作品タイトル不明
後日談138話、吸血鬼、現る
地底城の 天守閣(キープ) を目指すガル、グリード、トゥリパ。
騒ぎで混乱する城内にあって、所々に配置されている魔族兵たちだが、それらはガルたちを目撃した次の瞬間には、首などを切り裂かれ、倒れふす。
ガルも素早いが、グリードとトゥリパのもまた相当なもので、特に誰がどの敵をやるか指示や合図をするでもなく、それぞれがきっちり始末していた。
だからその移動速度は、まさに風のようであり、足を止める間もない。
疾風迅雷。
雑兵に止める術はなし。
長い階段を駆け上がり、広いフロアに辿り着いた時、小癪な男の高笑いが響いた。
『フフフフフっ、はははははははは! フはははははっ!』
反響する声。明らかにそこらの魔族兵とは違う。ガルたちも足が止まる。そのまま駆け抜けて、背中を見せたら攻撃される――それを予感したのだ。
『いやはや、見事なものです。人間にしては、早いですねぇ、アナタたち』
ふっと黒い霧のようなものが現れ、痩身の男の姿となった。ガルはダガーの構えを変える。
「ヴァンパイア」
「左様。魔王軍幹部、吸血鬼カネール……。以後、お見知り置きを」
恭しく、否、嫌味にもとれる礼の姿勢をとるカネール。吸血鬼特有の、人間を見下したそれは、慇懃無礼そのもの。
「いや、本当に早かったですよぉ、アナタたち。最初にアナタ方の船に潰されて、ここまで追いつくのに苦労しましたからねぇ……」
雑談するようなカネールだが、暗殺者たちがそれに耳を貸すはずもない。
グリードが腕を瞬時に振ってナイフを投擲。吸血鬼の心臓めがけてのそれは、カネールの胸をすり抜けた。ニンマリするカネール。
ガルが動いていた。瞬時に肉薄すると、吸血鬼の側頭部を狙った一撃を叩き込み――否、すり抜けた。返す刃で心臓を一突きするガルだが、それもまた空を切った。
吸血鬼だったものは黒い粉のようになって飛散する。
「おやおや、いけませんねぇ」
後ろでカネールの声がした。グリードが叫ぶ。
「トゥリパ!」
「まずは、いただきます……」
カネールはいつの間にかトゥリパを背中から抱きついて、彼女の首筋に牙を突き立てた。グリードは舌打ちする。
「ガル、こういう時、どう助けるのが正解なんだ!?」
吸血鬼がトゥリパに組み付いて近すぎる。ナイフを投擲しようとしたが、カネールの頭がトゥリパの頭の向こう側にあるため、グリードからは投げられなかった。
そうこうしている間に、吸血行為は終わった。
「やはり、若い人間の血は美味ですねぇ。フフフフフ――」
カネールが、トゥリパから離れた。力が抜け、ぐったりする彼女をよそに、グリードはカネールに飛びかかる。
「てめぇ!」
「おやおや、仲間の女性がヤられて逆上ですか? ひょっとして、彼氏君だったりしますぅ?」
吸血鬼の蹴り上げた足が、グリードの顎を吹っ飛ばした。先ほどよりも機敏。そして威力のある一撃に、グリードは数メートル吹き飛び、大の字になって倒れた。
ガルが再び、カネールに迫る。視線の端でそれを捉えた吸血鬼はニヤリとした。
「いいんですか? お仲間がいるんですよ?」
ガルとカネールの間に、すっとトゥリパが入った。紫に変色しつつ肌。血走りつつもがらんどうな目。吸血鬼に血を吸われた者は、その眷属となる!
微笑んでいる間に相手を殺す――それが特技のトゥリパである。その腕の動きは、瞬きの間に相手に届くというほど素早く、それを知っているガルは辛うじて、避けた。
「トゥリパ……!」
「身体が、かって、に――」
意識も半分もっていかれているようなトゥリパの声だった。
「ころ、して――」
「――すまない」
ガルは、トゥリパの心臓に一撃を入れた。吸血鬼に乗っ取られつつある身体を治療する術は、ここにはない。聖女レーラがいたのなら、まだ助かる望みはあったかもしれない。だが、彼女はここにはいないのだ。
「おや、いやにあっさりと始末しましたねぇ」
カネールは嫌味な笑みを浮かべている。
「ここに乗り込んでくるだけあって、覚悟は完了している、ですかぁ? いやぁ、ここまでの行動を見るに、アナタ方はどこかの国の特殊部隊か、暗殺者というところでしょうか」
「――」
ガルはカネールにミスリルソードで挑みかかる。吸血鬼は一瞬、目を剥いた。
「これはこれは、魔法銀の剣ですか。中々嫌なものをお持ちだ。しかし、先ほどまではリーチの短いダガー。普通、逆ではありませんか?」
「――」
ガルの殺意と共に振り下ろされる刃。その速度は、ダガーより重量があるショートソードをしても変わらない。
「なるほどなるほど、リーチの差など、自分の素早さの前では関係ないということでしょうか。確かに剣の達人は、包丁で大剣相手にも勝てるらしいですからねぇ……」
「――」
「ですが、私には届きませんね」
カネールが、剣を躱し、カウンターのパンチを放つ。それは空を切ったが、ガルを驚愕させるだけのものがあった。
「吸血鬼はこのような 形(なり) ですが、パワーとスピードは人間のそれを遥かに上回っているんですよ。今のもアナタだから避けられた。普通だったら、いまので顔面トマトでしたよー?」
カネールが攻勢に出る。繰り出す腕を、ガルは素早く後退して避ける。だがカネールもピタリと食いついて、間合いが離せない。
「言ったでしょう? 吸血鬼のスピードを侮るな、と。アナタは人間としては早いようですが、この魔王軍幹部四天王の私からは、逃げられな――い!?」
強烈な力を側面より感知。カネールは追撃をやめて、飛びのく。刹那、激しい力に壁が砕け、飛び散った。舞い上がる砂埃。壁の一角がなくなり、地底城の外が丸見えになる。
「ちっ、外の戦いの余波か……!?」
大方、外で暴れているドラゴンらの放ったブレスが掠めたのだろう。
「あー、また臭い臭い吸血鬼のニオイがするんだなぁ」
降って湧いた少女の声。砂埃が散ると、そこには青髪ツインテール少女が立っていた。その姿にカネールは目を剥く。
「ゲッ!?」
「だーれが口を開いていいって言ったぁ? ヴァンパイア」
ツインテール少女――アクアドラゴンはメンチを切った。
「コロすぞ」