに近くを通行された際に、ぶつけられたそれである。
『お前たちは、ガル・ペルスコットの関係者か?』
突然ガルの名前が出てきた。ルフはもちろん、戦闘員たちも困惑する。
『そうであるなら、代表者を一人よこせ。そうでなければ、全員城に背を向けよ』
何という念話――皆、困惑する中、ルフは溜息をついた。
「あちらがそれを望んでいるのであれば、そうしましょう」
「ルフ様……?」
「ちょっと行ってきます。皆さんは、ここで待機していなさい」
「よろしいのですか? ……いえ、失礼しました」
ルフに睨まれ、余計な口出しをするなと言われた気がして、部下は萎縮した。
「まあ、満更あてがないわけでもないですし、何とかなるでしょ」
ガルにはドラゴンの友人がいるという話を聞いたことがある。あちらがガルを知っているのであれば、話ができないことはないだろう。
ルフは背筋を伸ばし、メイドらしくしずしずと地底城へと向かった。